知人の男性に久し振りにあったら、髪が金色になっていた。
 驚いたわたしに、彼は、
「フリーで仕事をしていると、毎日のように新しい人に会うでしょう。そういうときにね、この頭だと敬遠して貰えるんですよ。あいつ、ちょっと面倒くさそうだなって。そのほうが仕事がしやすいことが多くて」
 と、にこにこと人の良さそうな顔で笑った。彼は映画関係の仕事をしている人だった。映画の撮影現場はわりと体育会的に仕事が進められることが多かったりするから、最初に周囲を威嚇することはたしかに効果的かもしれない。転校生が転校初日に番長に喧嘩をふっかけるような、そんな感じ。
 そう言えば男友達に、人に舐められやすくてとても仕事がしにくい、どうしたらいいんだろう、という相談を受けたことがある。
「だから片方だけ眉毛を剃り落とそうかと思ってるんだ。片方眉毛がない人のことは、なかなか舐められないものなんじゃないかと思うんだけど、どうかな」
 それはそうかもしれないけれど、眉毛は剃らない方がいい、とそのときのわたしは彼を止めた。眉毛は剃り落とすと二度と生えないこともあるから、と諭した気がするけど、そういう問題でもなかった。彼もフリーランスで仕事をしている人だった。
 この二つの出来事から、なるほど、男たちの戦闘服は「ちょっと変わった見た目」なのだなということが導き出される。
 気持ちはすごく分かる。わたしも、できることなら変な人になりたいと常々思っているからだ。見た目じゃなくて、中身が。
 変な人ってどんな人なの? と聞かれても、上手く答えられない。
 友達の××ちゃんみたいな、と具体的な名前は出てくるのだけれど、彼女の名前を言ったところでみんな知らないだろう。彼女のエピソードには事欠かないが、たとえばひとつ披露すると、出会ったとき下北沢に住むバレエ講師であった彼女は、今、関西の創業百年だかの老舗旅館の女将(旅館の跡取りと結婚したとかいうわけでなく、女一人でやっている)である。どうしてそうなるのか。バレエ講師から老舗旅館の女将に、どうやったらなれるのか。なんでなろうと思うのか。まったく理解できない。魔法でも使ったとしか思えない。わたしは彼女のその理解できなさに、ものすごく憧れる。
 普通、人間は理解できない相手のことを嫌う。分からない人は怖いからだし、分かってくれない人は腹立たしいからだ。
 けれど、変な人、は怖くも腹立たしくもない。
 どんなに理解できなくても、「あの人は変わってるからね」で済んでしまうし、だいたいにおいて変な人の要求は通る。
「しょうがないなあ(半笑い)」
 となぜかいつも許されてしまうのが、変な人、の特徴なのだ。
 ああ、わたしがもし変な人だったら、あんなことやこんなこともきっときっと許されたのに。なんて思うけど、変な人たちはこんなよこしまな考えで変な人をやっていないだろう。だから彼ら彼女らは美しく正しく、変でいられるのだ。
 そして内面的変な人は、自分のことをまったく変わっていると思っていない。そこがまた、いい。自分の美貌に気づかない美少女を見たときに感じる気持ちと同じだ。
 いいなあ。素敵だなあ。
 ああ、変な人になりたい。



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