第10回

お店に行って、ズラーッと色んな種類の豆が並んでいると
どれを買ったらいいのか思わず迷ってしまいますよね?
珈琲屋さんに限らず、ケーキ屋さんや酒屋さんでも
そういう事ありませんか?
食べたい物、飲みたい物がハッキリしていれば
迷う事ないのですが……。
何で迷うかというと、
「どれがおいしいんだろう?」と思うからですよね。
また「これとこれはどう違うんだろう?」と
味の違いを期待するからでしょう。

今回は、そんなみなさんの期待を裏切るかもしれません。
その代わり、新たな期待を持ってもらえるような
珈琲の銘柄についてのお話です。

珈琲豆というのは「コーヒーベルト」と呼ばれる
赤道付近の地域で栽培されています。
産地ごとに、国、港や山の名がついていて
ブラジル、モカ、キリマンジャロと呼ばれているのが
いわゆる珈琲の「銘柄」です。
現在、日本には何十種類もの銘柄が
各国から輸入されています。
どんな珈琲屋さんに行っても、
おそらく20種類ほどは並んでいるところが多いでしょう。
そんな中から2種類くらいを選んで買う時というのは、
それぞれの味の違いを期待して買われるのですよね?
ところが実際飲んでみると、
大して違いが分からない珈琲だったり、
または苦いか酸っぱいかの珈琲だったり。

ですが、よく分からなくても不思議ではありません。
なぜなら、現在各国で栽培されている珈琲の木は
元を辿ればエチオピアの在来種です。
品種は「アラビカ種」といって、
17世紀の植民地時代の交易により海を渡って、
各国に移植され根付いていきました。
それから現在に至るまでの数百年という年月の中で
「各産地の土質や気候などの環境、
または品種の改良により変化し、微妙な味の違いが生まれた」
のが、今の銘柄による味の違いです。
簡単にたとえて言うと、発祥の地である福井産のコシヒカリと
新潟産コシヒカリの違い。
上手に炊かれたお米は美味しいものですが、
それほど違いを感じる事がないのが自然です。
ま、お米にたとえるのも極端かもしれませんが、
イメージとして。

珈琲の栽培には、
生育にあった環境(緯度、標高、雨量など)を必要とします。
それに適した中南米やアフリカ、カリブ海などの地域で、
しかも隣同士の国となれば、豆に大差がなくても
自然な事であると思います。
まして普通の人が飲んで、その微妙な違いなど
よく分からないと思っても不思議ではないのです。
私も黙って出された珈琲は、うまいなぁ〜と思って飲むだけで(笑)
銘柄を当てる事なんか出来ません。

そうは言っても、もちろん銘柄による味の違いはあり、
それぞれのおいしさがあります。
それは、同じ生ビールでも「キリン」と「サッポロ」
また日本酒でも「越の寒梅」と「雪中梅」に
風味(味というよりクセの部分)の違いや、
飲み口、後味の印象の違いなどがあるのと同じ。
特に2種類を並べて飲んでみると、
こんな風に違うんだぁ、と分かりますよね。
ですが珈琲の味の違いは、「酸味や苦味の強弱」という
一般的な表現では片付けにくいです。
あくまで、言葉では表現しづらいような、
舌に受ける印象の違い。
たとえて言うと、Aの珈琲はざらつきのある苦み、
Bは同じ強さの苦みでもなめらかな感じがする、
という表現の仕方になります。
銘柄による味の違いは、こ〜んなに微妙なものです。

ハッキリ言って、味の違いなんて
言葉の説明では伝わりきらないですから、
実際に買って飲んでみるしかない部分もあります。
ただ、銘柄によって価格の違いがありますが、
珈琲は「高い=おいしい」という訳ではありません。
また、無農薬栽培の豆、オークションで入賞した豆
だからおいしいとも限りません。
素材の良さは大事ですが、
技術の良さ(=焙煎)はそれ以上のものを生み出します。
私たちが高級な食材を使って作る料理と、
一流の料理人が、冷蔵庫の残り物で同じような料理を作るとしたら、
どっちがおいしいか?……は想像つきますよね。

銘柄による味の違いは微妙なものだ、と分かった上で
色んな豆を順番に試していくのがオススメです。
価格に関係なく、違いは十分に楽しめるものですし、
その中から自分の好みの珈琲にも出会えると思います。
それには、これまでもお話してきたような
ちゃんと出来上がった珈琲豆であることが大事だったりします。
前回お話したような事で、苦味や酸味が突出してしまうと、
微妙な味の部分を感じとれず、
やっぱり味の違いを楽しめない珈琲となってしまいますからね。
ちなみに私は、色んな銘柄を試して
結局、おいしければどれでもいいや(笑)
というところに落ち着きました。
ある方の本に次のようなことが書いてありました。
「その時の飲みたい珈琲を的確に注文できる人が、本当の通である」
私も賛成でーす。


ブラジルならブラジルだけ、モカならモカだけと
一種類の銘柄のものを「ストレート珈琲」、
二種類以上の銘柄を組み合わせたものを
「ブレンド珈琲」といいます。
ストレートは、先ほどお話したように
銘柄によって味の個性があるので、
その産地の良さを楽しむことが出来ます。
逆に言うと、ブレンドする事で
かえってその個性を楽しめない事があります。
ブレンドの場合は、
よく本に「ストレートの長所を活かし、短所を補う」
という書かれ方がしてありますが、
そもそも珈琲豆に個性はあっても短所なんてないハズです。
それよりも、珈琲豆は農作物であることの方が
ブレンドの存在に関わってきます。
日本で作られている農作物も、
年毎の気候的な条件や収穫時期で、出来が変わってきますよね。
珈琲豆も、その時々により豆の状態が異なって収穫されたりして、
味が微妙に変化することがあります。
そんな時に、多少の風味を犠牲にしても、混ぜ合わせることで
味のバランス、印象などをある一定に保つ役割を持つブレンド。
また、各店のオリジナルの味を提供するという意味もあります。
ストレートの味の変化といっても
まずくなるという事はないので、
変化も味のうちと納得して買う楽しみもありますよ。
一方、いつも同じ感覚で安心して飲み続けたいという方には、
お店側が責任を持ってバランスをとる商品のブレンドをどうぞ。

接客していると、どちらかに分かれるんです。
色々考えるのは面倒で、
とりあえずおいしい珈琲が毎日飲めればいいという方と、
毎回違う珈琲を買って、違いを楽しんでる方。
みなさんそれぞれの楽しみ方ですよね。
さて、今日はどんな珈琲が飲みたい気分ですか?