THE B-TEAM 実況野郎文芸部
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特集コーナー
たろちん「一番いいこと言った人が総理大臣になればいい」
1年間、B-TEAMで書き手の修行をさせていただいて思ったことが1つある。ライターの人と飲みに行くと面白いということだ。1人1人が独自性のある思考で勝負しているから雑談を聞いていてもためになるし、わけのわからないエピソードもたくさん持っている。酒飲みの端くれとしてここを文面に起こさなければと思い至った。記念すべき最終回は、これまでの特集でお世話になった米光さん豊崎さん、藤田さんをお招きして狂乱の宴を開催することと相成ったのである。
たろちん とりあえず飲み物頼んじゃいましょうか。生でいいですか?
米光 ぼく、シャンディーガフ。
豊崎 ハーフ&ハーフにしようかな。
藤田 寝かし玉露ハイっていうやつにします。


 いきなり衝撃の事実が明らかになる。一線級のライターともなると「とりあえず生」などという凡人の浅はかな常識はまるで通用しない。人の一歩先の発想をするという基本が最初のドリンクチョイスにも表れているのだ。


たろちん 食べ物も頼んじゃいましょうか。
藤田 今すごいクリームブリュレが食べたい。
たろちん フィナーレの食べ物じゃないですか。ここはお魚がおいしいらしいですよ。
豊崎 地鶏の岩塩焼きお願いします。
米光 おにぎり6種類もあるね。


 人の話を聞かないというのも独自の発想力を保つためには重要なことのようだ。


たろちん 今日はですね、ライターの皆さんがどんな生活をして、どんな仕事をしているかという事、それからどんな事を考えているのかという話をお聞きしたいんですけど……なんで皆箸袋折ってるんですか。
藤田 間が持たなくて。
米光 話が長くなるとあっという間に興味なくすのがライターの生態であった。
たろちん どんな種族ですか。そもそもライターになろうと思うきっかけはなんだったんでしょう?
豊崎 わたしは消去法でしたね。就職難の時代で三流大学出身の自分に職なんか見つかるわけないと思ったし、朝早く起きたり制服着たりするのも嫌だなあと思って。それで編集プロダクションに潜り込んだ。
米光 え、最初は編集者志望だったんですか?
豊崎 でもライターの書く原稿が不満で勝手に直したりしてたの。編集者は書き手を育てなきゃいけないのにその根気がなくて、向いてないなって思った。
藤田 すごくよくわかります。あたしも編集者養成の専門学校に行ってたんだけど、編集能力より文章を誉められて「あたしはライターに違いない!」って思い込んじゃった。
豊崎 それで書く仕事もするようになったんだけど、原稿料は私の売り上げとして会社に入れてたのね。で、気がついたら給料14万なのに原稿料は60万くらいになってて、これ辞めたほうがいいじゃんって。だから、どうしてもライターになりたかったって訳じゃないですね。


 意外にも最初からライターを目指す人は少ないらしい。編集の才能が無いほうがライターには向いているということだろうか。とすれば僕にも希望がある。基本的に何の才能も無いからだ。もちろんライターの才能も無い。あ、駄目だ。


僕が話してるのに箸袋を折り折りする大人たち。
僕が話してるのに箸袋を折り折りする大人たち。


米光 ぼくは文章を書くのが好きで、学生時代からラジオや雑誌の常連投稿者だった。採用される賞金目当てで、バイト感覚でやってたな。
たろちん ハガキ職人! それってどういうこと書くんですか?
米光 え、なんかおもしろいこと。すっころげてブー、みたいな。
たろちん 昭和初期のギャグじゃないですか。
米光 で、まあゲーム会社に就職して、文章はネットに趣味として書いてた。実写版ドラえもんのシナリオとか書いてたら、たまたまそれを見つけた編集者が面白がって、映画評の連載をくれたのが始まりかな。


 米光さんのほうが出発点が近いかもしれない。僕も以前はHPにすっころげてブーみたいなこと書く活動を精力的にやっていた。アクセスは1日10人くらいで、編集者どころか友達も見てくれなかった。今のところ絶望の感情しか湧いてこない。


豊崎 バブル期は雑誌がたくさん立ち上がったから、どこもライターを欲しがってて、どんな人でも15万くらいは稼げたのよ。今なりたい人は最初のとっかかりが大変かもしれない。
たろちん そうなんですか……。
藤田 でも逆にいうとブログとかでチャンスは広がってますよ。
たろちん じゃあ僕たちにもチャンスはあるんですね!
豊崎 そういうのはアライさん(アライユキコ、B-TEAMの企画発足・編集担当、フリー編集者)みたいな奇特な人だけで、今の編集者は少ない人数で雑誌作らされてへとへとだから、新しい人を探してる余裕なんてないよ。
たろちん ないんですね。
アライ ネットに面白い人がいるのはもっとみんな知るべきですよ。
豊崎 だから、アライさんみたいな狩猟タイプの編集者は、今珍しいんだってば!
藤田 でもブログから本を出す人もたくさんいるじゃないですか!
豊崎 そんなの一握りだって!!
米光 このおにぎりおいしいねー。


