FE:いま出版界のなかで、見城徹ほどパワフルで敵なしの男はいないと言われていますが…。
見城徹(以下、見城)「僕は、人一倍不安や恐怖を感じるタイプなんですよ。しょっちゅう後ろ髪を引かれているし、小石にもつまづく。何をやるにもウジウジ悩んだりクヨクヨする男なんです。7、8年前にトム・クルーズの仕事や私生活に密着して書かれた記事を雑誌で読んだことがあるんだけど、彼はいつもちょっとしたことでたじろぐんだそうです。例えば明日ベッドシーンがある。ものすごく憂欝で落ち込む。ロケ現場でもずっと無口で。でもいよいよ本番の時間が近づいてくると自分を吹っ切ったように、『ロッケンローーール!』と叫んで現場に入っていくんだって。その気持ちがすごくよくわかるんだよね。以来、僕も一歩踏み出すときにはいつも心の中て『ロッケンローーール!』って叫んでますよ(笑)」
FE:でも、普段はそう見られないように工夫しているんじゃないですか?
見城「そんなことないよ。いつもミエミエに悩んで、最後は紙一重で前に行くというだけだから」
FE:幻冬舎という会社を作って以来、史上最速でミリオンセラーを6作も連発したり、3年目にいきなり12億円を叩いて62作の文庫本を送り出したり、郷ひろみの『ダディ』を常識外の初版50万部からスタートしたり……。どうして見城さんは毎回壁を突破できるんですか?
見城「そうしなければ何も始まらないと思うからじゃないかな。人は現状維持が一番楽なんですよ。でもそれでいたら満たされない自分がいる。寂しい自分がいるんですよ。だから、苦しくても、一歩前へ出る」
FE:それができる人は世の中に3%くらいしかいないんじゃないかと思いますよ。その他大勢はアクセルを踏めないまま、やがて死んでいく。でも見城さんは、彼らの琴線もわかるから出す本が売れるわけですよね。
見城「その二重性は持っていないとね…。密やかに生きて密やかに死んでいく、誠実に生きて誠実に死んでいく、無口に生きて無口に死んでいく…。そこには重い生の営みがある。そこをすごくよくわかっていながら、自分はポーンと一歩踏み出す。突破する。そうしなければ生きて行けない。危険なものを見つけてそこへ行く。危険な道のランクがABCDとあれば、ウジウジ悩んだ末にAへ行く。それができない局面では、どこも突破しないでEを選ぶのかもしれない。AかEか。どちらにしてもミドルはない。その相矛盾する両方の振幅があって初めてマスを包摂できるんじゃないかと思いますよ」
FE:『大河の一滴』が文庫・単行本あわせて300万部を突破した理由もそこですか?
見城「人は必ず病気になるし、生まれたからには必ず老いる。肉親だろうと友人だろうと人は裏切る…。仕事は上手く行かない、恋は成就しない。それを前提として生き始めようじゃないかというのが『大河の一滴』の根本に流れているものなんです。黙々と生きて黙々と死んでいった人たちはみな、それを静かに受け入れるんです。僕にとって尊敬すべき人たちというのは、そういう人たちなんですよ。人生の価値というのは、総理大臣だろうと田舎で黙々と生きた人だろうとみな同じだと思うんですよね。最終的に人はひとりで死んでいく。それはすべての人間に対して平等じゃないですか。その時、笑って死ねるかどうか。それ以外は全部プロセスに過ぎない。自分の人生が成功か失敗か、死ぬ瞬間、自分自身が決めるわけです。その瞬間のために僕は今、戦っている」
FE:なぜそんなに寂しいんですか?
見城「だって人は必ず死ぬんだよ! もし死なないのなら、すべての問題は解決しちゃう。フラれたって全然寂しくないと思わない? 1億年後には必ず恋は成就するだろう、一人くらいは(笑)。時間の秘密というのはものすごく大きなことで、ものの哀れもせつなさも、感動はすべてそこから生まれてくる。時が経つことは誰も止められない。生病老死だよね。それを受け入れられるかどうかなんだけど、僕はダメなんですよ。生きている瞬間瞬間で自分を満たしてやらないと…。哲学者や宗教家がいろんな生き甲斐を説くけれど、本当の生き甲斐なんてないんですよ。でもそれがないなんて言ってしまえばおしまいだから、一生懸命自分の中でその場その場の生き道を求める。宗教にきちんと入り込んで神と直結すれば、生涯寂しさを感じなくていいのかもしれないけど…」
FE:なぜ、そこにハマらないんですか?
見城「いろんな宗教を見たし、旧約聖書も新約聖書も全部読んだし、法華経も勉強したけど…そこに自分を埋められない。それよりもこれだと思った女を勝ち得てセックスするときのほうが埋められるんですよ(笑)。それも瞬間的だけどね(笑)。あなたは何が一番寂しさを埋められる?」
FE:足元にも及ばないですが、やはり仕事ですかね。
見城「仕事は大きな要素だね。でも、僕は仕事だけでも埋められないんだ」
FE:女ですか?
