実践『マネーロンダリング』講座

橘玲 TACHIBANA Akira



橘玲著『マネーロンダリング』
定価(本体1800円+税)


『マネーロンダリング』
ホームページ
http://www.alt-invest.com/pl/book/index.htm


第11回 リゾート会員権の不思議



 今回は、あまり知られていないリゾート会員権について述べてみよう。
 どこの小学校のクラスにも、日ごろはまったく目立たないが、実はなかなか見所のある生徒がいたはずだ。リゾート会員権は、地味だが光るものを持っている、そんな生徒に似ている。

 リゾート会員権とは、簡単にいうとリゾートクラブの利用権のことだ。不幸なことに、日本ではゴルフ会員権の一種と思われている。業者の数も少なく、そのうえホテル形式、別荘形式、リゾートマンション形式などさまざまな形態があるので、認知度もまだまだ低い。しかし、これは検討に値する商品だ。とくに旅行が好きで、平日やシーズンオフにまとまった休暇が取れる人にお勧めしたい。
 リゾート会員権について調べ始めたら、最初はその見慣れないシステムに戸惑うはずだ。しかし、悩む必要はそれほどない。日本のリゾート業界はまだ小さく、業者の優劣もはっきりしているので、後述するように、購入を検討する優先順位(プライオリティ)がはっきりしているからである。
 その前にまず、簡単にシステムについて説明しておこう。
 リゾート会員権は、大きく預託金(利用権)制と共有制に分かれる。
預託金制は、ゴルフ会員権のそれとまったく同じだ。リゾートクラブは会員を募って預託金を集め、その資金でリゾート施設を開発する。会員は、その施設の利用権を取得する。この預託金は、一定期間経過後に、会員から申し出があれば返還する義務がある。
 もうひとつの共有制は、リゾート施設の不動産としての側面に着目した方法で、会員はリゾートの一部(通常は一部屋)を何人かでシェアする。購入した資産は本人名義で不動産登記されるので、こちらは所有権である。
 いずれに場合も、年間の管理料のほかに、宿泊に際して別途利用料が必要になることが多い。といっても1泊3,000円程度が普通なので、ホテルや旅館を利用するよりも圧倒的に安いことに変わりはない。最初に支払う会員権コストと、この宿泊費の差額を比較して、購入する価値があるかどうかを判断するのが基本だ。当然、利用すればするほどコストパフォーマンスはよくなる(使わない権利を家族や知人にプレゼントすることもできる)。

 利用権と所有権では大きな違いがあるようだが、この両者にほとんど優劣はない。
 預託金制のゴルフ場では、金を集めたもののゴルフ場開発が頓挫し、いつまでたっても開業できず、かといって預託金の返還もままならないといったケースが多発した。しかし、現在のリゾートクラブではそうしたことはありえない。もはや誰も、かたちのないものに金を出さないからだ。ほとんどのクラブが体験宿泊制度を持っているので、実際に利用してから、会員になるかどうかを決めればいい。
 もちろん、クラブが経済的に破綻した場合、担保のない預託金制の会員権は紙屑になる可能性が高い。それに対して共有制の場合、物件の所有権は会社の負債とは切り離されているので、最悪でも不動産を競売にかけ、その売却代金を回収することができる。ただし、所有権は通常、1室の50分の1程度なので、回収できる金額にも限界がある。気休め程度にしかならない。
 ゴルフ会員権で問題になったように、資金繰りに窮したクラブが大量の利用権を発行するケースもないとは言えない。預託金制だと、会員数を偽って会員権を乱売することが可能だからだ。こうしたケースでは、会員権の価値が下がるばかりか、いざ利用しようと思っても予約を取るのが困難になってしまう。
 不動産登記が必要な共有制だと必然的に会員数の上限が決まるのでこうした心配は不要だが、その一方で、預託金制と異なって、会員権をクラブに買取らせる(預託金の返還を請求する)ことができない。換金する場合は、流通市場で会員権を売却するしかない。そのうえ不動産の登記費用が別にかかるので、その優劣は一概には言えない。
 リゾートクラブを選ぶ際の第一のポイントは、預託金制か共有制かにかかわらず、クラブの経営状態をチェックすることだ。担保があろうがなかろうが、肝心のクラブがすぐに潰れてしまったのでは意味がない。

