実践『マネーロンダリング』講座

橘玲 TACHIBANA Akira



橘玲著『マネーロンダリング』
定価(本体1800円+税)


『マネーロンダリング』
ホームページ
http://www.alt-invest.com/pl/book/index.htm


第5回 常識として知っておきたいクレジットカード(2)



 クレジットカードを使うにあたっては、分割払いやリボルビング払いは利用せず、必ず1回払いにしなければならない(ちなみに、「分割払い」は返済回数を指定し、「リボルビング」は返済金額を指定する)。それも、まとまった支払いは締め日の直後に行なう習慣をつけるべきだ。
 入会金・年会費不要のカードが増えてきたが、安ければいいというものでもない。会員向けに提供される旅行傷害保険などを考慮すれば、年会費以上のメリットが得られるカードもある。
 以上が、前回のまとめだ。

 今回は、クレジットカードのポイントバックについて考えてみよう。
 顧客がクレジットカードを使用すると、カード会社は手数料として、利用金額の5%前後を店から受取る。だが、カード会社はこの手数料をすべて自社の利益にすることはできない。
 移り気な会員を引き止め、カード会社同士の熾烈な競争を勝ち抜くためには、カードを使ってくれた会員に利益を還元しなければならないからだ。これが、ポイントバックあるいはポイント還元と呼ばれるものだ。
 カード会社は通常、自社のポイント還元率を明らかにしないが、調べることは簡単にできる。
 カード会社はどこも、ポイントと商品を交換するカタログを発行している。最近では、ホームページにアップしているところも多い。ここで、デパート商品券や旅行券などの金券が何ポイントで交換できるかを確認し、1ポイントを獲得するのに必要な利用金額と比較すればいいだけだ。
 詳細に調べたわけではないが、このポイント還元率は現在、0.5%程度で各社ほぼ横並びになっている。10万円使うと500円の金券が戻ってくるという計算だ。現金払いは店が喜ぶだけで、利用者には何の役得もないことを考えれば、すべての買い物はカードで支払った方が合理的ということがわかる。
 そこでまず、自分が使っているカードの還元率を確認してみよう。それが0.5%を下回っているようなら、他社のカードに切り替えることを考えた方がいい。金券と交換したあと残ったポイントが翌年に繰越せるかどうかもチェックしたい。
 分割(リボルビング)払いでポイントが2倍になると宣伝しているカード会社もあるが、ポイントで還元される分よりも支払うことになる金利の方が高いので、差し引きは赤字である。カード会社が大々的に勧めるものは、ほとんどの場合、無視した方が正解である。

 マネー雑誌などを見ると、利用するカードを1枚に決めて、できるだけ多くのポイントを貯めるようアドバイスしている。これ自体は間違いではないが、10万円の利用額に対して500円の金券を受取るくらいで満足していてはいけない。金券にこだわらなければ、それよりもはるかに高い還元率を実現することが可能だからだ。
 デパート、スーパー、ディスカウントショップからホテル、ガソリンスタンドまで、さまざまなハウスカードが発行されている。これらは、発行体の系列の店でしか利用できないが、その分還元率を高めに設定しており、利用額の10%程度が戻ってくるものも多い。自分がよく利用する店があるのなら、そこがカードを発行していないか、いちど調べてみてもいい。
 だが、それよりもっと汎用性が高いのは、航空会社のマイレージ・プランと連動したクレジットカードを使うことだろう。
 マイレージとは、特定の航空会社を利用した際に、飛行距離(マイル)に応じて得られるポイントのことである。このマイルを貯めると、航空券と交換することができる。もともとはアメリカの航空会社が始めたサービスで、この10年間で急速に普及した。全世界のマイレージ利用者は1億人、利用者が保有するマイルの合計は8兆5,000億マイルという調査結果もある。

