第9回

前編

ブックコーディネーター内沼晋太郎インタビュー

「アイツならやれる」と思われる人になる方法を教えてください

構成・文/田島太陽 撮影/市村岬

題字/masi. 企画編集/アライユキコ

内沼晋太郎

「写真を撮られるのは全然慣れないですね」と内沼さん。この障子のむこうは小学校の校庭で、子供たちがワイワイ遊んでました。

フリーランスで働くことはとても楽しい。満員電車に乗らなくてもいいし、サービス残業もない。でももちろん、生計を立てることはそう簡単じゃない。まして出版業界は不況中の不況と言われている。僕はフリーになってあっという間に貯金はなくなったし、仕事もなかった。どうしたらいいのか分からない中で「じゃあ自分はどんな人になりたいんだろう?」と考えた時、浮かんだうちのひとりが内沼さんだった。本に関わる面白い企画をたくさん立ち上げ、ライターもやるしDJもやる。そんな内沼さんを、なんとなく格好良いと思っていたから。そこで出版業界の先輩として、フリーで働く先輩として、内沼さんは今日までどうやって過ごして来たのかを聞くことにした。色んなフィールドで自分を売り込むには何をすべきか、フリーランスで生きるにはどうすべきか。「僕はどうしたらいいのか?」という切実な相談をすべく、内沼さんに会いに行った。




アイデアは出し続けるから出るようになる


PROFILE


内沼晋太郎

1980年生まれ。大学ではブランド論を学びながら、後藤繁雄氏主宰の編集教室にも通う。卒業後は見本市主催会社に就職し、出版業界の見本市を担当するもすぐに独立。千駄木の往来堂書店・運転手・テレアポなどのバイトをしながら、本と人との出会いをプロデュースするユニット「ブックピックオーケストラ」を立ち上げ、ウェブデザイナー・ライターなどとして仕事を始める。現在は「本とアイデアのレーベル numabooks」というひとりユニットとして活動しており、ブックコーディネーター・クリエイティブディレクターの肩書きを名乗る。「TOKYO HIPSTERS CLUB」「HANSEL&GRETEL」(共に株式会社ワールド)、「TOKYO CULTUART by BEAMS」」(株式会社ビームス)などのセレクトショップで販売する書籍のコーディネイトを中心に、書籍売り場やライブラリのプロデュース、本にまつわる企画や作品制作、書店や出版社のコンサルティング、電子書籍関連のプロデュースなどを手がける。最近の事例に、読書するDJイベント「hon-ne」(フクモリ/2010-)、カフェにおけるドリンクと文庫本のセットメニュー「文庫本セット」>spiral/株式会社ワコールアートセンター/2009)、中身の見えない文庫本コーナー「覆面文庫本」ヴィレッジヴァンガード新宿マルイカレン店/2009)など。昨年3月に初の著書『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』を上梓。

サイト
numabooks | 内沼晋太郎
http://numabooks.com/

ツイッター
内沼晋太郎 (numabooks) on Twitter
http://twitter.com/numabooks/


田島太陽(たじま・たいよう)

1984年生まれ。出版社勤務を経てフリーライターに。表現活動をする同世代の考え方に興味を持ち、様々なジャンルの20代クリエイターにインタビューをするwebマガジン「creatalk」を個人で運営。当企画では出版・メディアにジャンルを絞り、深く掘り下げていく予定。

20代クリエイター限定インタビューマガジン「creatalk」
http://creatalk.com/

ツイッター
田島太陽 (t_taiyo) on Twitter
http://twitter.com/t_taiyo


内沼晋太郎『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』

内沼晋太郎『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』
(朝日新聞出版/2200円)

左開きで読むと、内沼さんの仕事のノウハウがまとめられた「仕事の未来をつくる本」、右開きで読むと、ブックコーディネーターとして手がけた数々の仕事が紹介されている「本の未来をつくる仕事」。まるで両A面CDのような本で、仕事への取り組み方とその結果が対をなしている構造が面白い。特に「未来の仕事〜」は内沼さん自身が会社を辞めてからの経験で得た仕事術であり、「お金をもらわないという強み」「規則正しい生活は心がけない」「覚えられやすいルックスになる」など、よくあるビジネス書とはちょっと違った切り口で進められる。内沼さんがいかにオリジナルにこだわっているのかが分かる一冊。フリーで働く人には必読書だと思います。