 主要なリゾートクラブは、複数の施設を運営している(大きなクラブだと、ハワイなどに施設があるところもある)。預託金制で利用権を所得した場合、これらの施設を利用できるチケットが配布されるのがふつうだ。平日に比べて、週末やゴールデンウィーク、夏休み、年末年始は利用価値が高いので、当然、こうしたハイシーズンの利用は制限される。平日主体の利用と、ハイシーズンの利用とで金額に差をつけている場合もある。 このあたりはクラブによって違うが、システムそのものの理解はそれほど難しくない。
 混乱するのは、共有制のリゾートクラブの方だろう。
 別荘やリゾートマンションを購入しても、ほとんどの人は年間の一部しか利用しない。大半を空室で放っておくのは無駄だし、利用しなくても管理費は徴収される。それなら1軒(1部屋)を何人かでシュアした方が合理的だというのが、共有制のそのそもの始まりだ。
 一般的なのは1年を52週に分け、その1週分を購入する方法で、「ワンウィーク・リゾート」として欧米で普及した。自分が購入した週は、オーナーとして自由に利用することができる。当然、オフシーズンよりもハイシーズンの所有権の方が高くなる。
 ところで、毎年決まった週に、同じリゾートを利用するだけで満足するというのは、かなり変わった人である。仕事の都合でまとまった休みのとれる時期は異なるだろうし、同じクラブが他のリゾートにも施設を持っていれば、たまには違うところを利用してみたいとも思うはずだ。
 こうしたニーズに対応するために、どのクラブも他の会員と権利を交換できるシステムを採用している。こちらは正確にいえば、所有者が他の会員に部屋を貸すわけだが、賃料が発生するわけではないので、実質は利用権の交換と同じである。
 共有制のリゾートクラブでは、不動産の購入代金に応じてポイントを決め、そのポイントの枠内で他のリゾートと交換できるところが多い。こうなると、預託金の額によって利用権の範囲が決まるクラブとの違いはほとんどなくなる。あえていえば、不動産が担保についていることと、自分が所有する1週間の利用権が100%確保されていることだけだ。

 リゾート会員権のもうひとつのポイントは、クラブが新規で発行する権利を購入するか、流通市場で仲介業者から入手するかである。
 市場主義の経済では、一物二価の状況は生じないことになっている。株式市場での新株発行が典型だが、新しく発行される株式の売出し価格は流通市場での価格(株価)を基準に決定される。株式市場で買った方が安いなら、誰も新株に応募するはずがないからだ。一般の不動産でも、売れ残ったマンションの価格は、中古市場の価格に連動する。
 ところがリゾート会員権市場では、いまだに新規発行の会員権価格と流通市場での価格が大きく乖離している。まったく同じ利用権(使用権)であるにもかかわらず、クラブから買った方がずっと割高なのだ。
 譲渡制限のある特殊な会員権を別にして、ほとんどのクラブが会員権の譲渡を認めている。この場合、新規の会員も、権利を譲渡された会員も、契約上はまったく同じ扱いになる。会員権の譲渡とは、以前の会員が保有していた権利をそのまま譲り受けることだからだ。「中古」の会員権だということで、利用を制限されるようなことはない。
 そう考えれば、リゾート会員権は流通市場で購入した方が圧倒的に有利だ。このことを知らないと、無駄な出費をすることになる。
 リゾート会員権の流通価格はインターネットで簡単に検索できる。そのため最近では、新規の会員募集ができないクラブも増えてきた。ここでは個別の業者の紹介はしないが、日本リゾート協会に加盟している流通業者のホームページを見れば、そのあたりの事情はすぐにわかる。
 リゾート会員権の場合、なぜか新聞や雑誌では価格情報が流されていない。ほとんどの流通業者はホームページ上でしか取引価格を公開していないので、インターネットを利用できるかどうかで取得価格に大きな差が出てくる。これも個別名は避けるが、まったく同じ会員権でも、流通価格に80万円から200万円まで差があるのだ。
 ところで、一部のクラブでは、「正規」会員と「譲渡」会員の公平を保つためと称して、100万円近い法外な名義書換料を設定している。この場合は当然、名義書換料の分だけ会員権価格は下落し、場合によってはマイナス価格となって、会員権が流通市場から排除されてしまう。市場経済を理解しないこうしたクラブの経営がうまくいくとは思えないので、相手にしない方が賢明だろう。

