鶴屋吉信鶴屋吉信
第9回

この連載を始めるにあたって、事前に
珈琲が苦手という友人たちにその理由を聞いてみました。
すると、
「香りはいいんだけど、エグイ味に裏切られる」
「飲んだ後に胃がもたれる」などの答え。
かつての私も、そんな珈琲にはミルクを入れて
味をごまかして飲んだものです。
また、熱いうちはおいしく感じたのに
冷めてくると酸っぱく感じる珈琲。
これもイヤで、ミルクを入れたりしましたが
結局おいしくなることはなかった。
……そんな経験はありませんか?
今ではその理由が分かってきましたし、
本来珈琲の持つ、酸味と苦味も分かってきました。
みなさんけっこう誤解している部分が大きいのです。
今回はそんな誤解が解ければ、と思います。
店でお豆の販売をしていると、
お客さんとの会話の中で、よく出てくる言葉があります。
大抵、初めて豆を買われる方なんですが、
「酸味があるのは苦手なんです」
「あまり苦くないのがいいんです」
……苦くないもの。
珈琲から苦味を取ってしまったらどんな味になるのでしょう?
でも酸っぱい珈琲というのも確かにキツイですね。
そこで、
「今まで飲んできた珈琲が、
冷めてくると酸っぱく感じたりしたので
酸味がない方がいいという事ですか?」
又は「酸っぱい珈琲がイヤで苦味系の珈琲を試したら、
酸っぱくはないけどエグく感じた。
だからあまり苦くないのがいいという事ですか?」
と聞くと「そうなんです」と。
こんな会話をする度、少しさみし〜い気持ちになります。
本来珈琲は、酸っぱいものでも苦〜いものでもなく、
ちょうど良くておいしいんだよぉぉぉと思うからです。

確かに珈琲には苦味も酸味もあります。
でも珈琲という飲み物は、
苦味を前提とした飲み物ですからね。
ホップの苦味を取ったビールなんか美味しくないでしょ?
それと同じ感覚。
ただ私たちが苦味や酸味に対して敏感になるのには、
仕方ない部分があるんですよね……。
私も珈琲のことを始めるまでは知りませんでしたが、
本来「苦味」というのは人間の本能には「毒」として、
「酸味」というのは「腐敗」として拒否する
危険な味のようなのです。
ですが、この連載でお話してきたような、
上手に熱加工されたおいしい豆であれば、
クリアーな味の印象を持っています。
舌が拒否反応を起こす不快さはありません。
苦味は、舌の上にビッシリと残るようなエグ苦いものではなく、
透明感のある香ばしいもの。
酸味は、酸っぱいという言葉ではなく、
きりっとした微かな酸味が苦味の中に感じられる程度です。
たとえて言うと、レモンの酸っぱさではなくりんごの酸味。
冷めてすっぱくなる珈琲や、エグさを感じるものというのは
豆を熱加工する段階での違いによります。
上手に熱加工されてないとバランスが悪く、
極端に苦くなったり、酸っぱくなったり。
味が偏るためにおいしく感じなかったりするのです。
苦味と酸味のバランスがちゃんと取れていると
おいしく頂くことが出来ます。

接客していると、多くの方が本来の味ではなく、
誤解してる部分で味の判断をしていることに気がつきます。
ま、本当においしい珈琲に出会わなければ、
誤解していても仕方ないです。
こんなものだと思えば、
その味に慣れてしまうのが私たちの舌ですからね。
珈琲に限らず、
どんな飲食物にも当てはまると思うのですが
おいしいと感じるのは味に透明感があり、
バランスが取れているものじゃないですか?
本来の珈琲は、そんなに苦くも酸っぱくもないものですよ。

豆の焙煎具合を表すのに「浅煎り」とか「深煎り」
というのを聞いたことがあると思います。
一般的に「浅煎り」というと豆の色が明るめの茶色、
味は酸味が強い。
「深煎り」というと豆の色が黒っぽい茶色、
味は苦味が強い、というイメージがあり、
実際にそういう傾向はあります。

「焙煎度合」という言葉が、
煎りの段階を表す単語としてあります。
大きく分けて、浅煎り、中煎り、深煎り。
さらに細かく、ライト、シナモン、ミディアム、ハイ、
シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアン、
の8段階に分かれます。
この単語というのはそもそも、メーカーや業者間の
基準のための専門用語みたいなもの。
本来、この銘柄の豆はこのローストで!
という決まりはないです。

となると、これも先ほどの苦味と酸味の話に
関連して言えます。
接客をしていると、煎りはどれぐらい? と
焙煎具合で豆を買う方がいます。
浅煎りだから酸味が強い、深煎りだから苦味が強い
というイメージで選ばれるようです。
確かに豆によっては、例えばモカのような
酸味の「クセ」が強く出る銘柄もあります。
それは味のバランスの中で、
酸味の部分により特色を感じるという
その豆の持つ「個性」なだけです。
ふつうに焙煎して、味全体のバランスの中で
酸味または苦味が秀でるとなれば、
それがその豆の特徴であるだけの話。
酸味を意識して浅く煎ったり、
苦味を意識して深く煎ったりすると、
作る側の作為が入り、
豆の持つ自然な酸味と苦味を引き出すことにはなりません。

実は焙煎というのは、お店や作る側の考え方にもよります。
自然な形で、豆の個性を引き出してあげるような
焙煎をしているお店でなら、
きっと「おいしい豆」に出会えると思いますよ。

自家焙煎のお店である豆を買って飲んでみたら、
あまりおいしくなかった、と仮定します。
その場合、みなさんはだいたい
次は、同じ店で別の銘柄の豆を試してみよう
と考えるでしょう。
又は、少し値段が高めの豆を買えばおいしいかなぁ……と。
ですが、そう試しても「おいしい豆」に出会えることは
残念ながら、ほとんどありません。
なぜなら、どのお店も加工する人の同じ考えのもとに
焙煎をしているのですから。
みなさんがもし、
Aの店で1という豆を買って満足しなかった場合は、
Bの店で同じ1という豆を買って試した方がいいですよ。
それでBの店の1がおいしかったら、
Bの店で他の銘柄の豆を試してみるのはいいと思います。
おそらくどの豆もおいしく頂けることと思いますよ。


次回は、色々とある珈琲の銘柄についての
お話なんかをしてみようと思います。
ではまた。