取材は内沼さんの事務所が入っている世田谷ものづくり学校の会議室にて。キレイでオシャレなオフィスだった。僕もこんなところで仕事したい。


ーーよろしくお願いします! 今日は色々お話を聞いて、ご相談もできればと思っています。

内沼 こちらこそよろしくお願いします。

ーーではまず、内沼さんは今までにいろんな企画をやられてますよね。どうしてそんなにたくさんアイデアが浮かぶんでしょう?

内沼 僕はアイデアそれ自体の価値は高くないと考えています。アイデアを出す力って運動神経みたいなものなので、僕が人よりアイデアが出るのだとすれば、それは常に鍛えているからとしか言いようがないですね。「俺にはすごい構想があるから暖めてるんだ」って言う人いるじゃないですか、それはナンセンスだと思ってて。これはよく言うんですけど、たまにしかアイデアは浮かばないけどそれがすごい面白い、って人はいないんですよ。アイデアマンって常にいろんな企画や考えが湯水のように溢れているんです。で、そのひとつひとつは、あくまで実行されて価値が出るものなんです。

ーー「アイデアは人に話せ」って著書でも書かれてましたよね。

内沼 僕は湯水のように企画が出せる、アイデアでお金がもらえるようになりたかったから、ずっとどんどん喋るようにしてきたんです。人から意見を求められたらいくらでも出すし、そうすることで協力者も出てくるし、もっといい案が浮かぶこともある。そうやって喋ったアイデアは自分だけではとてもやりきれないから、誰かがどこかで実現してくれてもいい。パクられるくらいにならないと、アイデアマンとは言えないじゃないですか。いいアイデアっていうのは、真似したくなるものなんです。だからどんどん話して自分でできることだけ実行する。そして出し続けないと常に出るようにはならないんで、それは筋トレ感覚でやってますね。

ーー筋トレですか。日頃の訓練って感じなんですか?

内沼 今は訓練っていう意識はあんまりなくて、そういう状況に置かれています。そうやっていろいろなところに顔を出してアイデアを出してきたおかげか、一緒にこれをやらないかって話もあるし、やるかどうか未定だけどこういう話があるから意見聞かせてとか、これどうしたらいいかなっていう相談とか、とにかく外で話をする機会がすごく多いんです。それはアイデアを出すために呼んで頂けるんですよね。だから意識して出そうとしているというよりは、出さざるを得ない状況に常にいるってことだと思います。

ーーんーなるほど。説明しづらいとは思うんですけど、アイデアってどうやって出てくるんでしょう?

内沼 当たり前のことなんですけど、まずは人の話をよく聞くってことなんですよ。例えばここに置いてあるICレコーダーについてアイデアが必要な時、それが新製品のアイデアであろうがユーザーを増やすためのプロモーションのアイデアであろうが、ICレコーダーについて知ることがまず大事で。これは今どういう環境にあって、どういう人が使っていてどういう人がまだ使っていないのかとか。それで色々聞いているうちに、だったらこうじゃないのって整理していく作業の中で生まれてくるものなんですよね。

ーー内沼さんは昔から人と一緒に何かやることが多いですよね。それは意図的なものなんですか?

内沼 意図的というか、そのほうが楽しいじゃないですか。あと、たいてい思い浮かんでやりたいなと思うアイデアが9割方ひとりではできないものなんですよ。ただもちろん、多すぎてもだめです。ブックピックオーケストラはたくさんの人数で動いて、だからこそできることもたくさんあったんだけど、同時にその人数の限界もちょっと感じたんですよ。アイデアが実現されるまでのプロセスにすごく時間がかかるようになってしまって、でもよく考えたらひとりでもできることもあるなって気付いて、それでnumabooksって名前のひとりレーベルとして始めたんです。だから必要なサイズっていうのはその時々で違っていて、ひとりかもしれないし、2人かもしれないし、4人くらいがいいかもしれないし、100人いないとできないかもしれない。それを考えて名前を付けて、ユニットにするのが好きなんですよ。

