第3回

前編

なんてザンネンな日本人なんだ

たろちんワールドカップキックオフ!〜
ドイツ人東大生ロトコプに、ダメ人間代表がインタビューで挑む

構成・文/大井正太郎 撮影/市村岬

題字/masi. 企画編集/アライユキコ

東京大学のエリートドイツ人留学生アレクサンダ・ロトコプ

中学で登校拒否、高校進学をせず大検で入った大学では留年をぶちかまし、就職も拒んだ挙句に「夢が出来ました。酒を飲んで一生おうちでひっくり返っていることです」などとのたまう大井正太郎(たろちん)が今回取材するのは、全く真逆の経歴を持つ東京大学のエリートドイツ人留学生アレクサンダ・ロトコプ。紹介者の木村裕之さんにも同席してもらい、勉強嫌いと勉強好きが激しくぶつかり合う。果たして言語と人間性のベルリンの壁を越えて2人は理解し合うことが出来るのか?



暗くなかったらどっぷりインターネットなんてやってないですよ


PROFILE


Alexander Rothkopf
(アレクサンダ・ロトコプ)

1982年12月7日生まれ、27歳。物理博士号取得のため東京大学院に留学中。量子ハドロン物理学研究室所属。言語への学習意欲も高く英語、日本語を話すことが出来る。ドイツで知り合った韓国人の奥さんと結婚したばかり。



大井正太郎(おおい・しょうたろう)

1985年生まれ。フリーライター。たろちん名義でニコニコ動画などでゲーム実況をしており、「実況野郎B-TEAM」ではコラムを担当し、軽妙な文体と退廃的な描写で読者の共感を呼んだ。「ダメ人間に勇気を!」と叫び、パチプロなどアウトローな生き方をする人への企画を持参するが、大人の説教により真面目に生きる一般人の取材を担当することに。

おちんちんbelong
http://tarochinko.blog92.fc2.com/

http://twitter.com/tarochinko




2010.5.9取材直前までのたろちん(@tarochinko)及びたろちんあてのツイートより

@tarochinko 明日、東大留学生のエリートドイツ人お二人にインタビューしてきます。取材というか「学生の本分は青春である」という僕の持論をぶつけて怒られたりしてきます。聞いてみたい質問などあったら参考にさせていただくので@くださいませ。
posted at 00:50:42

@yuriikaramo ドイツにリア充や草食系男子や森ガールやオタクやヤンキーがいるのか聞いてほしいです
posted at 00:53:44

@sin0902 一部の学生が授業中に居眠りしているのをどう思いますか?を聞いてみたいです。あと、日本のオタク文化について。
posted at 01:03

@huruikeda 日本語の良いところというか、魅力みたいなものはあるかみたいなことを訊いて頂きたいみたいに思います。
posted at 04:29

@tarochinko おみやげに千葉のソウルフード落花生をかいました。ちなみに千葉県で落花生を日常的に食う人を1人もみたことないです。誰が買ってんだろう。
posted at 11:27:03

@tarochinko 冷静に考えるとインタビュー1回しかやったことないわたしにドイツの一般人2人(1人は日本語出来ない)を取材意図も不明瞭なままとにかくインタビューしろ、というのはさすがに乱暴なんじゃないかと思った。幻冬舎はクソ。
posted at 11:33:24

@tarochinko エリートみたいなものを犠牲にして僕が得たいくつかの愛しい体験や思想がわたしの誇りだけれど、もし今日エリートドイツ人も同じものを持っていたらわたしは人生の基板みたいなものが崩れて死に、生まれ変わってドイツ人になるでしょう。
posted at 11:58:03

@tarochinko イエイ!1分遅刻します!
posted at 12:00:21




アレクサンダ・ロトコプ(以下ロトコプ) メールでプロフィールを見せていただきました。でもちょっとgloomyで驚きました。

大井 グルーミー?

ロトコプ ええと、暗いという意味。ごめんなさい。webライターのお仕事してる人でそんなgloomyな人がいるなんて、信じられなかった。

大井 いや、多いですよ。ネットで仕事してる人なんて8割グルーミーマンです。

ロトコプ そうなんですか。

大井 暗くなかったらどっぷりインターネットなんてやってないですよ。

ロトコプ でも話してるとそんな風に見えないですね。

大井 これはペルソナです。

木村 あの、じゃあそろそろ取材始めますか?