 それぞれの価値観でヒートアップする大人たち。僕もビールをぐびりとやったら、いつもよりちょっと苦かった。


トヨザキ社長の通り名にふさわしい含蓄あるお話をたくさん聞かせていただいた。
トヨザキ社長の通り名にふさわしい含蓄あるお話をたくさん聞かせていただいた。


たろちん 皆さん、飲み物のおかわりはいいですか?
豊崎 皆焼酎飲むならボトルを一本入れようか。
藤田 いいですよ。
たろちん いいですよ。
米光 ぼく、シャンディーガフ。


 男は決して流されない。貫き通せ、シャンディーガフ。


米光さんは肉眼では捉えきれないスピードでシャンディーガフを飲む。
米光さんは肉眼では捉えきれないスピードでシャンディーガフを飲む。


豊崎 バブル時代のマガジンハウスなんかすごかったよ。2時に待ち合わせした編集者が4時ごろ出社してきて、「豊坊! 飯食いに行くぞ!」って言うのね。そしたら今来たばっかりなのに出勤ボードに「直帰」って書いてわたしと一緒に出て行っちゃうの。
アライ 当時は社員編集者として働いていましたけど、ほんとにイタリア人の親父みたいなのばっかりだった。企画の相談したいのに、編集長がずっとインディアンポーカーやってて話聞いてくれなかったり。「うるさい、今いそがしいんだ!」って、オデコにハートのJ貼ったまま。
豊崎 活気があったよねえ。売れる前のリリー・フランキーさんが出入りしたりしてて、一緒に飲んでる中から面白い企画が生まれることがたくさんあった。
米光 無駄な事だから面白いって可能性もあるんですよね。


 当時はバイトでも会社の金で昼に特上寿司を食ったりしてたらしい。すごすぎる。バブル早くもう一回来てくれ。


たろちん ライターから見てこういう編集者がいいな、というのはありますか?
米光 ちゃんと感想をくれたり、すぐ返事をくれるのは嬉しいな。
豊崎 すっとこどっこいな感想書かれることもあるけどね。誉める定型句みたいなの使いまわしてるんだな、っていうのはすぐわかるよ。
米光 すっごい敬語を使われるのも引きますよね。「御玉稿賜り〜」とか、俺を遠ざけたいのって思う。
たろちん 僕も出版社でバイトし始めて皆すごい丁寧でしっかりした社会人なんだなって思いました。もっといい加減な世界かと思ってたのに。
豊崎 出版社はメディアの中で一番まともだよ。テレビとかすごい失礼だし、新聞もひどいとこあるよ。「○○さんいらっしゃいますか?」って電話したら「あ? いない」って切られたり。
藤田 若い頃仕事の付き合いで飲みに行ったら「おう、藤田の席ここだ」って膝の上に座らされたこととかありますよ。今の体重じゃ考えられないけど!
米光 おにぎり全種類は、たのみすぎたかなー。


 僕も必死にネットで調べて意味不明の敬語メールを作成していたのだけど、逆効果らしい。プロの文章書きに「このガキは正しい日本語も知らないクズだな」と思われるのが怖かったのに。語尾を「べろんちょ」にするなどして親しみやすさを演出した方がよいのだろうか。


たろちん おうちでお仕事するのって大変じゃないですか?
豊崎 会社勤めの人は、「自分で自分を律していてすごいですね」なんて言うけど、わたしにしたら朝6時とかに起きて毎日通勤してる人のほうがすごいと思うよ。
藤田 「会社はとりあえず行けばいいから楽だよ」って言うでしょ。そのとりあえずが出来なかったのよ!
たろちん 僕もそれが死ぬほど辛いです。中学時代からずっと出来てない。
豊崎 ただ、昔2ちゃんで「締め切りなのに何も書けてない人集まれ」とかってスレがあったけど、ああいう人はライターの適性がない人だと思う。わたしは家でテレビ観ててもCMになったら自然に原稿のこと考えてる。PCの前に座ったらすぐ書ける準備が出来てるもの。
米光 みんなそうですよね。ぼくは依頼されるとつい考えちゃう。考えるとすぐ書きたくなっちゃう。
藤田 そうしないと回らないですよね。