ーー僕は昔からひとりで何かやることが多いので、みんなでワイワイやるのってちょっと憧れます。

内沼 あとはひとりであれ複数であれ、ユニットとかプロジェクトにして名前をつけるのが大事だと思っています。まず覚えてもらいやすいユニット名を考えて、ウェブサイトを作って、名刺を作る。多分そういうものが持つ伝播力とかがすごく好きなんですよ。例えばですね、僕はアライさん(この連載の企画編集)のことは知っているんです。今頂いたこの名刺に書いてある「カエルブンゲイ」ってフリーペーパーをよく覚えてて。

ーーおお、そうなんですか!

内沼 往来堂に置いてましたよね? 7〜8年くらい前だけど覚えてるんですよ。もしかしたらアライユキコさんって名前だけだと覚えてなかったかもしれないんですけど、「カエルブンゲイ」って言葉とこのカエルのマークをすごくよく覚えてて、それはひとつのブランドなんですよね。そういった感じで、誰かの中にちょっとした記憶を作るっていう行為が好きなんです。そういう意味で、ブランド論を学んでいたことは役に立っています。たとえば「これがユニット名で、これはプロジェクト名で、これがその中のサブプロジェクトで」みたいにやたらと名前をつけたがる人がいますが、それは覚えられにくいのでやめたほうがいいとか。そういうことは教科書に書いてあったことなので、直感的にわかる。それでだいぶ助かってますね。

ーーすごい気になってたことがありまして、内沼さんが作ってきたものはすごくアートっぽいというかインスタレーションというか、そういうイメージを受けるんです。出版社にいた編集者が考える企画とはかなり違いますよね。それが不思議なんですよ。

内沼 その質問はすごく面白いですね。つまり人がどういうものにアートっぽさやインスタレーションぽさを感じるかということですよね。僕は著書で「お金をもらわない仕事」ということについて書きましたが、それが重要だとおもっているのは、世の中にある大抵のものは採算が取れてるからなんです。どんなに面白くても素敵なアイデアでも、お金の出所が別にある場合は、採算がとれないっていう理由でなくなってしまうこともありますよね。だから逆に言えば、最初から採算は取らないっていう前提に立てば、今まで世の中に存在しなかったものを生み出せる可能性が無限に広がる。儲けられないことがネックにならないのはすごい強みで、そういうものは世の中にはあまりないんですよ。

ーー確かに! 普通の編集者だったら採算を考えないわけにはいかないですもんね。

内沼 だから意識的にアートっぽくしようとは思っていないんですが、それがアートっぽく見えてしまうのだとしたら、採算を取ろうとしてないからかもしれないですね。アートには採算が取れてないものが多いので、採算を取ろうとしていないものを見ると人はアートだと思ってしまうのかもしれない。ただ、当然どう見えるかということは意識していて、僕のプロフィールに出している企画も、クライアントワークでお金をもらっているものとそうではないものを意図的に並列して紹介しています。あとは、これはアートっぽさとどう関係があるかわかりませんが、結果が見えてるものに興味がないんです。この先がどうなるか分からないとか、次に何があるか分からないっていう状態が好きなんで、自分が3年後に何をやっているかとかは考えたくない。だからキャリアアップみたいな概念にも、僕はまるで共感できません。



頑張る理由は難しい



この日たろちんはお休み。いたらきっと「働かないで生きるにはどうしたらいいですか?」と聞いていたに違いない。



2010.8.25取材直前までの田島太陽(t_taiyo)及び田島太陽あてのツイートより

t_taiyo おはようございます。起きてるよー
posted at 08:06:24

t_taiyo 今日は幻冬者の「お前の目玉は節穴か」にて、ブックコーディネーターの内沼さんに取材です。

kaerubungei おはよ。すでに脱落者が一名出た。あいつだ
posted at 08:36:47

t_taiyo 期待を裏切らない男!!
posted at 08:51:08

t_taiyo 内沼さんは結構前から会ってみたいと思ってた方なので、この機会にいろいろと個人的な質問と言うか相談とかしたいと思ってます。
posted at 08:59:35