大井 いやあ、今ちょっとそういう気分じゃないですねえ。

木村 ええっ!?

大井 なんかもうちょっとグダグダしてたい。ロトコプさん、日本語お上手ですね。どうやって覚えたんですか?

ロトコプ ドイツは高等学校卒業の後に軍隊義務があるんですが、代わりに社会的な義務を選ぶことも出来ます。その時に言葉を勉強しようと思って、イブニングスクールで日本語の勉強をしました。

木村 徴兵制度免除の代替義務がきっかけだったんですね。

大井 ほほう。日本語を選んだのは?

ロトコプ ヨーロッパの語学ではスペイン語やロシア語などに人気があります。でも私は知識が少ないところの勉強をしたかった。イブニングスクールでは日本語と中国語を選べましたが、私の兄が日本に行ったことがあって少し話を聞いたことがありました。それで日本語を選びました。

大井 知識欲旺盛っすねー。

ロトコプ ドイツの学校では東アジアのこと、ほとんど勉強しません。教科書でもマルコ・ポーロのジパングとかで、現代的な明治の革命などの大切な情報は全然書いていません。何も知らない国に興味を持つのは難しいですから、勉強した方がいいと思います。

大井 日本語を勉強し始めた頃から東京大学を目指してたんですか?

ロトコプ 初めて日本で研究したいと思ったのは、スイスのCERNでの研究がきっかけです。

大井 さーん?

木村 欧州原子核研究機構のことです。ヨーロッパ共同の物理学研究所があるんですよ。

大井 そうなんですか。

ロトコプ 日本の東大の先生の研究グループがあって、そこで研修をしました。とてもいい先生だったのでこの大学に行きたいと思いました。

大井 もともと物理学がやりたかったんですね。

ロトコプ そうです。

大井 なるほどー。

ロトコプ ………………。

大井 そうかー。

木村 ええと、研究の内容とかについて聞かなくて大丈夫ですか?

大井 あ、そうですね。



理論と実験が合わさって研究しているから本当にいい環境だと思います


事前に30個近い質問を用意していたが

事前に30個近い質問を用意していたが、結局半分くらいしか聞けませんでした。



大井 ロトコプさんは今物理学でどういうことをやってるんですか?

ロトコプ オフィシャルなタイトルは高エネルギー原子核理論物理です。

大井 ほほう。

ロトコプ この分野の中にはたくさんテーマがありますけど、僕のテーマは重イオン衝突です。たとえば加速器で重イオンを加速して、その衝突からの結果を捕捉して、何故衝突からこの結果が起こるかという問題について研究しています。

大井 なるほどー。

木村 大体どういうことかわかりましたか?

大井 大丈夫です。すごい、っていうことと、難しい、っていうことがよくわかりました。

木村 それは大丈夫なんでしょうか……。

大井 ちょっと聞き方を変えると、その研究を東京大学ですることのメリットはどんなところですかね?

ロトコプ 現在の研究の最前線にいることが出来ることです。それは実験と理論のいい関係がある研究室だからです。

木村 理論も研究設備もすごくいいものがあるそうなんです。

ロトコプ 理論の人が理論だけをするのは意味がない。実験だけをするのは意味がない。二つが合わさって研究しているから本当にいい環境だと思います。

大井 おお、よくわかります。それは素晴らしいですね。



物理を選んだ理由の30%は「スタートレック」


国際的な東京大学は研究以外の面でも魅力的

「国際的な東京大学は研究以外の面でも魅力的。ヨーロッパではなかなか会えないフィリピンやインドネシアの留学生とも触れ合える」と語った。


紹介者の木村さん

紹介者の木村さんも出版社でwebメディアの企画編集をしており、一番「この取材大丈夫か?」と心配していた。



大井 今勉強していることを将来何にしていきたいと思ってますか?

ロトコプ アー、それは複雑な質問です。たとえば建築を勉強したら建築家になりますし、医学を勉強したらお医者さんになります。でも理学を勉強したら何になるかというのは決まっていません。教授や研究者になる人もいれば、全然違う仕事に就職する人もいます。だから、まだ決まってないです。

大井 おお、モラトリアム! それ僕の好きなやつです!

ロトコプ まだ博士課程の途中なのですが、卒業する年にはそんなオプションについて考えなければならない。今はポスドクに申し込みたいと思っています。

大井 あ、なんとなくなりたいものはあるんですね。

木村 なんか残念そうですね。

大井 ポスドクっていうのは?

