THE B-TEAM 実況野郎文芸部
たろちん/ゲーム実況プレイヤー。代表作に泥酔状態でクリアに挑む「FF初心者が酔っ払いながらFF5を実況プレイしてみた」など。ゆるい味わいの文章のファンも多く、雑誌「QJ」でコラムも執筆している。ブログおちんちんbelong
COLUMN 一番いいこと言った人が総理大臣になればいい たろちん
「出しちまったぜぇ」
松田直樹(サッカー選手・元日本代表)

 お酒をこよなく愛している。毎晩電話をかけたいくらいアイラブユーだし、困難な道も2人なら歩いていけるくらいアイニージューだ。好きすぎてヤバい。見つめあうと素直にお喋り出来なくなる。
 僕は超高校級の引っ込み思案なので、人と話していても「こんなことを言ったら嫌われるかもしれない」ということばかり気にしてしまうのだ。そのため、フレンドリーに話しかけてくれる相手にだんまりを決め込んで、結果的に嫌われるということがある。好きなのに、仲良くしたいのに、色々聞いてみたいのに言葉が前に出てこない。でもお酒を飲むと、口にしていい言葉のハードルが低くなり、素直にお喋りが出来るようになるのである。
 飲めば飲むほど素直に女性の乳房をどうしたいかなどの議論で盛り上がることが出来る。理性の牢獄から一時的に解放され、レットイットビーな気持ちになれる。
 先日も友人と6時間くらい日本酒をあおって大分素直になっていた。乳房の話もかなり白熱していたのだが、翌日に仕事を控えていたので、終電で素直に帰ることにした。
 目を覚ますと視界一杯に満天の星空が飛び込んできた。
 酒飲みにとって一種のステータスである「酔って道ばたで寝る」という行為を僕はとうとう達成したのだ。サッカー元日本代表の松田選手は、国際試合の大舞台で強烈なミドルシュートを決めた際、駆け寄ってきたチームメイトに向かってこう言ったらしい。ビッグサプライズを成した者にしか許されぬ台詞だ。僕も真似をして「出しちまったぜぇ」とつぶやいてみた。思ったより嬉しくなかった。
 ダンボールでおうちを建設して住んでいるおじさん達を見るたび、何故お金も無いのに酒盛りをしているのだろう、と疑問に思っていたがやっとその謎が解けた。酒を飲めばお外でもぐっすり眠れるのである。
 翌日も友人と飲み会があった。僕が昨夜の武勇伝を話すと皆の酒飲み魂を大いに刺激したらしく地獄飲みが始まった。飲みすぎて素直に「もう飲めません」が言えなくなってしまったある友人は、最終的に卓上でやらかしてしまい「出しちまった」という顔をしていた。それでまた少し仲良くなれたのである。



「俺と言うより社会が悪い」
たろちん(僕)

 小さな頃から親の言う事をよく聞く真面目な子供として育ち、中学生の頃に人格が破綻、「俺は作家になるから義務教育はもう必要ない」と高らかに宣言して授業をボイコットし、大人に対して屁理屈をこねる嫌な子供になった。高校に進学せずおうちでハードロックを聞きながら世の中への呪詛を唱えていると、見かねた親がフリースクールに通うよう手配してくれた。だが、そこでも持ち前の根暗盆暗ぶりをフルに発揮して、遊びや勉強に誘ってくれても「僕はそういうのいいです」などとほざき、一日中椅子に座って硬直していた。本当は仲良しになりたかった。
 ようやく自分が変わらなければいけないと気付いた。大学に進み、お酒の力も借りて一生懸命皆と仲良くなろうとした。ようやく友達が出来た嬉しさのあまり4年間全力で遊び倒した。そしたら留年した。渇望した青春は遅咲きだったが故に甘美で、僕は冬の日のお布団以上にモラトリアムから抜け出すのが困難になってしまった。
 友達が皆真面目に働いているというのに、僕はバイトも就活もしないでおうちにひっくり返って、一日中パソコンと股間をいじくっていたばかりか、その模様をニコニコ動画で公開するなどして恬然としていた。ハンマー投げの室伏選手以上の勢いで人生をぶん回し投げ飛ばしこましていた。
 どういう訳かニコニコ動画を観ていた編集さんからライターのお誘いを受け、一も二もなく飛びついた。幻冬舎で連載という分不相応に贅沢な場もいただいた。某出版社のアルバイトも紹介してもらった。
 この1年でたくさんの大人に出会った。愛想笑いの裏側にエゴを隠して話をする「社会的」な大人は大勢いて、僕はそれが上手に出来なくて難儀している。一方で、2ちゃん語を流暢に操ったり、風呂に入らなかったり、ネット上で売られた喧嘩を全力で買う大人にもたくさん出会った。そういう人たちの前では僕も自然に笑えたように思う。
 要するに僕は怖いのだ。人が怖いし、社会が怖いし、常識が怖いし、当たり前のことが出来ない自分が怖い。自分が無価値な人間であることが怖いから、こんなことを言って自分を正当化している。
 ただ素直にニコニコしているだけで、色んなことがうまくいくのだ。笑顔の練習が不足したまま大人になってしまった僕は、今日も酒を飲んで変な顔をして笑っている。まだまだへたくそだけど、生きるの楽しいなと思えることも増えてきている。
(イラスト/たろかの)
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