自分の声に、ほとほと愛想が尽きた。
 生まれてから今日この日まで、ずっと付き合っていた声だ。でも、そろそろ違う声が欲しい。変な話とは分かっているけれど。
 たとえば一重の目が嫌だったら化粧とかアイプチとか整形とか、変える手段はあるものだが、声が気に入らない場合はどのようにすれば変えることができるのだろう。
 わたしの声は、高い。しかも現実問題として舌が短いため、どこか舌ったらずな感じがする。話し方にしまりがない。今まであんまりに気ならなかったのは、自分の声をきちんと聞いていなかったからなのだろう。あるいは、年齢的な問題かもしれない。少女的な今の声で話すことは、まるでロリータ趣味の洋服を着ているような気分になる。
 以前、とある映画のプロデューサーさんとお話をしていたとき、
 「女優っていうのは声が高くちゃ大成しないんだ」
 と、言っていた。
 「高い声なら、誰だってちょっと無理すれば出せる。だけど、低い声は出せない。高い声では台詞に説得力が出ないことが多いよ」
 もちろん、これはその方の主観であるから、違う考え方の人もいるだろう。
 わたしには、その意見は本当に納得できるものだった。なぜならわたしは自分の声に対して、なんだか説得力がないなあ、と思っていたからだ。
 ああ、なんでこんな声なのだろう。最近わたしは、声を低くしたくてしたくてたまらないのだ。
 声を潰してがらがらにするのもなんだかな、と思うし、もともと気管支があまり強くないから煙草が吸えない。大きな声もあんまり出さないし、カラオケにも行かない。お酒はたしなむけれど、強い酒をあおったりもしない。声が低くなりそうな要素は東京に住んでいるから空気が悪い、ということぐらいだ。そんな程度じゃ、声質は変わらないだろう。
 しかも緊張すると声は上ずる一方だから、取材やトークショウやよく知らない人と話さねばならぬときなんかには、ますます説得力にかけた声になる。頭蓋骨の中で反響する自分の声を聞くたびに、がっかりする。
最近わたしは、意識して低い声で喋るように心がけている。
 声質を換えるのは難しいけれど、「低く話す癖」なら、つけられるかもしれない。
 歳をとってゆくにつれて、顔かたちも体型も服の好みも変わってゆく。友達との接し方も好きになる男の人も考え方も、ちょっとずつだけれどやっぱり変わる。
 だったら、声だって変えたい。
 そのときの自分の生き方にあった声になれたらいい。好きな声になりたい。
 自分の声に、少しでも多く耳を傾けるためにも。




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