実践『マネーロンダリング』講座

橘玲 TACHIBANA Akira



橘玲著『マネーロンダリング』
定価(本体1800円+税)


『マネーロンダリング』
ホームページ
http://www.alt-invest.com/pl/book/index.htm


第7回 忠誠を誓うに値するもの(1)旅行券・商品券



 前回は、本来ならロイアリティ(忠誠)プランに適しているはずの通信サービスが、技術の急速な進歩に翻弄されて、顧客を囲い込む効果的な方法を提示できないでいる現状を説明した。航空サービスのように、ビジネスの手法が確立している成熟産業でなければ、移り気な顧客に忠誠を誓わせることができないのだ。
 その意味では、身近な店舗を活用できる流通業や飲食業はロイアリティプランに適しているが、たいていの場合、汎用性がない。近所の靴屋で買い物をしたり、居酒屋で酒を飲んでクーポンにスタンプを押してもらっても、いつの間にか有効期限を過ぎてゴミになってしまうのが関の山だ。
 では、航空会社のマイレージプラン以外に、忠誠を誓うに値するものはないのだろうか? それが、今回のテーマだ。

 旅行会社や百貨店には、「積立プラン」が用意されている。
 たとえば、JTBの旅行積立“たびたび”では、毎月8,256円を12回積立てる(総額9万9,072円)と、1年後に10万円の旅行券が受取れる。これを利回りに換算すると、年利2.03%に相当する。2年間積立てれば年利換算で2.14%、3年で2.32%、5年で2.71%になる。1年もの定期預金金利が0.03%であることを考えれば、破格の“運用”成績だ。
“たびたび”には、積立てプラン以外に一時払いもあり、たとえば98,040円を1年間預けると、10万円の旅行券がもらえる。こちらは年利換算で2%の利回りだ。同様に、2年間預ければ2.23%、3年で2.44%、5年で2.83%の運用利回りが得られる。
 ちょっと紛らわしいので、表にしてみよう。


JTB“たびたび”の運用利回り(年利換算)
積立回数積立て一時払い
6回(ヶ月)2.07%1.76%
10回(ヶ月)1.82%1.75%
12回(ヶ月)2.03%2.00%
24回(ヶ月) 2.14%2.23%
36回(ヶ月)2.32%2.44%
60回(ヶ月)2.71%2.83%


 こういう計算は、表計算ソフトEXCELでRATE関数を使うと簡単にできる。時間の無駄と思うかもしれないが、やってみる価値はあるもので、理由はよくわからないものの、年利換算した利回りに微妙な歪みが生じている。
 定期預金の場合、預入期間に比例して金利が高くならなければおかしいが、JTBの“たびたび”では、10回積立て(あるいは一時払い10ヶ月)の利回りが6回(6ヶ月)より低い。中途半端な期間を選ぶのは損なのだ。積立金額には10万円、20万円、50万円の3種類があるが、この金額によってもわずかに利回りが異なる。
 この表を見ればわかるように、6回の積立ては10回や12回よりも利回りが高い。したがって、理論上は6回積立てのみを使うのが得だが、申込んでから積立て開始まで1〜1ヶ月半かかるので、これを繰り返すのはかなり面倒である。それを見越して、若干、利回りを高めにしているのかもしれない。

 旅行券積立ての利回りが高い理由は誰でもわかる。入手した旅行券はJTBの本支店でしか使えず、利用者がなんらかのサービスを購入した際に、JTBには手数料が落ちるからだ。その手数料の一部が、あらかじめ旅行券のかたちで還元されていると考えればいい。
 ところで、海外旅行の格安航空券やパッケージツアーなど、同じ商品でもJTBより安い価格を提示している旅行代理店はいくらでもある。せっかく年2%で“運用”しても、割高な商品を購入するのでは、いったい何をやっているのかわからない。
 そう考えれば、積立てで手に入れた旅行券は、JRの乗車券や国内旅行の航空券など、どこで買っても値段が変わらないものに使うべきだろう。1,000円未満の釣銭は現金で払戻されるので、ちょっとした旅行や外出の際も、こまめに旅行券を使えば、手数料なしで換金も可能だ。
 以前は、旅行券でJRの回数券を購入し、それを金券ショップで換金してしまうという裏技があったが、やる人間が多すぎたためか、残念なことに今では使えなくなってしまった。

