第15回
先日、ある緑茶専門店の喫茶室でお茶をいただきました。
そういったお店は初めてだったのですが、
あら〜っと思わずビックリするほどのおいしさに感激。
それまで、静岡出身の人が
「一般に売られているお茶はお茶じゃない」とまで言うのを聞き
気にはなっていたのですが……。
実際に「ちゃんとしたもの」を飲んで、なるほどと納得。
香りが良く、甘みがあって渋みが少なく、まろやかなお味。
お店の人にも色々と聞くうちに、
珈琲と共通する部分も多いなぁと感じました。
今回は、そんなお茶にも通じるテーマかもしれません。

珈琲を淹れるのに必要な材料と言えば、珈琲豆と水。
たったこれだけ。
いたってシンプルだからこそ、
素材の質が大切なのは言うまでもありません。
ここで改めて思い出してください。
この何回か、道具などの細かいお話をしてきましたが、
何といっても一番大事なのは、おいしい珈琲豆です。
その上で、より素材を活かす方法が、
淹れ方であったり道具であったりします。
今回の「水」に関することも、そんな枝葉の一つですからね。

日本では蛇口をひねると、お茶や珈琲に適した軟水が出てきます。
ですから、基本的には浄水器を通した新鮮な水で大丈夫。
わざわざ、ミネラルウォーターを買い求めたり、
湧き水を汲んだりする必要は特にありません。

水と一口に言っても、
普段私たちが口にしている水道水は軟水。
一方で、カルシウムやマグネシウムなど
ミネラル分の含有量が多くなると硬水。
一般的に、ヨーロッパの水の硬度が高いのはよく知られてますね。
硬水はその名の通り、何となく硬くて飲みづらい印象があります。
日本でも湧き水など、硬水とまではいかなくても
ミネラル分を多く含んだ天然水は「おいしい水」として飲まれています。
そうした水は、飲み水として頂くにはおいしいのですが、
珈琲の抽出には硬度は高くない方がいいのです。

以前に、山梨の湧き水を汲んできて淹れてみたことがありました。
こんこんと湧き出る水はそのまま飲むとおいしかったのですが、
珈琲を淹れてみたらば、
いつもの口当たりのやわらかい豆は、そのやわらかみに欠け
ビシッとした苦みが感じられました。
逆に、ちょっと煎りが深めのビシッとした感じの豆は
かえってやわらかく感じられました。
ちなみに普段は、東京の浄水器を通した水道水です。
どうしてだろう? と思っていたのですが、
水に含まれるカルシウムやマグネシウムは、
珈琲の重要成分であるカフェインや、良質のタンニンの抽出を妨げたり
その他いろいろの鉱物質が珈琲液の成分と反応して、
味が変化するようなのです。
水による違いは、おいしいとかまずいということではなく
口当たりの印象がこうなる、という結果として 受け止めてもらうのがいいように思います。








またある時、山梨のとある蔵元にお酒を買いに行った時、
そこで使われている水を汲んできて淹れてみたことがありました。
その珈琲は、ひとくち飲んで直感的に「おいしい」と感じる味でした。
どうおいしいか?無理やり言葉で説明すると
いつもは苦味、酸味、甘味のバランスはいいけど
口の中でバラバラに感じられるのが、
ひとつにまとまって直球がきた感じです。
あくまで、私の感じ方ですが……(笑)
「おいしい」と感じるのって、珈琲に限らず
「バランスの良さ」ですよね。
水なんて透明だし、飲んでもよく分からないけど
自然にバランスのとれた水というのは、
酒造りにしても、お茶や珈琲にしても、
バランスの良いものを生み出してくれるのかもしれません。
そんな水が蛇口をひねると出てくる地域の方はラッキーですね。
ま、普段から口にしてれば気付かないでしょうけど。

店にいらしたお客さんと、珈琲の淹れ方の話をしていると
「えっ、グラグラと沸騰させたお湯は使わないの?」
なんて言われることがあります。
はい、グラグラさせない方がいいんです。
お茶同様に、珈琲にもおいしくエキス分を抽出するのに
適した温度があります。
珈琲の場合は、85〜90℃くらいに沸かしたお湯を使うこと。
ですが、ご家庭でいちいち温度計で測る訳にもいかないですよね。
目安として、やかんでお湯を沸かしていくと
下からポコポコ泡が出て、水面がグラグラし始めるのが90度くらい。
それを専用のポットに移す過程で、少し冷めてちょうど良くなります。
ポットを持ってない方は、グラグラし始めたら一旦火を止めて
水面が静まるのを待って、お湯を注ぐと良いです。
ちなみに、温度が高すぎると苦味が強調され、
逆に低すぎると苦味は強調されず、
エキスが十分に出てないような味になります。
水出し珈琲というのがあるくらい、水でも抽出されるのですが
おいしく味わいたい時には、温度にも気を配ると良いでしょう。



お湯を注ぐ際のコツとして、
ふわんっとお湯を回しかけることは以前にお話しました。
その時に、お湯を落とすのではなく、
粉面にのせるようなイメージでかけてあげると
口当たりのやわらかい味に仕上がります。
逆に高い位置からお湯を落とすと、
苦味のカドがたったような、口当たりがキツい味に。
これは、口当たりの印象がそうなるってことだけですからね、
お好みでどうぞ。
余談ですが、ネルドリップで淹れると、
お湯を注ぐ高さの違いは顕著に味に現れます。
以前練習していた時、珈琲豆の気持ちになってみようと(笑)
手の平にぬるくなったお湯を落としてみたのですが、
思った以上に衝撃が違うんですよね。
それで、「あー上から落とされたら痛いよなぁ、苦くなるよなぁ」
と思って出来るだけ粉面近くにしたら、
ほわっとした苦味に仕上がるようになったのでした。

温度の話ついでに、
温度と味覚との関わりについて、少しお話してみたいと思います。
私も珈琲を勉強するようになって知ったのですが、
単純に、へぇ〜って感じでしたよ。








例えば、冷蔵庫でキンキンに冷やしたメロンや桃より、
ちょっと常温にもどした方があま〜く感じますよね?
また、お茶や珈琲なんかでも、熱いと味などよく分からず
ぬるい方が味わえたりします。
よく「人肌で味わう」と言われるように
熱すぎても冷たすぎても、味そのものの判断は出来ません。
どうやら、味は温度によって違った強さで感じられるようなのです。
甘味は、25〜40℃が一番強く感じられ、
苦味は低温の方が強く、酸味は温度による差がないとか。
そう言われると、何となく思い当たることがあるでしょう?
熱いうちは飲めた珈琲が、
冷めてくるとおいしく感じられなくなったり、というのは
初めからそういう味だったのです。
熱さで隠れていた味が、冷めてハッキリしただけのこと。
ですから連載の最初の方で、珈琲屋さんで味見をする時は
ぬるい状態で飲みましょうと言いました。
逆を言えば、ぬるい状態でおいしく飲める珈琲が
本当においしいってことは、もうお分かりですよね?

何だか細かいお話をしてきましたが、
こうじゃなきゃダメって神経質になる必要はないですから。
長々と書きましたが、要はふつうの水道水を使って、
沸騰したお湯は使わず、粉面近くからお湯を注ぐ、
これだけでしたね。
こういうコツもあるよってことです。