 マイレージが絶大な人気を集めた理由は、その飛び抜けた還元率の高さにある。
 先の調査を報じた新聞記事では、「航空券に交換する場合の1マイル(約1.6キロ)の価値は世界平均で5セント(約6.2円)」とされているが、米系のユナイテッド航空が「1マイル=4円」でマイルを販売していることを考えても、これは少し過大評価だ。同社のアメリカのサイトでは、同じマイルを「1マイル=2.788セント」で販売している。1ドル=123円として約3.5円。現在の為替レートなら米ドル建てで購入した方が有利だが、いずれにせよ、「1マイル=3円」程度の価値で考えておけば間違いないだろう。
 各航空会社は当初、正規航空運賃での搭乗者にしかマイル加算を認めなかったが、顧客からの要望と他社との競走上、なし崩しに格安航空券にもマイレージ・サービスを開放した。これが「マイレージ革命」の出発点で、その結果、いまや「第2の通貨」と呼ばれるまでの世界的なブームが到来したのである。
 マイレージがいかに有利かを、具体的に検証してみよう。
 日本と香港を往復すると、およそ3,700マイルが獲得できる。「1マイル=3円」で計算すると、このマイルには約1万1,000円の価値があることになる。航空券の値段は時期によって異なるが、たとえば本稿の掲載される6月半ばに香港まで行こうとすると、米系航空会社の格安航空券で往復4万2,000円となっている。これで1万1,000円の価値があるマイルが獲得できるのだから、還元率はなんと26%。支払った費用の4分の1が戻ってくる計算になる。
 なぜ、こんな不思議なことが起こるのだろうか?
 航空会社にとっては、空気を運んでも人間を乗せても、コストはほとんど変わらない。そうであれば、乗客のいない旅客機を運行させるより、大幅な割引をしても顧客を囲い込んだほうが、マーケティング戦略上、得策だということになる。
 実際、いちど特定の航空会社のマイルを貯めはじめた顧客は、永久にその航空会社を使い続けることになる。これをロイヤルティ(忠誠)プランと言うが、その名のとおり、顧客は航空会社の僕となり、その見返りに報酬を受取るのである。

 マイレージが普及するにつれて、その爆発的な人気にあやかろうと、他業種も積極的に提携を望むようになった。現在では、ホテルやレンタカーはもちろん、保険や電話代の支払いにまでマイルが貯まるようになっている。航空会社と提携することができさえすれば、マイレージ・プランで囲い込まれた顧客を容易に自社のサービスに呼び込むことができるのだから、提携企業はますます増える一方だ。クレジットカードは、その代表である。
 ユナイテッド航空JCBUCセゾンカードと、ノースウエスト航空JCBシティバンクダイナースDCカードと、アメリカン航空三井住友VISAカードと提携している。
 ここで米系大手3社をとくに挙げたのは、マイレージとは、このいずれかに加入するものだからだ。JALANAJASもマイレージ・プランを持ち、多くのカード会社と提携しているが、国内便を利用する人以外にはあまり意味はない。ANAがユナイテッド航空、JASがノースウエスト航空、JALがアメリカン航空と提携しているように、世界の航空会社のほとんどはこの米系大手3社(デルタ航空を加えれば大手4社)と提携関係にある。マイレージが海外旅行で威力を発揮することを考えれば、ドメスティックな航空会社のプランはいずれ消滅していく運命にある。

 クレジットカードでマイルを貯める場合、一般に、100円の利用額に対し1マイルが獲得できる。「1マイル=3円」と考えれば、還元率は3%だ。追加の年会費を払えば、100円の利用額に対して1.5マイル獲得できるものもある。この場合の還元率は、4.5%に跳ね上がる。10万円の買い物をすれば、4,500円が戻ってくる計算だ。ポイントを金券に交換した場合の還元率が0.5%、10万円あたり500円であることと比較すると、クレジットカードでマイルを貯めることがいかに有利かわかるだろう。
 利用額100円に対して1.5マイル獲得できるとすると、このカードで年間に2万マイルを貯めるのに必要な利用額は130万円強。これで、アジア内の往復航空券と交換できる。4万マイル(利用額約270万円)ならハワイ、6万マイル(利用額400万円)ならアメリカ本土まで無料で往復できる(ユナイテッド航空の場合)。現在は各社とも、マイルを無期限で蓄積できるようにしているので、時間さえかければ、誰でも必ず航空券と交換できる。この無料航空券で旅行をすれば、さらにマイルが貯まっていく。
 世の中には、このシステムを利用してただで海外旅行をしている人がいっぱいいる。そのためのちょっとした裏技を、ひとつだけ紹介しよう。
 やり方は簡単。あなたの会社で宴会や会合があったら、真っ先に幹事に手をあげればいい。その代金をマイレージと提携したクレジットカードで立替え払いすれば、年間利用額100万円はそう難しいことではないはずだ。
 たったこれだけの努力で、ベトナム、タイ、インドネシアなどにただで遊びにいくことができるのである。



『マネーロンダリング』の舞台





香港の下町

 香港では、店の大きさと看板の大きさは比例しない。
 10人も入れば満席の狭い定食屋が、道路いっぱいに派手なネオンサインの看板を掲げていることもある。
 後から看板を出す店は、目立たせるために、さらに巨大にするしかない。
 老朽化した看板は台風のシーズンに落下するので、自然と新陳代謝が進むのだという。

『マネーロンダリング』WEB香港ツアー
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