第19回
この連載を担当してくれる編集者さんは、
珈琲の飲めない人でした。
珈琲と縁のない生活を送る彼女は、私の原稿を読み、
「知りませんでした〜」「○○なんだと思ってました」という具合。
第11回のエピソードに近いような彼女の感覚は、
私にとって改めて客観的な視点に立たされる、
非常にありがたいものでした。
さて、今もお店で日々お客様に接するたびに、
「色んな人がいるもんだぁ」と発見がいっぱいです。
そんな中から今回は、Q&Aの第2弾をお送りしようと思います。
これまで書いてきた内容と、多少かぶる点もあるかもしれませんが、
ま、復習だと思って下さい。



Q:自分でおいしく淹れられないんですが。
A:この方は、初めて買いに来られたお客様で、
自分の淹れ方が良くないと思っているようでした。
「おいしい豆を使えば自分でもおいしく淹れられます」
と答えると、意外そうな顔。
売られている珈琲豆を疑うことなく、
うまくいかないのは淹れ方のせいだと思う方も多いです。
または、珈琲豆なんてどれもそんなに違いがないだろうくらいに
思っているのかもしれません。
でも、焙煎技術いかんによって、
大いに違ってくることは覚えておいて下さい。
そのために自家焙煎店が存在します。
さらに、作る人の考え方によって味の違いがありますからね。
おいしい珈琲豆に出会うことが、
おいしい珈琲を飲める最大のコツです。



Q:ブレンドの種類は濃さの違いなんですか?
A:大学生くらいの男の子三人組がやってきました。
「ストレートとブレンドは何が違うんですか?」
「何でブレンドするの?」「珈琲豆は輸入されてるの?」
疑問のままに質問してくる彼らに、ひとつひとつ説明すると、
「へぇ、なるほど」「そうかぁ」と聞いてました。
その素直な反応に、『可愛いなぁ、お姉さん何でも答えちゃうよ』
という気になってしまいます(笑)
みなさん、質問した方がお得ですよ!?
で、肝心の答えですが、
ブレンドは、それぞれ違う銘柄の豆を混ぜていて、
基本的に何と何を混ぜたか、組み合わせの違いによるところ。
豆には、あっさりしたもの、コクのあるもの、
酸味または苦味のくせの強いものといった個性があります。
例えば、コクのあるもの同士のブレンドは、
あっさりしたもの同士のブレンドに比べ、
味に深みがある分を「濃い」と感じるかもしれません。
そういった印象の違いが、濃さの違いに受け取られることはあります。
ですが、珈琲でいうところの「濃い」は
「エキスが充分に出ている状態」を指し、
豆の違いよりも、淹れる道具の違いから生まれます。


Q:淹れた珈琲を持ち運びすると味が変わっちゃいますよね?
A:珈琲に限らずお茶もそうだと思うのですが……。
温かい珈琲を外出先でも飲みたいと、
魔法瓶や保温ポットなどに入れると味が変化していきます。
正しい理由は分かりませんが、
おそらく容器内につく水滴が原因と思われます。
持ち運びする際は、一旦冷まして容器に移すのがベスト。
冷めた珈琲なんかイヤだぁ、と思うかもしれませんが、
おいしい珈琲なら冷めてもおいしくいただけるハズですよね?
また、外出先にレンジがあれば軽く温めたり、
お湯で割って飲んでもおいしいです。
こんなこと言うと「えっ? それでいいの?」と
お客さんに驚かれるのですが、実際に私はそうしてます。



Q:水出し珈琲を作りたいんですけど……。
A:水出し珈琲というと、何か特別なもののように
思ってる人もいるのでしょうか?
このくらいの季節になるとちらほら聞かれます。
水出し珈琲やアイス珈琲には、深煎りの豆が向きます。
お湯で抽出した液体を冷やしたアイス珈琲に対し、
水出しは水で抽出するという、抽出温度の違いで、
全く印象が変わります。
豆の中につまったエキスを引き出すのに、
ちょうどいい温度があるというお話は前にしました。
低い温度での抽出は、十分にエキスを引き出せずに終わり、
香りが弱く味に深みが出ません。
逆に言うと、珈琲特有の苦みが弱くクセがないだけ、
飲みやすさを感じる人もいるでしょう。
また、セットしておけば勝手に抽出される便利さもあります。
こういうことを知った上で、
あえて水出し珈琲を選ぶのはお客さんの自由です。
でも、普通のアイス珈琲の方が断然おいしい……と思います。