t_taiyo 自転車で向かってますいま。目黒郵便局のとこに高須さんがいた(クリニックのひと)。
posted at 09:02:34

t_taiyo 池尻小の壁に変なのいた http://tweetphoto.com/41178932
posted at 09:18:30

t_taiyo ものつくり学校ついた。おれ午前中にインタビューするのはじめてだ。
posted at 09:36:29


ーーおお、僕もです! 先が見えないことのほうが面白いとずっと思ってて、まぁなんとなかるかなぁとか思って会社を辞めたんです。でも辞めたら割となんとかならなくて、今すごい不安な毎日でして……。

内沼 なるほど(笑)。

ーーそういうのなかったですか?

内沼 それはありますよ。もちろん不安なんです。でも安定した毎日を送るよりはちょっと不安でも今の生活を続ける方が楽しいんですよ。たとえば会社員としてあまり興味のない仕事で働いて、家に帰ったら奥さんと子供がいて、ビール飲んでテレビで野球見てるみたいな安定した生活が一番幸せ、みたいな価値観がありますよね。今の世の中ではそんな生活を実現することさえままならないわけですし、そういう人たちを否定するつもりはまったくないですが、退屈なんですよ。超退屈。まあもし僕がそうなっても、きっと会社以外で何か新しいプロジェクトを始めるだけだと思いますが、仮にそんな生活を強いられるとしたら、死んだほうがマシだと思ってるんで。仕事が来なくなるかもとか、お金がなくなるかもっていう不安のほうがよっぽどマシで。

ーーえ、そこまで言い切れるってすごいですね。

内沼 まぁ極論ですけど、死ぬのがあまり怖くないってことかもしれないですね。だって不安って突き詰めれば死への恐怖で、つまり本当の最悪の場合でも死ぬだけなんですよ。中学生の時『完全自殺マニュアル』って本が流行ったんですが、自殺したい人はすればいいっていうあの本に、今思えばすこし影響を受けているのかもしれません。どうせ死ぬんだし、人生は1回しか無いんだから、自分がやりたいことやらなくてどうするんだって。

ーーそっか、確かに不安の先って死ですもんね。そう思うとちょっと気持ちが楽になる気がします。ちなみに加藤くんは不安じゃないの?

加藤 いきなりですね(笑)。 毎日不安です!!

ーー彼もフリーライターなんです。

加藤 この先やって行けるのかなって思いますよね。会社に入った方がいいのかなとか。

内沼 なんでやっていけないと思うんですか? 今やっていけてない?

加藤 やっていけて……ないですかね。ちょっと頑張ればなんとかなるくらいです。

内沼 じゃぁちょっと頑張ればいいんじゃないですか(笑)?

加藤 ああ(笑)。

ーーそれが頑張れないんだよね?

内沼 なるほど、頑張る理由がないのか。なら例えば、結婚してみるとかどうですか。

加藤 結婚ですか!? 

内沼 すいません今まあまあ適当なこと言いましたけど(笑)。でもね、頑張る理由って本当に難しいですね。例えばそうだな、僕は朝全然起きれないので、起きるために午前中に打ち合わせを入れる。起きなきゃいけない状況を作るんです。だから頑張らざるを得ない状況があればいいんですよね。結婚もそのうちのひとつですよ。

ーー僕も頑張りたいけどあんまり頑張れないことが多いんです。頑張る理由ってなんですかね?

