今年もキャンプに行けなかった。
 キャンプ。憧れのキャンプ。
 こんなに夢想しているのに、まったく縁がないのはどういうわけだろう。
 テントを張って、山の上空の下、木々の中で眠りたい。
 どうしてだかわたしは、「外で眠ること」が好きだ。ときどき見かける、その辺で酔いつぶれて眠ってる人、みたいなことではもちろんなくて。建物の中以外の場所、自然に囲まれた場所で、眠るのが好きだ。
 随分前、真冬。付き合っていた男の子と浜辺に寝袋二つ並べて眠ったことがある。満天の星の下で、流れ星が見えた。
 船での旅の途中、デッキにある固い質素なベンチに腰掛けて、座ったままうつらうつらした。わたしは停まっているのに船は動いているから、風じゃないのに空気が流れていて、わたしの頬に触れて去った。
 チュニジアに一人旅したとき、砂漠の真ん中でガイドさんと寝袋並べて眠った。一面の砂漠で、何もなくて音もしなくて、自分が砂の一粒になったような気がした。
 あの感覚。
 屋根に守られていない世界で、眠るということ。
 そのどこか不安な、たゆたう眠り。
 建物の外で眠ると、屋根というのはなんて強いものなんだろうと実感する。
 屋根の下にいさえすれば、安心していられる。どんな東屋であろうとも。
 その反対もしかりで、屋根のない場所で眠るのはどきどきする。夜の闇と朝の光をダイレクトに浴びるからだろうか。
 キャンプに行きたい、そう思い続けてもう何年もなるのにまだ一度も行ったことがない。誘われるのをずっと待っているのに、誰も誘ってくれない。じゃあ、わたしがみんなを誘う? まさか。だってキャンプを主催なんかしたらきっと、バーベキューもしなければならなくなる。わたしは、バーベキューが大の苦手なのだ(以前のエッセイ、「バーベキューの恐怖」をご参照ください)。
 キャンプに行くにはどうしたらいいんだろう、できたらバーベキュー抜きで。そう思いながら、今年も夏が終わる。
 秋にだってキャンプはできるのだろうけれど、きっと秋だってすぐ終わる。キャンプじゃなくてもいい。最悪野宿でもいい。いやむしろ野宿のほうが。野宿の前にバーベキューする人はいないだろうし。
 こんなに外で眠ることに憧れているなんて、わたしの前世はジプシーか何かなんだろうか。
 いや、ジプシーは人前で踊ったり歌ったりしてお金を稼いでいた。そんな資質はわたしにはない。
 どっちかっていうと路上生活者かもしれない、わたしの前世。
 だとしたら、キャンプに行ったわたしはそのまま家に帰らないかもしれない。
 その資質なら、ありそうな気がしてこわい。



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