特別著者インタビュー
檀ふみ

Fumi Dan Interview


 女優として、また『ああ言えばこう食う』が第15回講談社エッセイ賞を受賞するなど、執筆活動も好評の檀ふみさん。小社から5月27日に発売された最新エッセイ集『まだふみもみず』は東京新聞読書欄で文芸評論家の大河内昭爾氏に「檀ふみさんのエッセイ集『まだふみもみず』は冒頭から軽快なすべり出しである。終章「いとかなし」の父檀一雄との能古島での別れはやはり心にしみた。地盤がものをいう政治家とちがって、文学はやはり血がものをいうのか」(読書日記・『文豪の孫と文士の娘』より)と絶賛されるなど、大好評を博し、現在発売から約1カ月で3刷の重版が決定しました。
 今回は重版を記念して、檀ふみさんに、『まだふみもみず』について、エッセイを書くということについて、父である檀一雄氏について、特別にインタビューしてみました。

Q.『まだふみもみず』というタイトルをはじめ、章タイトルも「あやし」「いとかなし」など、古語が使われているのが、面白いですが、それを使おうと思ったのはなぜですか?

A.書くことより、編集者が向いてるんじゃないかっていうくらい、本のタイトルとか構成を考えるのが好きなんです。だからタイトルは結構早くに思い付きました。「まだふみもみず」の「ふみ」には「踏み歩く」のふみ「文(手紙)」のふみそして「檀ふみ」のふみの三つの意味がかけてあります。
各章のタイトルについては、はじめは旅についてのエッセイが多かったので、国別に分けようかとも思ってたんです。でもそうすると、どうしても入らないものが出てきて、どうしようかなと。そのときに本のタイトルも百人一首からとっているし、古語って面白いなあって。だってほとんどがダブルミーニングで、一つの言葉に良い意味と悪い意味の両方がある。「ゆかし」なんて、慎ましいという意味かと思っていたら「行きたい」という意味があったり、すごく素敵でしょ。「いとかなし」の「かなし」も悲しいだけではなく「ありがたい」とか「かわいい」という意味があるし。
私「連想ゲーム」(注:NHKで放送されていた、国民的クイズ番組。檀さんは高校生の頃からレギュラー出演していた)をずっと長いことやってましたから(笑)。言葉が好きなんです。きれいな面白い言葉を見たり、聞いたりするのが。大学受験が終わってからも捨てずにとって置いた小西甚一先生が書かれた古文の参考書『古文研究法』がやっと役に立ちました。

Q.各章の読みどころについて伺いたいのですが。

A.うーん、私は仕事で旅をすることが多いせいか、普通だと見られないものを見ていると思うんです。イギリスについて書いた「あやし」の章、オーストラリアについて書いた「あさまし」の章、カナダやアフリカ、フランスなど世界各国について書いた「ゆかし」の章、日本について書いた「すずろなり」の章もそうですけど、外国にしろ、日本にしろ観光ガイドブックには絶対載っていない旅をしてる。通りいっぺんの旅じゃなくて、滅多に味わえないような体験ばかりを書いたつもりなんです。そこが面白いんじゃないかなあと自分では思っているんですけど。

Q.「あはれでをかし」の章にある「上等な思い出」に出てくる「憧れの君」と「誰にも言えなかった恋」の檀さんが失恋なさったという相手について「これは誰なんだろう」と気にしている読者が多いようなんですが。

A.「上等な思い出」に出てくる「憧れの君」ついては、読んでいただければ大体誰について書いているかおわかりになると思うんですけど、これはその憧れの君にしてしまったある失礼なこと(注:どんな失礼なことをしでかしてしまったかは本書の200ページから204ページまでを御覧ください)についてのお話だから、それを知られると困るので、ここでは内緒にします。
「誰にも言えなかった恋」については、女性には「気持ちわかるー」とかいって評判がいいんですけど、男性には、「まだ本当のことを書いてない。ずるいなあ」とかいわれてるんです。先日も元首相のラジオ番組の収録があってそんなことを言われてしまいましたが、相手については言えませんよね。だって「誰にも言えなかった恋」なんですから(笑)。

Q.今現在の「恋」についてはどうなんでしょうか?