内沼 もしくは、もう頑張らないって決めてもいいんじゃないですか? 頑張れないことの何が問題なのかを知る必要がありますよね。俺はもう絶対に頑張らないって決めれば、多分しばらくは楽しくやれますよ。食えてなかったら食えてないその状況を楽しむとか、貧乏さを自分の表現にぶつけるっていうのも手ですよね。その上で頑張る理由が見えてくれば、頑張ればいいわけだし。

ーーもう貧乏でいいやっていうのはたまに思うんですけど、なかなかそこまで開き直れないです。

内沼 最近ある女性アーティストのインタビューを読んでたら「私は男と付き合ってはいけない」みたいなことを言ってたんですよ。なぜかと言うと、女性は男性とセックスするとどこかその人に近くなってしまう、その人に依存してしまうみたいなことがあって、そうなってはいけないのであると。僕はそういうもんかなぁと思いながら読みましたが、それはそれでその人の結論なんです。自分は表現者なのでこういう環境に身を置くべきだという理由付け。それは万人がみんなそうである必要は全然なくて、自分の中でそうやって決めるってことが大事なんだと思います。だから頑張らないって決めて、頑張らない自分を突き詰めることが自分のオリジナリティになるのではないか、みたいなことだってあり得ますよね。

ーーおぉオリジナリティ、そうですね!

内沼 いや、やめたほうがいいですよ! ただのニートになる可能性大ですから(笑)。でも積極的ニートであることによって何かが生まれるかもしれないし、積極的ニートじゃないとできないこともあるかもしれない。それはアリだと思いますけど……ちょっと今適当なこと言ってるんで真に受けないで下さいね、ほんとに冗談ですから(笑)。



「3年続けろ」は会社の陰謀!


著書で「覚えられやすいルックスになる」と書かれているように、内沼さんの髪型はアシンメトリーで個性的。前髪の長い部分は邪魔じゃないんでしょうか。


ーー内沼さんは最初に本に興味を持ったのはいつだったんですか?

内沼 もともとミュージシャンになりたくてずっと音楽をやってたんです。でも大学の頃に途中で挫折しちゃったんですよ。ちょうどその頃は音楽だけじゃなくて映画とか美術とか文学とか現代思想とかいろんなことに興味が出てきた頃でもあって、本や雑誌だったらその中になんでも入るでしょ。それで大学で雑誌サークルに入り、その後自分で商業誌を立ち上げようとしていたんですが、その時書店員さんに話を聞く機会があって。そこで初めて出版流通のことについて知り、すごく興味深いなと。

ーー流通の仕組みがですか?

内沼 そうですね。ちょうど僕らの世代に向けて、活字離れとか本を読まないとか言われていた時代でしたが、僕はそれなりに本を面白いと思っているわけです。それなのになんで出版業界は不況だといわれているんだろうと、佐野眞一さんの『誰が本を殺すのか』とか業界本を何冊も読みました。それで、本が売れないのは本というフォーマットそのものが受け入れられなくなったとかではなく、流通や業界の構造が悪くて、その魅力を引き出せていないせいなんじゃないかと大学生なりに思ったんです。本はこんなに面白いのに大人は何やってんだよ、バカじゃないの? って。

ーー作り手になろうとは思わなかったんですか?

内沼 流通の仕組みを知ったことで本を作ることよりも、本がどうやって人に受け入れられて行くかってことに興味が湧いたんですよね。本の環境に関わる仕事がしたいとか、あるいは本と人が出会うきっかけを作りたいなと。それが大学3年の頃でした。

ーーそれで見本市の会社に入ったんですね。

内沼 そうですね。出版社とか取次とか書店とかいわゆる既存の出版業界の会社に入っても、そこから流通の仕組みを変えるなんて何年かかるか分からないじゃないですか。そのことは学生の時から分かってて。だから業界の中ではないところに入りたいなと思ってたんです。

ーー具体的にはどんなことをしている会社だったんですか?

内沼 いろんな業界の見本市を主催している会社で、メーカーに営業に行ってブースを出してもらい、バイヤーや業界関係者たちを集客するっていうビジネスです。出版業界でもそういう見本市をやっていて、僕にはそれが取次主導の流通モデルに風穴を開ける役割も果たしているように思えたんですよ。少なくともそこに関わることで、出版業界がちょっと俯瞰して見えるかな、と思って。

ーーでも結構すぐに辞めてしまうんですよね?

