第12回
前回のQ&Aにもあるように、
皆さん、豆の事や淹れ方についてはよく質問されます。
ですが、淹れる道具に関しては
あまり興味をお持ちではないようで……。
でもね、同じ豆を使っても、道具ひとつで味の印象は
まったく変わってくるほど、大事な役割を持ってます。
だからと言って、高い道具を使えばおいしく入るか?
というと、そうでもないところが
珈琲の奥深い部分なのかもしれませんね。
という訳で、今回は道具についてのお話です。

珈琲は、水、熱湯、又は水蒸気などによって
豆の中につまったエキス分を抽出する飲み物。
この抽出の際、何の道具を使うか、
どういう風に淹れるかによって、味の出方は異なってきます。
それは、おいしくなる、まずくなるという問題とは違います。
この連載でお話してきたような「おいしい豆」であれば、
例えば、お湯をドバーっと注ごうがそれなりの味になるように、
ちゃんと熱加工されているものですからね。
当然、よりおいしくする事も可能な訳です。

さて、珈琲を淹れる道具は色々とありますが、
一般的に普及しているのは、
おそらくコーヒーメーカーかペーパードリップ式でしょう。
コーヒーメーカーはご存知のように、粉と水をセットし
スイッチひとつで後は自動的に抽出してくれます。
非常に便利なのですが、注湯の調節が出来ないので、
一度に作る量が少ないとお湯の抜けが早く、
エキスが十分に出ないで終わってしまいます。
その分どうしても、手でドリップしたものより
あっさりとした印象に仕上がります。

ある時「コクのある珈琲」を希望するお客さんが、
豆を買いにいらっしゃいました。
私がコクのあるタイプを勧めてみると
「それは飲んだけど、もっと濃い方がいい」との答え。
そこで道具は何を使ってるか聞いてみると、
「コーヒーメーカー」との事でした……。
エキス分を十分に抽出してあげないと、
せっかくのお豆も、志半ばで役割を終えてしまいます(笑)。
もったいない。
ま、それでもおいしく飲めてはいるのでしょうけど……。
この方のように、コクのあるもの、濃いものを望まれる方は
結構いらっしゃいます。
そして、豆の種類を変えれば、
コクがでる、味が濃くなると思っているようです。
確かに、銘柄によってコクのあるなしの個性はあります。
ただ、それよりも道具を変えた方が、
満足のいく珈琲を淹れられるという事は、
残念ながらあまり知られていないようですね。



例えば、昆布やかつおぶしの「おだし」をとる時、
おだしがよーく出た方がおいしいでしょ?
珈琲も同じようなこと。
「豆の持つエキスを十分に引き出す」には、
やはり手でドリップするのがいちばん。
その為の一般的な道具がペーパードリップ式です。
同じペーパードリップの器具でも種類があり、
一つ穴のメリタ式、三つ穴のカリタ式、円錐形のコーノ式、
ペーパーいらずの金属フィルターなどが主に挙げられます。
これらのドリッパーを使って抽出してみても、
それぞれに味の印象は変わりますよ。

もともとドリッパーの考案者は、ドイツのメリタ夫人。
メリタさんは、珈琲好きである自分の家族のために
「もっとおいしい珈琲を」という想いから、
1910年代にドリッパーの原型を発案し、
1930年代には現在の形に近い、
逆三角形のスタイルになったようです。
これを真似て作られたのが、日本製のカリタ式。
メリタ式はドイツの焙煎に合わせて作られた器具で、
当時の日本で作られた焙煎と合わなかった事から、
三つ穴のドリッパーが作られたようです。
これらのタイプは、抽出された液体がドリッパーの底に溜まり
穴から落ちていく仕組み。
メリタとカリタでは、穴の数やリブの長さが違う分、
三つ穴の方は落ち方が早く、あっさりとした印象になります。
特にストレートの場合、しっかりエキス分を抽出しないと、
微妙なバランスで成り立ってる珈琲の味など
よく味わえなくなる気がします。
じっくりと豆のエキス分を引き出すには、
一つ穴のメリタ式が向いています。

