昨年末にseason1(2010.4〜12 全14回、最終回)を大好評のうちに終了したインタビュー連載「お前の目玉は節穴か」が、パワーアップして帰ってきた! トップバッターは田島太陽!

ウェブにはたくさんのニュースサイトがある。その中で僕がいちばん頻繁に覗くのは「ナタリー」 だと思う。
毎日大量の音楽ニュースが更新され、お気に入り登録したアーティストに関するものはメールが届く。シンプルだけど、だからこそ便利で使い勝手が良いウェブサイトだ。その「ナタリー」を運営する株式会社ナターシャ の社長が、大山卓也さん。
ナタリーについての詳しい話や会社立ち上げの経緯などは、すでにいくつかのサイトで読むことができる。でも僕は、卓也さん自身に興味があった。
season1でインタビューした内沼晋太郎さんの本 の中には「ぼくがすすめるのは、“なりたい感じのイメージ”をもつことです」と書いてあり、僕がイメージした“なりたい感じ”が、卓也さんだったからだ。
実は、一度ナターシャの採用試験を受けたことがある。1年半くらい前のことだ(結果は不採用)。それから僕が運営している「creatalk」 についてアドバイスを頂いたこともあった(全然更新しないからがっかりだよ! と言われました)。
そんなこともあり、いつか卓也さんと面と向かって話が聞きたいと思っていた。なぜ「ミュージックマシーン」を何年にも渡り毎日更新で続けられたのか。どうしてナタリーを作れたのか。
会社を辞めてフリーランスで活動している身として、ウェブサイトを運営している身として、たくさんあった疑問を、思い切って聞いて来ました。




書きたいことなんてない


PROFILE


大山卓也 おおやまたくや

1971年北海道生まれ。音楽ニュースサイト「ナタリー」編集長、株式会社ナターシャ代表。 大学卒業後に日本マクドナルドに就職、その後メディアワークスでゲーム雑誌編集に7年間携わる。2001年に、毎日更新で音楽ニュースをアップする個人サイト「ミュージックマシーン」を開設。毎月数十万PVを集める人気サイトとなる。2005年にメディアジャーナリストの津田大介らと共に、代表取締役として株式会社ナターシャを設立。敏腕なベンチャー社長でありながら、その雰囲気を感じさせないふわふわとした口調が印象的。



田島太陽 たじまたいよう

1984年生まれ。出版社勤務を経てフリーライターに。「週刊プレイボーイ」「サイゾー」「CINRA.NET」などで活動。表現活動をする同世代の考え方に興味を持ち、様々なジャンルの20代クリエイターにインタビューをするwebマガジン「creatalk」を個人で運営。当企画では出版・メディアにジャンルを絞り、深く掘り下げていく。

20代クリエイター限定インタビューマガジン「creatalk」
http://creatalk.com/

ツイッター
@t_taiyo



──今日はよろしくお願いします。

大山 過去2回(season1の小田明志内沼晋太郎 )のインタビュー読んだけど、今日は太陽君の人選ミスだと思うんだよね……。

──えっ、そうですか?

大山 うん。ナタリーに興味をもって取材してくれる媒体はいくつもあるけど、今回は僕個人にフォーカスが当たってるわけでしょ。今までの2人はすごくギラっとしたアーティスト感があるのに、僕にはないし。あんなカッコいいメディア論話せないよ。

──でもアーティスト感がなかったとしても、実際にナタリーをここまで大きなメディアにしたわけじゃないですか。どうしてそれができたのか知りたいんです。今はウェブでメディアみたいなものを立ち上げたいと思ってる人もたくさんいて、ナタリーは目標であり憧れなんじゃないかと思いますし

大山 うーん、そうなのかなぁ。

──では始めますね。もともと卓也さんはナタリーの前にミュージックマシーンという個人サイトをやられてましたよね。音楽ニュースを毎日更新で配信していて、一日何万PVというアクセスがあったと聞きました。それはなぜ毎日更新にしたんですか?