内沼 そうなんです(笑)。2ヶ月とちょっとでしたね。理由は色々あったんですけど、一言で言えば僕が会社員に向いていなかった。その会社を選んだのってすごく頭でっかちな決め方だったんですよね。本の流通を変えたい、でも出版業界の中に入ってはいけない、じゃあこの会社が適しているだろうって。だけど本当の会社選びは人を見ないといけなかったんです。僕はそこで間違えてた。

ーーどういう人が働いているか、ってことですか?

内沼 やっている人たちと価値観があわなさそうなのはわかっていたのに、やっていることに対して表面的に共感してしまったんです。例えばね、自分のやりたい仕事を全然気の合わない人とやるのと、下らない仕事でも仲のいい人とやるのではどっちが楽しいかって話で。それはつまらない仕事でも仲良い人とやったほうが面白いんですよ。淡々と値札を付けるだけみたいな仕事でも好きな人とやってると楽しいでしょ。どうやったら効率よくなるかって話をしたりね。大学生の時には、価値観の近い人たちが自然と集まってきて、行動を共にしてきたわけじゃないですか。そういうのにすっかり慣れていたから、チームで何か本気でモノをつくるのに大事なのは人だ、ってことをうっかり見落としていたんです。

ーーでも世の中では3年は働けとかよく言いますね。

内沼 そうなんですよ、周りの人は25歳までは働かなきゃいけないってよく言ってて。でもそれはおかしいと思うんです。あれはちょっとした陰謀ですよ。

ーーえっ、陰謀!

内沼 会社は新卒を採用するのにすごいお金を使うわけで、それを回収するためには何年か働いてもらわないと困るし、上司からしても、部下がいなくなるといつまでも自分が偉くなれないじゃないですか。さもその人の成長のために必要な最低期間が3年です、っていう言われ方がされますが、実際はそういういろんな人の思惑の平均によってはじき出された、当人の成長には無根拠な数字ではないかと思っています。で、25歳になった頃には簡単には抜けにくくなる。別の仕事をしようと思っても第二新卒ではなく転職扱いになるし、だから自分は23歳のうちに会社を辞めて、学生の頃に雑誌を作ったりイベントをやったりしてきた延長で仕事かできるかを2年間で試してみようと思ったんです。25歳になっても全然だめだったらまた第二新卒で就活すればいいやと思って。

ーーなるほど。それで会社を辞めてまずやられたのが、ブックピックオーケストラですよね。

内沼 そうですね。まだアマゾンのマーケットプレイスができる前で、個人のネット古本屋がたくさんあったんですが、多くはただ目録がサイト上にあるだけの面白味のないものでしたし、たまに少し面白いサイトがあっても、個人のサイドビジネスとして成り立つ程度に手がかかっているものばかりだった。だから採算は合わなくてもいいから個人ではなくチームで、とにかくその中で目立とうと思って始めました。面白いことやってると思ってもらえたら何かあるかなって。初期の他のメンバーはみんなまだ学生で、僕は運転手とかテレアポとか、いわゆるお金が良くてキツイバイトをいろいろやりながら、往来堂書店という本屋でバイトをして経験をつみました。

ーーその頃から「本と人との出会い」がテーマだったそうですが、今後もずっとそれを続けようと思っていたんですか?

内沼 ずっととは思ってなかったですよ。今も思っていないです。結果として今でも必要だし面白いから続けてるだけで。だから自分でやらなくても他にたくさんプレイヤーがいて、本をめぐる環境が充分に面白くなってきたら、僕はもう違うことをやっていると思います。



次号予告


内沼さんの手元にはiPadと手帳

内沼さんの手元にはiPadと手帳。自分も取材を受けることがあったらこのスタイルで行こうと決めました。


インタビュー開始早々、これは頼れる兄貴に出会った! と確信をもったのか、矢継ぎ早に日頃の不安、疑問をぶつける田島太陽。10/1後編は、個人で運営する「クリエイトーク」のコンセプトにはじまり、「webマガジン幻冬舎」はどうしたらいいかまで、ますます人生相談になっていく!? 乞うご期待!


連載の打ち合わせなどは、ツイッター上でも積極的に行なっていきます。ご意見のあるかたは、ハッシュタグ #omanma_kuitai を自由につかってください。@もどんどん飛ばしてくださいね。


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