木村 ポストドクターというのは研究生じゃなく、仕事として給料がもらえる任期制の研究者のことです。

ロトコプ ポスドクとして自分のアイディアで研究をして結果を出さなければならない。それで本当の仕事になります。

大井 研究する人になりたくて大学から今まで物理を頑張ってきたわけですか。

ロトコプ そうですね。ドイツで修士課程を卒業したけど、物理修士として仕事を見つけるのは簡単ではありません。いい仕事をもらうために博士タイトルが必要です。

大井 ほほう。

木村 修士と博士の違いってご存知ですか?

大井 わかんないっす。

木村 大学は卒業まで4年間で卒業すると学士。大学院は2年で卒業して修士と呼ばれるんですが、さらに3年間追加する博士という課程があるんです。物理学はそれだけ積み重ねないと難しい研究分野ということですね。

大井 めちゃくちゃ大変じゃないですか。それでも物理をやりたいと思えるのは一体何が魅力なんですか?

ロトコプ 物や自然が数学の方程式でわかることが面白いところです。「スタートレック」知っていますか?

大井 知ってますよ。

ロトコプ 宇宙に新しい惑星を見つけるテレビジョンドラマでした。物理を選んだ理由の30%は「スタートレック」。

大井 好きだったんですね。

ロトコプ このテレビジョンのフィロソフィーは技術で完璧な未来を作れるということです。例えばエネルギーの問題を解決して、人がご飯を食べるために働く苦労をしなくても済むようになればほんとにいいことに向かっていけます。そういうユートピアみたいな考え方が「スタートレック」の基礎です。

大井 おお! ユートピア!

ロトコプ もちろんテレビドラマの技術はほんとの技術ではない。今はまだできない。エネルギー問題はまだあります。でも自然をよくわかるようになって、その知識を社会や世界がよくなるために使っていけることはとても素晴らしいです。研究者の責任です。たとえば、今日本で30%の電気は原子力発電からきてます。この日本の社会を支える技術と、第2次大戦での核兵器爆弾という多くの苦悩を与えた技術についてどう考えるのか。新しい知識、knowledgeをどう使うかは研究者の責任です。



日本人は学校で勉強しないんですよ


ロトコプさんと木村さん

和独辞書を駆使して一生懸命物理研究について説明してくれるロトコプさんと木村さん。


半分も理解出来ていない僕

半分も理解出来ていない僕。



大井 「スタートレック」は何歳くらいの時に夢中になったんですか?

ロトコプ ムチュウ?

大井 あ、えっと、大好きになったのは。

ロトコプ 10歳くらいです。

大井 物理に興味を持ったのはその時からですか。

ロトコプ いや、その時はまだ決まってませんでした。実は高等学校の時はグラフィックデザインがやりたくて、アメリカに1年間留学をしたんです。

大井 えっ、アメリカにも留学経験があるんですか!

ロトコプ その時すごくいい科学の先生がいて興味を持ったんです。

大井 15歳の時に英語は出来たんですか?

ロトコプ 書くことは大丈夫でした。ドイツは9年生(ドイツは小中学校の区切りが無い)までの勉強で、簡単な新聞の記事は読めるようになります。でも話すことはとても難しかった。

大井 やっぱり話すとなると難しいんですね。留学することに怖さはなかったですか?

ロトコプ 15歳だったから何も怖くなかった。冒険みたいな気持ちでした。

大井 僕は15歳だから怖いように思いますけども。

ロトコプ 30歳で知らない国の社会に入っていくほうが怖いです。15歳ならまだ勉強することも高等学校のレベルだし、学習するのも早いです。だから大丈夫です!

大井 大丈夫じゃないですよ。日本人は15歳の段階で読み書きもほとんど出来ない人ばっかりですよ。

ロトコプ どうしてですか? いつから勉強して?

大井 中学校、だから12歳の時からです。

ロトコプ 12歳は遅いです。私は10歳の時から英語を勉強しました。でもそれはドイツ語と英語は似ているから。日本語と英語は遠いですから、6歳から勉強したほうがいいと思います。

大井 おお。確かに。

ロトコプ ドイツに塾はないけど、日本の学生は塾に行ってたくさん勉強してます。それなのに英語が得意な人が少ないのはどうしてですか?