大山 だって、サイトの更新は毎日やるもんだと思ってたんですよ。

──でも出版社で雑誌編集をやっていたんですよね。スケジュールもタイトな仕事だし、帰れない日なんかもあったと思いますけど。

大山 確かに忙しかったから、会社で徹夜しながら更新したりもしてた。多分何かに突き動かされていたんだと思うんですよ。でも……なんだったんだろう? 今じゃもう分からないんだよね。

──ライフワークとして、毎日苦もなく作業的にやっていた感じですか?

大山 いやー、それなりに大変ではあったとは思うんですけどね。やることはたくさんあるのに、なんで毎日こんなサイトの更新してるんだろう? って思うこともあったし。

──そうですよね。もう単純に、どうして毎日やれたんだろう? って疑問なんです。

大山 毎日更新するって言って始めちゃったから。それが全てだと思う。だから太陽君がクリエイトークを全然更新してないのが歯がゆいんだよね。当時の自分を見てるようで。

──やっぱり自分でやってみて、その難しさってすごく感じるんです。

大山 でもミュージックマシーンはひたすら頭を空っぽにしてニュースを並べていくっていうスタイルでやってたから。だから続いたのかなとは思います。形が決まってるから迷わず更新できるっていうのが大きいですよね。もしそれが自分の中から湧き出る想いとか思想をアウトプットしていくスタイルだったら、僕にはできなかったと思う。

──ニュースを集めると言っても、アーティストってすごい膨大じゃないですか。情報の収集はどうしていたんですか?

大山 RSS的なものを使ったり、単純にひとつひとつのアーティストサイトを覗いてみたり、単純作業ですよ。だからミュージックマシーンはすごい発見でも発明でもなくて、無理なくやれる範囲だったから続けられたってだけなんです。僕自身に伝えたい主張やメッセージがないからこそニュースメディアがしっくりきたし、今でもナタリーをやり続けていられるんだと思う。

──自分から溢れるものがないっていうのは昔から思ってましたか?

大山 思ってた。全然ないです。コンプレックスとはまでは言わないけど、日々感じてる。ライターさんでもすごい文量で書く人いるでしょ。1枚のCDについて何千字とか。どうしてあんなに書けるのか不思議だもん。

──でも卓也さんもブログで長文書かれてたりしますよね。

大山 年に1回くらいはありますけどね。でも普段は感動したり込み上げるものがあっても、アウトプットしないことのほうが多い。誰にも言わないし、どこかに発表したりもしない。去年だと、春の小沢健二のライブが良かったから、ブログに記録しておきたいと思って書いたくらいかな。太陽くんは湧き出るものってあるの?

──いや、僕もないんですよ。昔から書くのは好きでしたけど、ライターになってみるとやっぱりしんどさも感じますし。

大山 そうそう、書くのってしんどいんだよね。

──インタビューは楽しいですけど、自分から進んで書いて伝えたいことってなんだろう? って最近思うようになってきました。

大山 うん、僕も書きたいことなんてないんだよ。だからこそライターさんの文章ってすごいと思う。それはデザイナーでもカメラマンでもアーティストに対しても同じで、そういうクリエイティブな人たちをリスペクトする気持ちが人一倍強い気はするんです。

──書けるようになりたいとは思いませんか?

大山 役割分担だからね、書ける人が書けばいいと思ってます。僕はアーティストじゃないっていうのはそういうことで、本当に裏方の人間なんですよ。



キャッチコピーとモヒカンの秘密


ナタリーは年末年始も毎日更新

取材は年末の忙しい時期にお時間を取って頂きました。ちなみにナタリーは年末年始も毎日更新。その理由は「新聞もテレビもお休みしないから」。


ナタリー信子さんとマリモのマシュー

漫画家の東村アキコさん描き下ろしのマスコット、ナタリー信子さんとマリモのマシュー。なぜ「信子」にしたのかも聞けばよかった!


──前からすごく気になってたんですけど、ナタリーってキャッチコピーが面白いですよね。今までについていたのが「音楽ファンの一里塚」、「飛び出せ!愛され破壊神」、「ゆるふわ愛され音楽ニュースサイト」っていうのもありました。

大山 うん、冷静に考えると変だよね。

──最初見た時からずっと疑問だったんです。愛され破壊神ってなんだろうって。

大山 音楽もニュースも関係ないもんね。改めてひどいコピーだと思う(笑)。

──どのように決めたんですか?