見城「自分を理解してくれる女は重要だね。男じゃダメなのよ。男が理解してくれてもどうしようもない。メディアの取材とかがドッと来るのも、一時は面白かったわけ。知らない人から『サインして下さい!』つて声掛けられたりしてね。虚栄心やナルシズムを満足させるところがあって、メディアに出ることによって寂しさを忘れられるようで楽しかったのね。でも、今はそれもできるだけやめようと思って9割方断っているんです。結局、仕事も一瞬、一瞬のものでしかないんだよね。最近、ソニーマガジンズからコミック部門を引き取って幻冬舎コミックスという子会社を作ってさ。けっこう博打なんだけど、今はそれに気持ちが入っているんです。それから、3年半かけて準備してきた『戦争論2』を50万部売って、半年で百方部まで伸ばしたいなという気持ちも強い。そういうことを絶えずやっていないと僕はダメなんですよ。ささやかに売れるだけじゃ、寂しさを埋め切ることができない…」
FE:着い頃からそんなに寂しいんですか?
見城「ずっと寂しい」
FE:周りに愛がなかったんですか?
見城「いや、そうじゃなくて、人間はつねに死に向かって生きているわけじゃない? 結局死ぬために生きている。それ以外は全てがごまかしですよ。何をやったって死という圧倒的な事実に向かっているわけで。それを回避できるならいいよ。回避できないからすべては一時的なごまかしでしょ。だから根本的に寂しいわけです。愛があろうと仕事がうまくいこうと。だから僕にとっては、死をどのように受容するかが最大の問題なんです」
FE:じゃあ「自殺」はどういう位置付けになるんでしょうか?
見城「自殺できれば一番いいと思っている。でも今はまだ自分で自分の命を絶つことはできない。何度もそうしようと思うのね。ただその勇気がないだけなんだよ」
FE:見城さんが自殺すると、残された幻冬舎の方々が大変しゃないですか。
見城「そんなことは知ったこっちゃないよ(笑)。僕は僕のために会社をやっているわけで、彼らは彼らのためにこの会社にいるわけで、僕が死んだら誰かが何とかするかもしれないし、離れていくかもしれない。家族はいるとしても、それぞれの人生のなかで今ここを選び取っているだけでしょう。だから僕は『辞める』というヤツは絶対に止めない。ものすごいエゴイストだから、この会社も見城徹という生き様の形だと思っているんです。僕の、のっぴきならない人生を生きるためにこういう会社になってしまったんです。アンドレ・マルローの『王道』の中でテロリストの陳が死ぬ直前に放った台詞がカッコいいんだけどね…『死、死などない。俺だけが死んでいく』…まさにその通りで、俺だけが死んでいくんですよ。自分にとっては死でも、他の人にとっては死なんてないんです」
FE:なるほど。
見城「だから僕は、幻冬舎をやっていなかったら今ごろ飛行機の操縦席に座ってビルに突っ込んでいたかもしれない。アラブ人の彼も、もしかしたら微笑みながら突っ込んだのかもしれない。それも彼自身の生き様なんだからいいじゃないかと思うよね。それは共同体の善悪や正義や真実なんていう、浮わついた言葉ではくくれないものでしょう。死ぬ理由が見つかれば僕は死にますよ。ヘミングウェイが自分を撃った、三島由紀夫が腹を捌いた、奥平岡士が自分の足に爆弾を投げだというのは、だから僕にとって重いんです。60年安保のときに全学連が国会に突入して樺美智子という東大生が死んだ事件があったんだけど、その後彼女の日記が発見されて『人知れず微笑まん』という本になってね。その本は、『最後に笑うものが一番良く笑うという。私も最後には人知れず微笑みたいものだ』という詩の1行で終わるんです。彼女は早過ぎる死の瞬間、笑えただけだろうかって考えるんです。ホームレスでも大統領でもテロリストでも、みんな対等の人生を生きている。僕は最後に微笑んで死ぬためにダッシュしている。だから、すべての議論や人生論はどうでもいいことなんです」
FE:ただ、見城さんは少年の頃からずっと活字を愛していますよね。
見城「そうだね。いろいろ言ったけど、やっぱり活字をマスに売ることが、一番僕の寂しさを紛らわすことなのかもしれないね…」
FE:この業界内でライバルを意識したこともないのですか?
見城「自分のみっともなさも欲望も、薄っぺらなところもぶ厚いところも全部ひっくるめて幻冬舎としてやっているわけで、他とは比べ様がないんですよ。それは僕のオリジナルで、迷いながら生きているんだから自分の人生以外にライバルなんていない。人と比べるなんて生きる上で何の意味もないでしょう」
FE:過去も引きずらない?
