どうしてか、昔から目の悪い人が好きなのである。

 いつ頃からかは覚えていないが、高校生の時には確実に視力の悪い男の人が好きだった。なんとなく良いなと思っている男の子の視力が2.0あって、がっかりしたのを覚えているからだ。もちろんそののち片思いした男の子は、非常に視力悪かった。

 世の中には眼鏡をかけた男の人が好きという女の子がたくさんいると聞くが、わたしの場合、眼鏡は必要ない。眼鏡をかけていてもいいし、コンタクトでもいいし、裸眼でもいい。とにかく、目が悪いこと、がポイントなのである。

 目が悪い人の何にそんなに魅力を感じるのか、自分でもよく分からない。うちの父も兄も視力が悪いが、ファザコン、ブラコンのひとつ、とはとても思えない。では初恋とか憧れの先生とかが眼鏡をかけていたのだろうか、と記憶をひっくり返してみたが、そんな思い出は何ひとつない。

 でも目が悪い人が好きなのだ。

 なんというか、たとえば目の悪い人のすぐ前に立っているとする。それなのに「もしかしたらこの人にはわたしのことがよく見えていないのかもしれない」と思うと、なんだか無性にその人を抱きしめたいような気持ちに駆られる。不安のような、あるいは「ここにいるよ」と誇示したいような、この人の見えないものがわたしには見えるという優越に似た甘さなのか、助けてあげたいという衝動なのか、なんなのかはいまだ分からない。

 かくいうわたしは目がいい。

 一日数時間パソコンに向かい、暗闇で映画を観ることが好きだったり、そんな生活を十年以上続けていながら、眼鏡やコンタクトのお世話になったことは人生で一度もない。数年前まで視力は1.5以上あった。最近は随分と視力が悪くなった気がするけれど、でもそれでもまだ裸眼で生きてゆくのになんら支障はない。

 自分にない美徳を持った人に惹かれたりするのはよくあるけれど、なぜ目の悪い人にこんなに魅力を感じるのか、わたしにはよく分からない。

 そういえば、鼻の悪い人も好きである。

 こちらの理由も、よく分からないのだけれど。


編集部よりお知らせ
このWebマガジンの連載「愛の病」をまとめたエッセイ集『幸福病』(幻冬舎文庫)が好評発売中です! 前回の『愛の病』より時間を経て、カバーも内容も少し大人な感じになったのではと思っております! みなさん是非、御一読ください。




目の悪い人狗飼恭子オフィシャルブログ