最近、「信号を守ろう運動」をしている。
 これは読んで字の如く、「信号を守る」運動だ。
 東京の道路はごみごみしていて車も人も多い。大きな道路にある信号は車優先で、歩行者側はなかなか青にならない。押しボタン式の横断歩道の、「ここは車の通る道なんだから、渡りたいやつはボタン押して待ってなよ」的態度も、ちょっと失礼に思えたりする。
 だから、というのもおかしいけれど、わたしは今までたくさんの信号を無視してきた。
 車が走っていなかったら、赤だろうが青だろうが普通に歩いて渡った。ルール破りの罪の意識なんてまったくないままだ。この数十年の人生で、わたしはどれだけ信号を無視しただろう。
 ある日突然、これからは信号を守ってみよう、と思ったのだ。
 別に正義感や道徳感から来る気持ちじゃなく、ただなんとなくだった。
 どんなに急いでいるときでも、青信号がちかちか瞬き始めたら足を止める。
 車が通ってなくても誰も見てなくてもどんなに細い裏道でも、必ず足を止め、ほんの少しの時間、信号の色が変わるのを待つ。
 ただそれだけのことなのだけれど。
 ただ急いで闇雲に目的地へ向かっていくよりも、なんとなく少しだけ気分が良い。
 本当に、ほんの少しだけなんだけど。
 信号の神様って、いるのかな。
 なんてぼんやり考えつつ、今日もわたしはひとり、いつまで続くか分からない「信号を守ろう運動」を、する。


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