見城「引きずらないんだよねえ。自分を満たしてくれるものは、今、この瞬間にリスクがあるものじゃないとダメだから。だから『薄氷は自分で薄くして踏め』という言葉にもなるし、『顰蹙は金を出してでも買え』『新しく出ていく者が無謀をやらなくて一体何が変わるだろうか』というコピーにも繋がるんです。もし会社が倒産して一銭もなくなったとしても、また別の生き道を探すと思うよ。また違う僕らしい生き方になるはずだから…。表現者なのか宗教家なのか詐欺師なのかわからないけれど、僕は地べたからやると思いますよ。どうかろうと自分で死ねない限りは、すべて戦いですよ。生きて行くしかないんだから」
FE:見城さん自身、自分の好きなところと嫌いなところをひとつずつ挙げてください。
見城「好ぎなどころ? そうね…臆病なところかな。細かいところまで考え詰めるから、不安に苛まれないまま夜を迎えることはあんまりないよね。僕は臆病なんですよ。チキンハートだから無謀に行けるんです。いつもクヨクヨ者えているから、いろんなことを用意周到に埋めることもできるし、それがあるからターニングポイントで舵を逆に切ることができると思う」
FE:チキンハートの無謀者ですか。
見城「そうかもな。なんとも言えない快感があるんだよ。いっぱい最悪の状況を考え、不安を抱えるわけだから。その上で覚悟が決まる瞬間っていうのは気持ちがいい。悩みに悩んだ末で行っているから退却しないんです。もう行くしかない。行くと決めた瞬間にはスポーンと何かが抜ける。ゼロになってもいいって本当に思える」
FE:自分が嫌いなところは?
見城「やっぱり臆病なところですよ。好ぎなところと嫌いなところって、じつはコインの裏表だよね。僕は細かくて臆病なんです。ひとつもないがしろにできないんです。たとえば23、4歳の社員がトイレ掃除のオバちゃんに『早く掃除終わらせてよ』と無愛想に言って、それを通りすがりに聞いたとする。そんなことすら、ないがしろにできない。そいつと1時間でも話し合っちゃうんです。『今のセリフはないだろう』って。でもそこでかかわったことに対してまた自己嫌悪に陥るんですよ。すると1日か2日は自分が使いものにならない。小さなことで落ち込んでしまう。だから僕はパーティーには絶対に出ないと決めているんです。誰かに声をかけられたとき、他の人と話していて相手できないことってあるじゃないですか。その人に対して悪かったっていう思いをずっと引きずるんだよね。小さいこと、細かいことにいつも蹟いている。もう、やんなるくらいにね」
FE:今後、見城ワールドはどう進むんでしようね?
見城「ダッシュダッシュになっていくしかないと思う。もう肉体的にはチョーパン食らわせられない齢だけど、精神的なケンカはつづくでしょうね…。仕事と女しかありませんよ。あとはないもんね(笑)。僕は生きていて何が嬉しいかと言うと、自分が仕掛けたものがマスに売れた後で『見城さんって素敵!』って好きな女が言ってくれる、それが一番いいんだよ! たった一人の女にそう言われたいためにやっているんです。それ以外は生きている寂しさを埋めようがない」
FE:では最後の質問です。見城徹のコンプレックスって何ですか?
見城「いっぱいあるけど、一つだけ挙げろと言われれば、正直に答えるけど、容姿がみっともないこと。僕は、顔がみっともないと思いながらずっと生きているからね。包み隠さず言えばそれはあるよ。それを克服しようとしてラグビー部にも入ったし、社会人になってから15年間もウエイト・トレーニングを続けた。でもコンプレックスは抜けることがなかったね。顔も身長も体重も。好きな女に『好きだ』と言う一歩を踏み出すのが大変なのね。まっすぐに『好きだ』と言いたいんだけど、そこにはものすごい葛藤があって何年もかかる。とりもなおさず、自分の容姿に自信がないからですよ。その人の存在感や魅力が男を決めるんじゃないかと思っていても、それをひっくるめて、ぬぐいがたいコンプレックスはあるんだよ」
FE:でも女性は一定の年齢を超えると「男は容姿じゃない」って言い始めるでしょ。
見城「と、思うし、友人は『おまえくらい、いい女にもてている男はいないぞ』っていうけどね(笑)」
FE:もてているんじゃないですか(笑)。ところで女性は見城さんに何を求めてくるんですか?
見城「高嶺の花であればあるほど言うんだけどさ(笑)、大概の女が言うのは、『こんな面白い動物にあったことがない』と。こんな生き物はもう生涯現れないだろうって…」
FE:強さに惹かれた訳じゃないんですね?
見城「そうだね。意表をつかれたと思うんですよ。きっと。珍しいんだね。いままで会ったことのない生き物に映るんだね。なんだか最後は自慢話みたいになっちゃったけど…。恥ずかしいなあ」
「Free & Easy」Jan 2002より転載
interview & text by Hiro Naooka
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