わたしは煙草を吸わない。

 別に嫌煙家ではない。リベラルな煙草を吸わない人、である。父親は煙草を吸っていたし、付き合った男の人の半分は煙草を好む人だった。

 煙草を吸う人、のことは結構好きなんだと思う。

 実際、煙草を吸う男の人の仕草には見惚れる部分がたくさんあるし、書く登場人物にはよく煙草を吸わせる。煙草の扱い方で、その人のその人たる部分が見える気がする。どんな銘柄を選んでいるか。箱をどんなふうに扱うか。百円ライターか高級ライターかマッチか。どの長さまで吸うか。どのスピードで吸うか。どんなふうに消すか。貰い煙草しかしない人とか、「止めたいんだよね」っていいながら吸ってる人とか、家族には煙草のことを内緒にしてる人とか、煙草を吸う、というただ一つの行動が、こんなにもその人をあらわすのだということが、面白くてたまらない。

 でも、わたしは煙草を吸わない。

 若い頃にポーズとして何本か吸ったことはあるが、美味しいとも必要だとも思わなかった。なので、まったく癖にならなかった。ファミレスで「喫煙席で」って言うために煙草を買ったことがあったが、次にファミレスに行ったときには湿気てしまっていて、捨てた。煙草が湿気やすいものだなんてことすら知らなかったのだ。

 最近、

 「どうして煙草を吸わないの?」

 と、聞かれた。その人も煙草を吸わない人だったけれど、どうも「作家たるものヘビースモーカーであるべき」という固定観念があるらしかった。どうして吸うのか、なら理由は浮かぼうが、吸わないことに理由はない。別にポリシーがあるわけではない。ベジタリアンの人に会ったら「どうして野菜しか食さないのか」とわたしも尋ねてしまうが、肉の味が好きではないからとか答えられたらがっかりする。なので、

 「昔貧乏だったんで煙草買えなかったんですよ」

 と答えてみたら、信じたみたいだった。実際貧乏だったけれど。「作家たるもの貧乏であるべき」という固定観念もあるらしかった。それはそれで面白かった。

 貧乏だったけど、三百円くらいは持ってました。


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