女の人を口説きたかったら、肩胛骨を褒めるといい。
 と、知人男性が言っていた。
「そうそう、普段褒められないところを褒めると、女の人はぐっとくるんだって。納得だよね」
 と、知人女性も言った。
 へえ、と相づちを打ちながら、わたしは昔観た映画を思い出していた。恋人の肩胛骨があまりにも美しくて、主人公が「君の肩胛骨にミルクを溜めて飲みたい」と言うのである。それを聞いた主人公の恋人は、大笑いしていた。
 たしかに肩胛骨の汚い女の人には会ったことがない気がするので、誰にでも使える褒め言葉かも知れない。肩胛骨の汚い男の人、というのにも会ったことがないけれど。
 しかし、映画の台詞になるような部分である。
 肩胛骨を褒める人は、そう少なくないのじゃなかろうか。
 じゃあ、どこなら特別に喜んで貰えるだろう、と考えてみた。
 性格とか頭の良さとか立ち居振る舞いとか内面とか内臓の頑丈さとかではなく、目に見える、一回会っただけで分かる部分に限った場合、一体なにを褒められるのが一番嬉しいのか。
 目だの唇だの髪だの肌だの胸だの脚だのうなじだのほくろだの、定番褒め箇所以外で、考えてみる。なるべく意外性のある場所がいい。
「産毛が可愛い」、と恋人を褒める男性が出てくる映画を観たことがある。
 産毛なんか褒められてもわたしは嬉しくない。でもたしかにあんまり褒められない場所であろうから、女の人をどきっとさせることができるかもしれない。
「頭蓋骨の形がいいね」は、かつてわたしが整体師さんに言われた言葉だ。
 特に嬉しくはなかった。
 足首の裏の筋を褒める男性に会ったことがある。
 ちょっと気持ち悪かった。
 考えれば考えるほど難しい。意外すぎる場所を褒めたところで、なんだかものすごいフェティシズムの持ち主だと思われてしまうのだ。
 そういえばわたしが男性に言われてぐっときた褒め言葉に、
「特に爪が素敵ですね」
 というのがある。爪は自分の体の中でも自慢できる部分なので、それ自体は意外ではなく「よくぞ見つけてくれた」という感じなのだが、「特に」にすごくぐっときた。それ以外も素敵だけど、というのが「特に」の中に隠れているのを感じるからだ。でもこの場合、わたしがぐっときたのは爪を褒められたことでなく、「特に」なのだろう。
 結局の所、褒めるのはどこでもいいのかもしれない。
「特に髪が素敵ですね」「特にほくろが僕の好みです」「特に目が綺麗ですね」どれだって、ぐっとくるじゃないか。褒めるときは「特に」をつける。それだけでいい気がする。
 しかし、
「特に足首の裏の筋が素敵ですね」
 は、ちょっと嬉しくない。たぶん、わたし以外の多くの女性も。
 人を褒めるのに、意外性はいらないのかもしれない。



編集部よりお知らせ
このWebマガジンの連載をまとめたエッセイ集『愛の病』『幸福病』(幻冬舎文庫)『ロビンソン病』(幻冬舎文庫)が好評発売中です! 是非、御一読ください。




褒める狗飼恭子オフィシャルブログ