Q:「何してるんですか?」
A:店で、焙煎した豆を選別していると、このように聞かれます。
虫食い、欠けたもの、よく熱の通ってないもの等を、
一粒ずつ手で取り除く、ハンドピックという作業のこと。
10gの中に一粒でもそういった豆が混ざると、味が変わると言われ、
ハンドピックを売りにしている店もあります。
また、百貨店の珈琲売り場に行くと、ハンドピックされた豆は、
無選別の豆よりも数百円ほど高い値がつけられています。
手間賃といったところでしょうか。
選別してないよりした方が良いのですが、かといって
まずいものがおいしくなる魔法の作業ではありません。
何となく、皆さんその辺り誤解しがちなので……。
私にとって「選別」はある意味大事な時間です。
焙煎された豆の状態を見ると、ある程度味の想像がつきます。
『いや〜ふっくらとしておいしく出来た』とか、
『ん、ちょっと固そうかな? もっとふっくら出来たかな……』とか、
さながら反省の時間でしょうか(笑)
お客さんの中には、大変ねぇと感心される方もいます。
確かに、生豆の状態または焙煎した豆全部を、
少しづつザルに広げ見ていく訳ですから、手間はかかります。
でも、こんな地味〜な作業の繰り返しが、
おいしい珈琲を作るには大切なことのように感じています。



Q:有機栽培やオークションで入賞した豆はやっぱりおいしいの?
A:無農薬、有機栽培、オーガニック、
最近ではひとつの流行のようにも見受けられます。
有機栽培というのは、基本的に農薬や科学肥料を極力抑えて
自然環境に負荷をかけないというのが大切なポイント。
環境にやさしく安全なのは、大賛成で良いことですが、
じゃあそれがおいしさに繋がるかと言うと、珈琲の場合は疑問です。
オークションで入賞した豆や、スペシャリティーというのも同じこと。
ある条件を満たしているので良い豆だとは思いますが、
あくまでその業界での判断によるものですよね。
私たちは、どうもそんな「肩書き」には弱いものです。
そんな私も一応は気になるので、
スペシャリティー珈琲を扱う店などに行ったりしましたが、
だから特別においしいという感じはしませんでした。
指定農園のものであっても、安心感はありますが、
それがおいしさに直結する理由ではありません。
なぜでしょうね?
珈琲豆は焙煎という熱加工の過程を経て商品になります。
素材の良さは大事ですが、焙煎技術で味が大きく左右されることは
これまでにもお話しました。
焙煎釜に豆を入れれば、後は機械がやってくれて色がつき、
誰でも珈琲豆を焙煎することは出来ます。
誰にでも出来ることですが、
本当においしい珈琲を作るのはすごく難しいことだと
体験上、痛いほどに感じています(笑)
何の世界でもそうじゃないですか?
豆の注文を粉にする時に「コーヒープレス用で」と言われると、
余計なお世話とは思いつつも、
「コーヒープレスよりペーパーフィルターで淹れた方が
おいしいですよ」と言ってしまいます。
すると、お客さんは
「えっ? コーヒープレスが一番おいしい淹れ方だって
書いてあったから、そう思い込んでた」と。
仕方のないことだし、どういう淹れ方をされても、
ある程度の味が出るように作ってます。
それでも、おいしく飲めるよう手をかけて作った珈琲豆たちを
出来ればベストな状態で飲んで、満足してもらいたいと思うのは
作る側の勝手でしょうが……。
保管の仕方、淹れ方のコツなども細かくお話してきたのは、
こうすればこの子たちを最大に活かせるのに〜と思うからなんですが、
単なる親バカなんでしょうか。
そんな思いで書いたこの連載に、毎度お付き合いくださった方々、
本当にありがとうございます。
結構みなさんも珈琲バカだったりして(笑)
たかが珈琲です、
だからこそ本当においしく作る価値があるのかもしれません。
こだわりうんぬんではなく、単純に楽しむために。