 リゾート会員権の価格は、バブル時の3分の1から5分の1程度まで下落している。往時は400万~500万円した会員権が100万円前後で購入できるようになった。「クラブの存続を前提とすれば考えられない価格」というのが、業界の共通認識のようだ。逆に言えば、いつ破綻してもおかしくないクラブがあるということでもある。
 実際、業者の提示する販売価格を見ていると、預託金を下回るケースも出てきている。それに引きずられて、経営の安定しているクラブの会員権価格も値下がりしており、現在ならかなりのバーゲン価格で入手可能だ。
 預託金制のクラブの場合、理屈のうえでは、預託金額から名義書換料を引いた額が会員権価格の下限になる。預託金が100万円、名義書換料が20万円なら、理論上の最低価格は80万円ということだ(実際はこのほかに流通業者に支払う手数料が10万円程度必要になる)。それより安ければ、購入した直後にクラブに預託金の返還を請求することで利益が生じてしまう。したがって、もしこの理論価格よりも安い値段で売られていたら、そのクラブは経営が悪化していて預託金の返還にも対応できないと見なされていることになる。
 共有制クラブの場合、理屈のうえでは、会員権の最低価格は不動産の資産価値によって計算できる。自分が所有しているリゾートの不動産価格と建物の再建築価格を見積り、それを自分の持分で割ればいいのだ。しかし現実には、正確な資産価値の計算は不可能なので、保有しているポイント(あるいはチケットの枚数)の利用価値から判断することになる。
 いずれにせよ、リゾートクラブの解散価値(理論上の最低価格)に利用権を加えた額が、会員権の「適正価格」になる。クラブが存続する限り永久に利用権は継続するはずなので、会員権価格が解散価値とほとんど変わらない現状は「考えられない」というわけだ。

 ところで、リゾート会員権が面白いのは、価格の大幅な下落にもかかわらず、その利用価値が上昇していることだ。といっても、各クラブが施設を拡充しているわけではない。先に述べたように、新規会員権の募集が困難になってきたために、どこも経営は苦しい。それを埋め合わせるために、クラブ同士での利用権の交換制度が急速に拡大してきているのだ。
 たとえば日本リゾート協会では、協会加盟の代表的なリゾートクラブ10社の施設を相互に利用できるりぞねっとを運営している。どれかひとつのクラブに会員権を保有していれば、割安な料金で全国20施設が利用可能になる。
 こうしたリゾートクラブ間の提携を世界規模で行なっているのがRCIで、会員数は260万人、日本を含む全世界3,600ヶ所のリゾート施設をリンクしている。RCI加盟のリゾート会員権を取得するだけで登録可能で、とくに海外のリゾートは、どこでも一律1週間3万円という破格の値段で利用可能だ。
 予約の取りやすい平日やシーズンオフに休暇の取れる人なら、こうしたリゾートネットワークを活用して、豪華でローコストな旅を楽しむことができるだろう。

 最後にひとつ。ここまでリゾート会員権の一般論を述べてきたが、実は日本のリゾートクラブの中で、流通市場で安定して売買が成立している会員権は現在のところ1社しかない。それが最大手のリゾートトラストだ。それ以外の会員権を購入しても、自由に売却できるとは限らない。
 どのような資産を保有する場合でも、資産の流動性は非常に重要である。今は想像できないとしても、いつどのような事情で換金する必要が生じるかわからないからだ。別にこの会社の宣伝をするわけではないが、流動性を重視するならば、現実的には選択肢はひとつしかない。他のリゾートクラブを検討する際にも、比較の基準を提供してくれる。
 なお、リゾートトラストには「エクシブ」と「サンメンバーズ」の2種類の会員権がある。そのうち「サンメンバーズ」は、現在、新規の発行を行なっておらず、流通市場で会員権を取得するしかない。両者の施設利用権は重複しており、割安なサンメンバーズの会員権でも豪華なエクシブの施設が利用できるため、人気は高い。
 市場価格の定まらないリゾート会員権の世界は、宝探しに似ている。複数の会員権の中から割安で利用価値の高いものを探していくのも、楽しみのひとつだろう。