大山 なんかね、あるとき突然「破壊神」ってかっこいいなと思って。でもちょっと殺伐とした言葉だから「愛され」を付けようと。

──それだけですか?

大山 はい。

──えっ!

大山 「音楽ファンの一里塚」でも、意味が分からないって社員全員から猛反発を受けたんですよ。でも初めから意味なんてないし、何かを言ってそうだけど何も言ってない感じが好きだったの。だから説得したらみんな諦めてくれました。

──コピーを何度か変えたことには理由はあるんですか?

大山 飽きたんですよ。

──そこも深い意味はない?

大山 全くないです。

──そうでしたか(笑)。あと、卓也さんてモヒカンにしてたこともありましたよね。

大山 おー、よく知ってるね。

──ウェブでインタビュー記事を見て、その写真が今時バンドマンでもやらないようなモヒカンだったのではっきり覚えてるんです。なんであんなことになったんですか?

大山 なんでだったかな。たぶんあの頃気持ちが殺伐としてたんだと思うんですけど。ちょうどその時期に取材の申し込みが来て。「ITベンチャー社長に聞く」みたいなシリーズでのオファーだったので、他にどんな人が出てるのかなってバックナンバーを見ると、いいとこのボンボンみたいな人たちが並んでるわけですよ。みんな育ちが良さそうで、いけ好かないなぁと(笑)。この中に同類として並ぶのは嫌だなぁと思ってて。

──それでモヒカンに!?

大山 うん。ビジュアル的に分かりやすいかなって。やっぱりあの中に含まれるのにちょっと抵抗があって。もちろんひとりひとりと会えば良い人たちなんだろうし、友達になれたりするんだろうけど。総体としてのボンボンに含まれるのは嫌ですからね。



会社を作って給料8万円になった


ナターシャのオフィス

ナターシャのオフィス。漫画や書類が積み重なった机が並び、まさに「編集部」という印象。ホワイドボードにも予定がびっしり。


インタビューはナターシャの会議室にて

インタビューはナターシャの会議室にて。僕が以前面接を受けたのもこの部屋でした。


──会社を辞めてナタリーを立ち上げるまでは、フリーランスで働いてたんですよね。どんな仕事をしてたんですか?

大山 いくつかの企業サイトに音楽関係のニュース記事を書いて納品する仕事を主にやってました。毎日朝10時に起きて14時くらいには終わらせて、あとはブラブラしたりライブ行ったりしてたんです。別に貯金しようとも考えてなかったから、毎月食える分だけ働いてあとの仕事は断ってました。まぁちょっとフワフワしてたんですよ。

──そのままずっと続けようとは思わなかったんですか?

大山 飽きてきたんだよね。やっぱり文章書くのは好きじゃなくて(笑)。だからずっとやっていくのは無理だなと思ったし、フリーでやる限界も感じるようになったので。

──どういう部分にですか?

大山 例えば大きいポータルサイトの人から、音楽のページ全部任せたいって言われることもあったんです。でも仕事量が多すぎるから個人では受けられなかったり。あとはニュース原稿を書くと言っても、自分で直接取材してるわけではなかったから一次情報になれないつまらなさも感じていて。ちょうどその頃に、今をときめく(笑)津田大介と「会社でもやろうか」って話になったんです。2005年の終わり頃ですね。

──津田さんとはウェブがきっかけで知り合ったんですよね。

大山 そうそう、ミュージックマシーンのオフ会に来てくれて。それですぐ意気投合して遊ぶようになった。

──何人来たんですか?

大山 そのときは60人くらいですかね。あれは面白かったですよ。

──結構な人数ですね。

大山 みんな音楽の話を学校や会社でする相手がいない、って状況だったんですよね。「昨日キングブラザーズのライブ行ってさ」って言っても誰も分かってくれない! みたいな。でもミュージックマシーンのオフ会に行けば話題が合うから。当時はウェブでもそういうコミュニティってほとんどなかったし、面白いなって思ってました。

──ナタリーって最初はSNS的な機能もあったじゃないですか。それもオフ会みたいに、共通の趣味を持つ人が集まれる場所を作りたいと考えてたんですか?