では、円錐形はというと?
こちらは、ネルフィルターの良さをペーパーに用いた作り。
抽出された液体は、円錐の先端に集まって落ちていき、
アクは上部に留まるよう考えて作られています。
この器具は、中央から少しずつお湯を落としていく方法で、
抽出すると、器具の良さが活かされ、
じっくりエキス分を引き出すことが出来ます。
ただ、多少の技術を必要とし、抽出に時間がかかります。
逆三角形タイプと同じような淹れ方をすると
先端に向かってサーッと液体が落ちるので、
やはりあっさりとした印象に仕上がります。

では、金属フィルターはというと?
ペーパーを使わずに濾過できるという経済的な利点はあります。
ですが、紙よりもフィルターの目が粗いため、
微粉が液体に混じり、うっすらと油が浮きます。
やはり珈琲の液体は、透明感のある琥珀色の方が
舌触りもよく、見た目にもおいしいです。
それに、淹れ終えた粉はどちらにしても
捨てなきゃいけないとなると、
紙を使った器具の方が手を汚さずポイと捨てられますよ。

私は連載第4回の淹れ方の時に、
逆三角形タイプの器具でお話しました。
日常的に使うには、
器具がどこでも手に入りやすい事、
また特別な技術を要せずとも誰もがおいしく淹れられる事が
大事だと思うからです。
みなさんは、これを参考程度に、
じっくりと珈琲を味わいたい方は一つ穴のメリタ式、
あっさりと珈琲を飲みたい方は三つ穴のカリタ式、
などと、お試しになってみてください。

どのような器具、または珈琲豆を使うにしても、
おいしくいただくコツは万国共通、
「心をこめて、丁寧に作ること」ではないでしょうか?
関係ないかもしれませんが、
最近、私がハマっているのが土鍋でのご飯炊きです(笑)
性能の良い炊飯器ならご飯もおいしく炊けますが、
ゴロンとした土鍋ひとつでも、
ツヤツヤふっくらのご飯は炊き上がります。
道具って、高価なものよりシンプルなものを使った方が、
丁寧に作る気持ちに応えて、良いものが出来たりするんですよね。

そうは言っても、コーヒーメーカーしか持ってないし、
手で淹れるのは面倒、という方もいるでしょう。
そもそも、何でも簡単便利になってゆく世の中。
忙しい朝なんか、いちいち手で淹れてられない、
という方も多いでしょう。
今までも何回か「一度に作る分量は多めにするといいですよ」
と言いました。
一人前作るなら、三人前作った方がいいという意味です。
その方が味に深みが出るので、飲んだときの満足感が得られます。
また、ご飯でも、一度に炊く量は多い方が、
ふっくらとおいしく仕上がるでしょう?
そんなような事です。
たくさん作っても飲みきらない、という方もご安心下さい。
上手に熱加工された「おいしい豆」で淹れた珈琲は、
時間が経っても、温め直しておいしくいただけます。
良い珈琲は、多少ぬるめの方が飲みやすく、おいしいです。
温め直す時、グラグラ沸騰させては良くないので、
弱火でちょっと温める感じが良いですよ。
誰だって忙しい朝は、少しの時間でも寝ていたいですよね?
そんな時は、前日の夜に、丁寧に珈琲を淹れておき、
朝レンジでチン! すればいいんです。
はい解決。
(ただし、一日経つと味が変わっちゃう珈琲では
そうはいきませんから、くれぐれもご注意くださいね。)

おいしい珈琲豆は、色んな力を秘めているようです。
自然の力はすごいですね、作ってる方も驚かされます。
その力をちゃんと引き出してあげる事が、
作る難しさであり、面白さなのだと感じますね。

次回は、珈琲豆の持つおいしさを存分に引き出す
「ネルドリップ」のお話をしましょう。