マルガリータは、不運な事故で若い命を失ったメキシコ娘の名前。ある日、彼女は狩猟に出かけ、流れ弾に当たって、そのまま恋人の胸の中で昇天してしまう。恋人の名はジャン・デュレッサーといった。
 後年、そのデュレッサー氏が、若き日の悲劇的な恋をしのび、このマルガリータというカクテルをつくり上げたという。ほぼ半世紀前、1949年のことだそうだ。
 ベースは当然、恋人だったマルガリータの故郷、メキシコ特産のテキーラである。このテキーラに、ホワイト・キュラソーとライム果汁を加えてシェーク。これを、ふちを塩でまぶしたスノー・スタイルのグラスで飲む。
 マルガリータの姿の美しさは、数あるカクテルの中でも群を抜いている。真っ白くふちどられた華奢なカクテル・グラスに、白く半透明の酒。清楚で、まさに白い貴婦人とでも呼びたいような優雅な美しさだ。
 風味も実に優雅。ほのかに甘く、そしてライムの爽やかな酸味が、優しく舌に広がる。あの青い匂いの野性的なテキーラが、なんともあか抜けた酒に変身しているのである。
 テキーラは、メキシコの竜舌蘭からつくられる蒸留酒。どこか明るい太陽とひなびた土の匂いがする、素朴な独特の風味を持ったスピリッツである。
 その野趣あふれるテキーラが、バーテンダーの手によって、楚々とした白い貴婦人マルガリータに大変身。その変貌ぶりは、オードリー・ヘップバーン主演の映画『マイ・フェア・レディ』を思い出させる。ヒギンズ博士の薫陶よろしきをえて、粗野な田舎娘から気品あふれる淑女に変わった、まさにあのイライザのようである。
 姿が美しく、美味で、しかも誕生秘話がロマンチックと、3拍子そろったマルガリータ。ただし美しさに見とれ、美味にかまけて飲みすぎないように。何しろ、あの野性味たっぷりのテキーラがひそんでいるのだから……。