大山 あぁー、あったねSNS。あれはなんだったんだろう(笑)。ナタリーっていろいろやってはいろいろ潰してるんですよ。例えば自分が行くライブのスケジュールをカレンダーにして共有しようとか、音楽番組の放送開始1時間前にはアラームメールが届くようにしようとか、繋がってる友人がどのニュースページを見たか分かるようにするとか。とにかくいっぱいやったんです。で、今は全部ないんです(笑)。

──うまくいかなかったんですか?

大山 というより、スタッフが出してくれた面白そうなアイデアはどんどんやってたんです。ウェブだからそういう試みはいくらでもできるし、フットワーク軽くなんでもやろうと。もちろん当たることもあれば外れることもあるから、だめだったらやめればいいよねって。

──ナターシャを立ち上げてからも実質1年くらいは編プロ状態だったんですよね。食っていくにはなんとかなるもんですか?

大山 なんとかなってなかったよ。給料8万円だったし(笑)。しかもフリーの時はそれなりに稼いでたから、会社作って貧乏になったわーと思ってた。自分も会社もお金がなくて、先も見えないパッとしない時期で、貧乏は人を弱気にさせるんだっていうのを知った。今でも津田くんに「あの頃の卓也は本当に弱気で、麻雀やっても弱かった」って言われるし。会社が上向き始めてから麻雀も勝てるようになったけど(笑)。

──でもいつかなんとかなるだろうとは思ってましたか?

大山 んー、あんまり考えてなかったかな。でも最初に描いた設計図は間違ってないって自信はあったんです。ただそこにビジネスモデルが含まれていなかったので、どうすればいいのか分からなかった。今思うと、よくみんな付いて来てくれたよね。

──ベンチャーキャピタルとも会ったんですよね。

大山 会ったね、何社も会った。当時はまだリーマンショックの前だったし、どっかしらお金出してくれるだろうと。でも事業内容を話すと「はぁ?? 本気?」みたいな。こっちは貧乏の極地だったから、なんで投資してくれないんだろう? って漠然と憤ってたね。散々バカにされたんだよ、「ビジネスとしてはケタがひとつ足りないんじゃないの?」とも言われたし。でも投資を受けなくて良かったと今は思ってます。金を出されたら口も出されるわけで、うまく行く場合もあるだろうけど、僕らがやりたかったのはメディアだから。どこかに縛られていたら面白いメディアはできないもん。

──確かにそうですよね。

大山 というのはまぁ後付けで(笑)、今だから言えるだけ。当時は何も考えてなかったですよ。どうしよう? ってだけだった。

──投資を受けられなかったのは、ビジネスモデルが甘いということだったんですよね。そう言われて当時はどう思ったんですか?

大山 言われてみればその通りだなーって思ってました(笑)。ビジネスモデルなしで始めちゃったんだなってその時に気付いた。

──上手く回り始めたと感じたのはいつ頃でしたか?

大山 ナタリーの収入は広告と、ニュースを他媒体に買ってもらうのが利益の柱なんです。その2つめの「ニュースを売る」というビジネスモデルに気付いた時ですね。気付いたというか、手法自体はすごくスタンダードなものなので、単純に僕が知らなかっただけなんですけど。毎日コツコツやっていたから、無名だけどちゃんとしてるんだってことを評価してくれた人たちが少しずつでてきて、ようやく上手く行き始めたのは会社を作って1年半くらい経った頃だったかな。



次回予告


おすすめの漫画は「エスパー魔美」

おすすめの漫画は「エスパー魔美」だそうです。


というわけでSEASON2としてリスタートした「お前の目玉は節穴か」です。若手ライターたちが自分のテーマに添って人物インタビューを重ねていくという趣旨はそのまま、第一回担当の田島太陽は、前シーズンのテーマをよりはっきりさせて「メディアの行方」を担うキーパーソンにインタビューしていきます。次回は、大山卓也インタビュー後編です。お楽しみに。
前シーズンとの大きな違いは、メンバーを固定せず、おもしろい企画があれば道場破りもありなところ。ブログなどですでに企画インタビューをはじめているかた、ぜひお問い合わせください。プロアマ問いません。編集担当のツイッター @kaerubungei までどうぞ。

Webマガジン幻冬舎:お前の目玉は節穴か バックナンバー