1、 
 深夜十二時が過ぎ新年が明け、初詣に行くために恋人と二人で家を出た。
 寒い寒い年明け。
 新潟や秋田では大雪が降っているらしい。
 東京は雪は降っていなかったけれど、やはり寒い。みな家で新年を祝っているのだろう。街はひっそりと暗く静かだった。
 タイツを二重にはいてマフラーもぐるぐる巻きで、すごく厚着したのだけれど、でもやっぱり真冬の深夜の空気は冷たくて、耳がちぎれそうにきんと冷える。それでもわたしの末端冷え性気味の手を彼が暖かい手で包んでいてくれたから、大丈夫だった。
 誰もいない公園の脇を通り過ぎ、裏路地に差し掛かったとき、目の前に、猫が飛び出してきた。白地に大きな黒ぶちの大きな猫。そうしてわたしたちに一瞬だけ視線を向けると、悠々と前を横切っていった。
 「太った猫だね」
 「妊娠してるんだよ。お腹が大きい」
 去っていく太った背中に、「あけましておめでとう」って、言った。
 新しい年に、一番最初に挨拶を交わしたのが妊娠中の野良猫だなんて、と、なんとなく楽しい気分になった。

2、
 実家に帰るために大きな荷物をゴロゴロと転がしながら、乗り換えのために駅の中を歩いていたら、階段の途中で、前を歩いていた女の子が何かを落とした。
 ふと見たら、切符だった。
 大荷物を持ってるからかがめなくて、一度階段の下まで降りてからもう一度のぼって、切符を拾った。でも持ち主の女の子は落としたのに気づいていないのか、止まってくれない。でも、荷物が重くて走れない。と、女の子が「あ、切符落とした」と小さく叫んだ。
 わたしは、「はい」って彼女に切符を差し出した。新年会の帰りなのか、少しお酒のにおいのする彼女は、「ありがとうありがとう」って何度も言って、わたしの手を握った。
 すべすべの手は暖かかった。知らない女の子に貰ったたくさんの「ありがとう」が、嬉しかった。

3、
 お水にさしておいた、ブロッコリの茎のところから、芽が出て花が咲いた。
 ブロッコリの花は黄色くて、愛らしかった。
 今年はいい一年になりそうだなって、なんとなく思った。




新年の出来事狗飼恭子オフィシャルブログ