というわけで、旅に出た。
 フィンランド六泊とエストニア一泊。
 七泊八日の短い旅だ。
 なぜ行き先をフィンランドに決めたのかに、そんなに深い意味はない。
 ずっとずっと憧れていた国、なんかではなく、むしろなんの知識も思い入れもなかった。
 ふと、行ったことがないから行ってみようかな、と思った。わたしはいつも、旅先はそんなふうに決める。知らないことを知りたかったり、見たことのないものが見たいから旅に出るのだ。
 しかし行こうと決めて調べてみると、何もかもがわたしを呼んでいる気がした。
 アキ・カウリスマキの映画とトーベ・ヤンソンの長編小説『誠実な詐欺師』が大好きだし、フィンエアーに乗ってみたかったし、バルト海はまだ見たことがないし、そのバルト海を挟んであるエストニアに船で行けるというし(わたしは船が好き)、北欧はちょうど夏だそうだし、夏以外は寒くて旅行しにくいそうだし、夏は一か月しかないから今を逃すとまた行けるのは一年先だそうだし、今、わたしが行くのになにもかもが丁度良い感じがした。
 丁度良い。
 まさに、そんな気分だった。
 久し振りの一人旅だ。
 一人旅はツアー会社で予約すると非常に割高なので、すべてネットで予約する。
 まずフィンエアーのHPへ行き、飛行機を予約し、次にエストニア行きの船を予約し、そしてホテル予約サイトで宿泊先を探した。簡単だ。ホテルの予約は少しだけ面倒くさいのだけれど(土地勘がないから、そのホテルのある地区がどういう治安の場所かがわかりにくい。フランスに行ったときは、パリでもっとも治安が悪い場所に泊まってしまった。特に危険な目には遭わなかったけれど、夜中まで大音響でラップみたいな音楽が流れていた)、一日がかりで地図とにらめっこして、決める。
 ホテルの予算はなるべく抑えたいところだが、フィンランドは物価が高いので、五十ユーロ程度の部屋にする。ドミトリーですら三十ユーロする国だから、なかなか見つからない。昔は行ってから宿泊先を探したりもしたけれど、そうすると時間が勿体ないし、むしろネットで手配した方が宿泊費が安いと気づいてからは、すべて日本で予約して行くようにしている。
 そうして、あとは出発を待つだけ。
 今まであんまり旅行記を書いたことがなかった。冒険家のもの以外面白くないような気がしていたから。でも、ちょっと書いてみようと思う。特に何もない旅行記。
 フィンランドよりも面白い目に遭った国はたくさんあった。砂漠で知らない男の人と野宿とか、ロシアの空港に二十四時間いたとか、インドの電車の中に二十時間閉じ込められたとか、ベトナムで男性用性感マッサージの店に行ってしまったとか。
 でもフィンランドは、今のわたしにとても丁度良かったのだ。
 丁度良い国、フィンランド。



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