冷蔵庫を新調した。
 十八年ぶりだ。
 うちにある電化製品のほぼすべては一人暮らしを始めたときに買ったものなので、小さいし古い。しかもほとんど壊れかけている。(炊飯器のふたは常に半開きだがご飯が炊ける。電子レンジは回転皿が回転しなくなってしまったけれど温めることはできる。掃除機は吸引力が落ちてるけれどそのあとぞうきん掛けすれば大丈夫)
 問題はあれどまあなんとか使えているので、こんなに長く一緒に生活してしまった。わたしはものもちがいい。
 冷蔵庫も、一時期ドアが閉まらなくなったことがあった。けれど「頑張って」と頼むとちゃんと閉じてくれた。野菜が腐ったことはあったけれど、アイスクリームが溶けたことはなかった。電化製品に話しかけると治る、という話は本当だと思う。人間よりよっぽど話が通じるし、物わかりがいい。
 新しい冷蔵庫はわたしよりも少し背の低い、真っ白い三段冷蔵庫だ。
 冷蔵室、冷凍室、そして野菜室が付いている。野菜室! 憧れの野菜室。わたしは家ではあんまりお肉やお魚を食べない。野菜ばかりを食べる。大根の葉っぱも薬味にするし人参の皮できんぴらだって作れる。だから野菜はなるべくまるごと買いたいのだけれど、前の冷蔵庫は単身者用のものだったから、野菜室なんかおまけ程度にしかなかった。レタスも大根も切らないと入らなかった。白菜なんて絶対無理だ。
 新しい冷蔵庫には、レタスも大根も丸ごと入る。人参なんか立てて入れられる。嬉しい。白菜は三つくらい入りそうだ。死体だって入れられそう。
 かつて尊敬する女性映画監督が、
「料理が上手い人は映画作りも上手いんだよ」
 と言っていた。
「映画の撮影現場に入ってしまったら、もう素材は変えられない。だけどそれでシチューを作るか肉じゃがを作るかが、監督の力量だから」
 今までは、料理があまり得意じゃなかった。小さな冷蔵庫に入る程度の食材しか買えなかったし、作りすぎて残ってしまっても冷蔵庫で保存できない。だからあんまり作らないようにしていた。
 でもこれからは、好きなだけ料理ができる。いくらでも食材が買えるし、残ったら冷凍だってできる。
 わたしはこれから料理が好きになって上手になって、映画だって作れるようになるのかも知れない。たとえばどんな? きっと冷蔵庫が出てくるお話だ。わたしの一番最初の小説だって、冷蔵庫の話だったし。
 考えるだけでわくわくする。
 わくわくで、お腹いっぱいになる。
 まだほとんど何にも入っていない冷蔵庫のつるりとしたドアをなぞりながら、わたしは毎日うっとりとしている。



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