 これぞプロフェッショナル! 僕も今度からCMだけを録画したテープを作って、それを観ながら考えるようにしようと思います。


「若い頃はこうやって両手でお酒つぐよね〜」と語る藤田さん。
「若い頃はこうやって両手でお酒つぐよね〜」と語る藤田さん。
たろちん 今後、僕みたいな新米の署名ライターが仕事をもらうにはどういう事を心がければいいんでしょうか。
藤田 署名原稿の仕事を増やしたいってこと?
たろちん はい。このままだと食べていけないので。
藤田 バイト増やしたらいいんじゃない?
たろちん そっち!
米光 でも、ライターは兼業しろっていうのは色んな人が言うね。ぼくもゲーム作りと大学教授やってるけど、ライターが一番労力に対する収入が見合わない。楽しいからやってるんだよ。
藤田 何がやりたいかをはっきりさせることじゃないかな。なんでもやるって言うより、自分の色があったほうが編集者にもアピールしやすいよ。
たろちん それよく言われます。今は思ったことを書いてるだけなんですよね。
米光 依頼者が頼みやすい入り口を一つ作るといいよ。たとえば、ビジネスマン向けの記事を書くときも、ただ単に自分の考えを書いたら伝わりにくい。でも、「マイケル・ジャクソンに見るリーダー術」ってやると人は読んでくれるし、他の媒体でマイケルの特集をやる時に仕事が来たりする。書いてることはぼくの考えをマイケルに投影してるだけだとしてもね。
たろちん すげえ!
豊崎 ただ、あんまり色が強くつくとその仕事しか来なくなるからかえって食えなくなったりもするよー。
たろちん どっち!


 もうわかんねえ!


米光 まあ色々言ったけど、新しいことしなきゃいけない訳だから我々の言う事を聞いちゃ駄目だよ。
たろちん 出た! その全部チャラにする発言やめてくださいよ。
藤田 でも何でもそうですよね。人の話を聞くのはホントに大事。でも真似してればOKってもんでもないんだよねえ。
米光 ぼくがゲーム業界入れたのも6人中4人採る時代だったから。今じゃ2000人中4人とかでしょ、そりゃ難しいよ。6人のところ探せばいいのに。残ったおにぎりはたろちんにあげるね。
豊崎 何にせよ書かなきゃ始まらないからね。自分でがんばるしかないよー。アドバイスにも何にもなってなくて、すまん。


お酒を飲んでしまったせいでろくにメモのとれていない僕の質問帳。
お酒を飲んでしまったせいでろくにメモのとれていない僕の質問帳。


 はっきり言って、僕はライターという仕事をなめていたのだと思う。「作文とかわりと好きだし、早起きしなくていいし、著書とか持ってたら金持ちかつ超モテそう」くらいに思っていた。仕事というか生きることをなめている。
 実際に原稿を書いて見ると、自分の表現力・発想力がいかに貧弱なものであるかを痛感した。何気なく読み飛ばしていた一文に、書き手がどれだけ意図を持たせているかを知った。
 僕はそんな風になれるのだろうか。「頑張ります」という言葉を言う時は常に心が空っぽになっているような僕が。計算済みの「次は気をつけます」を言う僕が。
 今後、一人前のライターになっていけるかわからない。どころか、一人前の社会人になれるかも怪しく、10年後も親の年金で二人前の飯を食っているかもしれない。
 でも、僕はこの人たちと出会えて嬉しかったし、また一緒にお酒が飲みたいと思った。千鳥足でもいいから、この道をもうしばらくの間、歩いてみようと思っている。


参加者プロフィール

豊崎由美(とよざき・ゆみ)
1961年生まれ。編集プロダクション勤務の後、フリーに。競馬予想などで人気を博し、なんでもこなせるライターとして幅広い仕事ぶりで実力をつける。やがて、かねてよりの本好きを活かして書評家へ。月に25本の原稿をこなす、日本トップの書評家として活躍している。著書に『そんなに読んで、どうするの?』(アスペクト)、『正直書評。』(学習研究社)、大森望氏との共著『文学賞メッタ斬り!』シリーズ(パルコ出版)など多数。

米光一成(よねみつ・かずなり)
『ぷよぷよ』『BAROQUE』などの人気ゲームを手がけたゲームクリエイター。学生時代から文筆業に憧れを持ち、HPでの活動が認められライターとしての活動も始める。著書に『仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本』(KKベストセラーズ)、麻野一哉、 飯田 和敏との共著に『恋愛小説ふいんき語り』など。立命館大学教授も勤め、幅広く活動している。こどものもうそうblog

藤田香織(ふじた・かをり)
1968年生まれ。編集・ライターの専門学校から芸能出版社へ就職し、アイドル誌のライター、ドラマのノベライズなどの仕事を経験する。30代でフリーになり、だらしな日記の経験を経てエッセイ風書評の道を開拓する。等身大の生活記が評判となり、著書に『だらしな日記ーー食事と体脂肪と読書の因果関係を考察する』(幻冬舎文庫)『ホンのお楽しみ』(講談社文庫。3月15日発売予定)などがある。
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