A.どうなんでしょう? ただね、面白いことをこの間知り合いの女性誌の編集者に聞いたの。私が誰かと付き合っているって噂になっているっていうのね。家の前で張り込みをはじめようかってところまですすんでいるって。だからね言ったの。「路上抱擁でも、路上キスでもサービスしますので、張り込んでみてください」って(笑)。でも結局何も撮ることができないらしいけど。

Q.うーむ、あやしい。そのお話はまたおいおい作品で書いていただくとして、『まだふみもみず』に話を戻します。最終章の「いとかなし」ではお父上でもあり『火宅の人』の著者としてあまりにも有名な檀一雄氏の意外な一面が垣間見られて印象的ですね。

A.父のことを書くのが一番時間がかかって一番難しいんです。いつも父のことを書くときには、「降りてきて、降りてきて」って祈るの。これは別に父に降りてきてっていう訳ではないんですけど、何かに降りてきてもらわないと書けないんです。
どこかは冷静なんだけれども、書いていながら涙を流してしまうくらい自分を追いつめないと、納得できない。最後にある「能古島の別れ」や「囲炉裏端の父」なんかは特にそうでしたね。

Q.檀さんにとって「書く」ということは、やはりお父様の影響が大きいのでしょうか?

A.そうですね。父がいなかったら私は本を書いたりしていなかったと思うんです。父は書くことが至上の事だと思ってた人じゃなかったかしら。私が女優になりたくないって泣いたときにも「いいじゃないか。女優をやっていれば、いつか面白いものが書けるかもしれないよ」って、書くために女優になるようにすすめたくらいなんです。普通娘が女優になりたいなんて言ったら泣いたり怒ったりして止めるのに(笑)。そう考えると、この本は父に向けて、捧げた本かもしれません。

Q.この本を出版されて周囲の反応はいかがですか?

A.阿川佐和子なんかは「檀ふみは読者を啓蒙しようとしている」とかって言うの。そんなかたい内容じゃないのに。でも普段はものすごく口の悪い友だちから「平成の枕草子誕生」なんておだてられて、すっかり気をよくしています。それと山田太一さんに「こういう風なことを書かれた父親は幸せですね」というようなお葉書をいただいて、これは、とても嬉しかったですね。

Q.読者の方にメッセージをお願いします。

A.本当にありがとうございます。涙涙涙です。この本は一番私らしいというか、素直に私を出した本なので、恥ずかしいと同時にすごく嬉しいです。何度も言ってしまいますが、ありがとうございます。

Q.まだ読んでない方にもメッセージを。

A.ここ14、5年書いてきたものは本当にいっぱいあったんですけれども、我ながら気に入っているもの、評判が良かったものだけを厳選して集めたエッセイ集です。手前みそですが人生ででこんなに必死になったことがないってくらい、一生懸命やりましたので、読んでいただけたらありがたいです。

Q.次回作の構想は?

A.ぼちぼち小説でも書こうかしら。

Q.えっ本当ですか。じゃあ、ぜひ幻冬舎で!

A.なんてね(笑)。女優に戻ります。だって女優をやっていないと面白いことになかなか出会わないし。すごく忙しいときのほうが後で書くことが出てくるみたい。いろんな経験をして、そしてそれが心の中でいつのまにかオリとなって書けるんだと思います。嬉しいこと、悲しいこと、恥ずかしいこと、いっぱい経験して、また書くことができたら嬉しいです。

檀さんの多方面にわたるご活躍をお祈りしてます。今日はありがとうございました。











まだふみもみず
檀ふみ 著

まだふみもみず』

本体1,400円+税



女優・檀ふみさん プロフィール】

東京都生まれ。慶応大学経済学部卒業。父は作家の檀一雄。高校在学中に映画デビュー。芸術選奨新人賞受賞。出演作品には「陽のあたる坂道」をはじめ「火宅の人」「男はつらいよ・寅次郎純情詩集」など多数。またNHK教育「N響アワー」の司会を担当。エッセイも好評で『ほろよいかげん』『ありがとうございません』第15回講談社エッセイ賞を受賞した『ああ言えばこう食う』などの著作がある。