「僕の知り合いの男性が言っていたのですが」
 と、年下の男友達が言った。
 「男の道と女の道は違うそうです」
 わたしは意味が分からず、ただ黙って話を聞く。何杯目かの生ビールの中ジョッキを手にしている。彼とは年に数回だけ会って、ただお酒を飲みながら静かに恋の話をする。彼は大抵いつも、昔好きだった女の子がいまだに忘れられない、という話をした。このときも、高校時代に好きだった女の子と再会してしまい、また好きになってしまった、という話を長々と聞いたあとだった。彼は続けた。
 「男の道は一直線で、振り返るともう何年も何年も前までぜんぶ見えちゃうんだけど、女の道は曲がりくねっているから、振り返ってもほとんど何も見えない。だから、男はもうずっと昔の恋愛をひきずっていたりするけれど、女にはそれがないのだそうです」
 と、彼は淡々と話しながら、ビールをすすった。
 へえ、とわたしは相槌を打つ。百パーセント納得は出来ないが、少し分かる。
 たとえば、女の人は恋人が元・恋人に変わったとたんに相手の男の悪口を言う人が多い。そして新しく好きな男が出来ると、まるでそれがはじめての恋ででもあるかのように、浮かれ舞い上がり、ちょっと前まで違う人を好きだったことを忘れたみたいな精神状態になりがちだ。わたしの友人には何度も別れてはまた付き合い始めるを繰り返している子がいるのだが、彼女は別れるとその男の人の悪口を言い、復活するとまったく言わなくなる。たぶん、悪口を言って「あの人は悪い男だから別れたほうが良かったんだ」と自分に思い込ませるためでもあるのだろうけれど。
 正直に言えばわたしだって、付き合った男の人の中に名前を忘れてしまった人が何人かいる。お付き合いした人数はそう多くないはずだと思うのだけれど。 きっとわたしは、彼らを曲がった道の途中に躊躇なく置いてきてしまったのだろう。
 だけど、何年も前の恋愛のことをいまだに考えたりはやっぱりする。振り返り振り返り確認しながら、道を歩いているときもある。
 だから、女の人は、真っ直ぐな道も曲がった道もどっちも持ってるんじゃないかと思う。
 そのどちらに終わった恋を設置するかも、ひょっとしたら意図的にできるのかもしれない。


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