わたしの実家には、毎年二回、鳩サブレが送られてきていた。
 鳩サブレ。
 鎌倉名物の、鳩の形のサブレである。いわずもがな。
 それは父の仕事の関係の方が送って下さるものだった。お中元、お歳暮のシーズンになると、およそ六十枚ほどの鳩サブレの入った大きな缶が毎年毎年届くのだ。わたしが物心ついた頃から父が会社を辞めた最近まで、どうしてなのか毎回絶対に鳩サブレだった。
 それは、わたしにとっては酷い苦行であった。なんせ、その季節には毎日のおやつが必ず鳩サブレなのだ。
 たぶん最初は喜んだと思う。鳩サブレは美味しい。牛乳と合う。小学生にはぴったりのおやつだ。しかし、核家族に年二回の鳩サブレ大箱は、多過ぎる。
 わたしはいつしか、鳩サブレを激しく憎むようになった。もうたくさんだと思った。
 わたしは鳩サブレを一切口にしなくなった。鳩サブレを食べるくらいならおやつなぞないほうがマシだった。うちの父はもともと甘いものを好まないため、鳩サブレを食すのは母と兄だけになった。そのため、鳩サブレの減りはますます悪くなり、母はせっせと近所の人に配った。
 それでも、鳩サブレは毎年二回、きちんとのし紙付きで送られてきた。わたしは、その黄色い箱が送られてくるだけでなんだか不快な気分になるようになった。いや、箱は可愛いのだ。いっそ、箱だけで中身が空なら良いのに。
 「どうして鳩サブレなの? 他のにして貰ってよ」
 我慢ならなくなったわたしが言うと、父も母も、
 「そういうわけには行かないよ」
 と、困った顔をした。聞いてみれば、その会社は鎌倉にあるわけでもなく、なぜ鳩サブレなのかまったくもって謎なのである。
 「たぶん、最初に贈ってくれたときに、喜んで御礼を言ったんだと思う。それ以来、ずっと鳩サブレなんだよなあ」
 と、困惑顔の父は続けた。
 鳩サブレが送られてこなくなった今でも、わたしは鳩サブレが嫌いだ。たぶん、一生に食べるべき鳩サブレ量を超えてしまったのだろう。
 うちの実家に鳩サブレ大箱の空き缶(黄色地に、白い鳩の絵と「鳩サブレ」の文字が印刷されている)が異常にたくさんあるのは、これが理由なのである。




我が家に鳩サブレ缶が大量にある理由狗飼恭子オフィシャルブログ