 旅行券以上に、圧倒的に利回りの高い積立プランに、デパートなどで行なわれている「友の会」がある。12回(1年)の積立てで、1回分の商品券がボーナスでついてくるというのがふつうだ。1万円を12回積立てれば、13万円の商品券が送られてくる。これを年利換算すると、なんと17.32%にもなる。最近はデパートもよく経営破綻して世間を騒がせるが、大手を選べば元本保証とほぼ同じだから、この超低金利の時代に、これほど有利な運用手段はほかにはない。
 ただ、問題がないわけではない。
「友の会」の積立てプランでもらえる商品券は、当然のことに、その系列の百貨店でしか使えない。汎用性の高い全国共通商品券の場合、金券ショップでの換金率は95%程度だが、これが地方の百貨店や、信用力に不安のあるデパートの専用商品券になると、一気に80%程度まで下がってしまう。これでは換金しても大赤字になってしまうので、積立プランを始める際は、大黒屋などの金券ショップであらかじめ買取り価格をチェックしておく必要がある。
 三越・伊勢丹・東急などの有名百貨店の専用商品券でも、買取価格は現在、92%程度しかない。1万円を12回積立てて13万円分の商品券を受取っても、金券ショップにもっていくと11万9,600円にしかならない計算だ。一部のマネー雑誌などで、「友の会」の商品券を金券ショップに持ち込む“資産運用法”が紹介され、多くの主婦が真似をするようになったため、需要と供給の法則で価格が下がり、先行者利益が消滅したのである。もはや、商品券積立では儲けられない。経済学の教科書にも使えそうな話だ。
 さらに、こうした専用商品券では、現金で釣銭を受取ることはできない。1,050円の買い物をした場合、一般の商品券では、2,000円分の商品券で950円の釣銭がもらえる。ところが専用商品券では、1,000円の商品券+50円を払うことになる。これではトラブルになるのが当たり前で、そのため、三越などは「友の会」で商品券を渡すのをやめ、プリペードカードにしてしまった。1万円を12回積立てると、13万円分のプリペードカードが送られてくるのである。
 このように、百貨店の「友の会」は、名目利回りの高さは圧倒的なものの、利用範囲が限定されていることを考えると、自宅や職場の近くなど、頻繁に行くところでないと意味がない。そのうえ、デパートで売られている商品は、スーパーやディスカウントショップよりも当然割高である。それを考えると、実質利回りがどのくらいになるかは微妙なところだ。ただし、贔屓にしているデパートがある人は見逃す手はない。

 ここ数年、「友の会」以上にデパートが力を入れているものに、ハウスカードによるポイントバックがある。商品購入時にカードを出すと、金額に応じてポイントが貯まっていくという仕組みだ。
 ポイントバックの詳細は個々のデパートによって異なるが、たとえば首都圏の某百貨店の場合、1年間の利用額10万円未満で、翌年から3%のポイントが貯まる。年間利用額100万円以上なら8%だ。キャンペーン時にはそれに2%のポイントが加わり、最大還元率は10%となる。
還元率8%の人がこのデパートで100万円の買い物をすると、8万円分のポイントが貯まる(100万円×8%)。このポイントは、いつでも8万円の商品券と交換することができる。
 ひとつのデパートで年間100万円も買い物などしない、という人も多いだろう。しかしちょっとした裏技があって、このデパートの場合、商品券を購入しても利用額に加算できた。極端な例を挙げれば、12月31日に100万円の商品券を買えば、実際は何の買い物もしていないのに、翌1月1日から8%のポイントが貯まっていくのである。これでは、そのデパートのすべての商品が8%引きで売られているのと同じだ。
 この裏技はかなり長く使えたが、今年になって、ようやくこれでは大損だということに気づいたらしく、商品券は利用額に参入されなくなった(当たり前だ)。
 しかしここは鷹揚なので、いまだに、商品券で買物をしてもポイントがつく。先の例で、8%のポイント還元で手に入れた8万円の商品券を使うと、さらに8%のポイントがたまり、6,400円分の商品券に換わるのである(8万円×8%)。これを繰り返していくと、8%ポイント還元の実質利回りは8.7%まで上がる。
「友の会」プランで商品券を入手し(実質年利回り17.32%)、その商品券で買い物をしてポイントを貯め、さらに商品券に交換すれば(同最大8.7%)、計算上は、なんと年27.5%で運用できたことになる。いくらデパートの品物が高いといっても、常に27.5%のバーゲンプライスで買えるなら、忠誠を誓うに値すると言っていいだろう(だからこそ実名を伏せたのだが、自力で調べれば簡単にわかる)。
 損益計算がしっかりしているデパートでは、もちろん、こんなことは起こらない。通常は、商品券での買い物はポイントに加算されないからだ。
 しかし、安心してほしい。その場合もちゃんと、裏技が用意されている。
 まず、買い物はすべて、現金払いにはせずに、クレジット機能付のポイントカードで支払う。これで、利用金額に対して規定のポイントが貯まる。そのうえで、デパートのサービカウンターに行って、「クレジットカードの残債を商品券で支払いたい」と言えばいいだけだ。これはたんなる債務の繰上げ返済だから、どこでも受付けてくれる。
 ちょっとだけ面倒だが、これで無事に、商品券を使うと商品券がもらえるという不思議な話が成立するのである。