大井 日本人は学校で勉強しないんですよ。

ロトコプ ソデスカ(呆れたような声)。

大井 少なくとも僕はしなかったです。なぜかというと勉強が嫌いなんですよ。全然したくない。

ロトコプ ドイツの子供たちも勉強そんなに好きではないけどやります。家でも週末やテストの前は、両親と一緒に勉強しました。

大井 どの家族もそうなんですか?

ロトコプ えーと、昔の社会的な、市民? ちょっと違う(パソコンで和独辞書を見る)。

木村 (画面を見ながら)あ、おそらくですね、ドイツが王制だった頃も商人が自治をしている都市があって、市の中の教育は市民同士でするものだという前提がある中で近代も来られているということだと思います。

大井 そういう文化が根付いてるんですね。

ロトコプ どの家族も子供にいい教育は必要だとわかっています。

大井 子供の方も教育を受けなきゃいけない、必要だって気持ちがあるんですか?

ロトコプ 子供によって違います。いつも勉強してる生徒もいるし、何もしたくない生徒もいます。でも学年の終わりにもらえる成績表で、Fが2つあればもう一度やらなければいけません。

大井 留年があるんですか! 日本は基本的に小中学校は勝手に進級できますからね。

ロトコプ ドイツには3つの学校があります。職人のためのもの、商売銀行のためのもの、そして大学に備えるためのもの。4年生の時にそのどれかを選択します。

大井 早いですね!

ロトコプ そうです。勉強が出来ないと大学準備の学校にも入れないし、その中でも勉強が出来ない人は辞めて職人や商売の学校に行くことになります。



最後に「HAHA」と言うのは真面目な人です


日本食だと回転寿司が好き

研究が忙しいので食事は学食が多いそう。日本食だと回転寿司が好きでリラックス出来るとか。


木村さんがメモを取っておいてくれました

物理の専門用語などは思考停止して気絶している僕に代わって、木村さんがメモを取っておいてくれました。



大井 日本では勉強っていうものの価値がそんなに高くないんです。真面目に勉強してる人の立場がクラスの中でとても低い。

ロトコプ 人間関係的に?

大井 そうです。たとえばいじめられたりするのは大体真面目な子で、いじめっ子で勉強せずにちゃらちゃらしている奴の方が友達関係において権力を持ってたりするんです。そしてそんな奴の方が明るいとかいう事になってモテたりするんです。日本人バカなんですよ。

ロトコプ いや、そんなことないです。

大井 いやいや、知ってるんです。学校でモテる奴っていうのは、勉強なんてやってないで遊ぼうぜ、とか何も考えずにわいわい言ってるやつなんですよ。

ロトコプ ドイツの制度でいいことは、その学年の終わりに責任賞がくることです。よく勉強した人は合格出来るけど、いじめをして勉強をしなかった人は留年します。最後に「HAHA」と言うのは真面目な人です。

大井 そこで「HAHA」が出ますか。なるほど。

ロトコプ その制度が真面目で辛い思いをしても頑張ってる人を助けてくれます。

大井 日本は助けてくれないんですよ。

ロトコプ (ため息を大きく一つついて)…残念です…。

大井 残念な国ですよ!

ロトコプ アー、そうは言わなかった。

大井 いや、別にいいですよ。だからね、僕13歳くらいまで真面目だったんですよ。先生の言う事聞くし、宿題もやるし、学校で皆ふざけててもちゃんと授業聞いてたんですよ。

ロトコプ なんで真面目じゃなくなりましたか?

大井 僕が真面目にやってもそれが評価されないと思ったからです。先生とかに誉められているものと僕らの仲間内で評価されるものが違うんです。モテないし。

ロトコプ わかりますわかります。

大井 おお、わかりますか!

ロトコプ 僕も先生から誉められたいと思います。でも教育の中で誉めることはいいことだけど、誉められるために物事をするという考え方は危ないです。親が子供に自分自身でモチベーションを見つけられるように教育しなければなりません。

大井 ああ、それもわかるんですけど……ちょっと違うんだよなあ。



次号予告


旺盛な知識欲を具現化したようなロトコプさんの本棚。こっそり『ドラゴンボール』とかを置いてきて反応が見たいなと思いました。



勉強嫌い日本人と勉強好きドイツ人の対決は、ドイツ人からため息まじりの「残念です」でハーフタイム突入。インタビュー後編は6月15日アップ予定。大井とロトコプさんは果してわかりあえるのか?


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