「なぜ俺は『プリキュア』が好きなのか。わからないのなら、その答えが出るまで『プリキュア』に関わってきた人たちに話を聞きに行けばいい」と思い、「プリキュアオールスターズDX」シリーズの監督、大塚隆史さんや、脚本家の村山功さんに、「プリキュア」という作品ができあがるまでを伺った。
次に気になったのは、作品に別方向から命を吹き込んでいく音楽という存在だ。今回登場していただくのは、初代「ふたりはプリキュア」から「Yes!プリキュア5GoGo!」、そして3月に公開された、映画「プリキュア」シリーズ最新作、「映画プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」の音楽を担当されている佐藤直紀さん。普段何気なく聴いている劇伴だけど、どれだけの思いを込めて1曲1曲を作っているのだろうか。俺が好きな「Yes!プリキュア5」シリーズを中心に、まずは初代「ふたりはプリキュア」のころを振り返ってもらいました。インタビューには「プリキュア」シリーズを立ち上げ、支えてきた鷲尾天プロデューサーにも同席してくれました。




演奏をするよりも曲を書いてばかり


佐藤直紀(さとう・なおき)PROFILE

1970年5月2日生。千葉県出身。東京音楽大学作曲科卒業、CM制作会社に売り込みをし、缶コーヒー「ジョージア」のCMで音楽家デビュー。「ふたりはプリキュア」(04〜05年)から「Yes!プリキュア5GoGo!」(08〜09年)まで、「プリキュア」シリーズの音楽を担当。シリーズ最新映画「映画プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」では、3年ぶりに「プリキュア」の音楽に参加。代表作に、第29回日本アカデミー賞・最優秀音楽賞を受賞した「ALWAYS 三丁目の夕日」(05年)、大河ドラマ「龍馬伝」(10年)などがある。小学5年生と1年生のお子さんがいる。

佐藤直紀(さとう・なおき)



加藤レイズナ(かとう・れいずな)PROFILE

1987年9月11日生。フリーライター。「エキサイトレビュー」レギュラーライター&編集。Web幻冬舎「実況野郎Bチーム」でインタビューの面白さに目覚める。日経ビズカレッジ「ゆとり世代、業界の大先輩に教えを請う」」、3月2日発売「プリキュアぴあ」に参加。NHK-BS2「MAG・ネット」のプリキュアシリーズ特集に出演。

Twitter:@kato_reizuna加藤レイズナの仕事一覧ブログ

加藤レイズナ(かとう・れいずな)


──「ふたりはプリキュア」から「Yes!プリキュア5GoGo!」までの音楽をつくりあげ、3月に公開された「映画プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」で再び「プリキュア」を担当された佐藤さんに、ぜひ「プリキュア」サウンドの作り方をお聞きしたいです。

佐藤 はい、よろしく。

──本日は「プリキュア5GoGo」までと、「DX」シリーズのプロデューサーの鷲尾さんにも来ていただきました。

鷲尾 私は横でうなずくことに徹しようと思っておりますので(笑)。ささ、お気になさらずに。

──まず佐藤さんのことから伺いたいのですが、なぜ音楽に?

佐藤 「ザ・ベストテン」「夜のヒットスタジオ」の世代なので、歌謡曲で育ってきたんですよ。

──楽器をいじったりはしていました?

佐藤 小さいときから家に、お兄ちゃんからもらったフォークギターとか誰かの家からもらってきたエレクトーンがあって、それを弾いたりしていましたね。

──ご両親が音楽のお仕事をされていたり?

佐藤 ぜんぜんそんなことないんです。自分からピアノを習いに行ったりもしていたんですけど、クラシックのピアノって譜面通りに弾かないといけないんですよ。何か物足りなくて……。

──やることがぜんぶ決まっているから、ということですか?

佐藤 はい。そうしたら、先生が「自分で曲を書いてみたら」と言ってくれたんです。自分の曲って自由に弾けるんですよね。中学のころにバンドでギターを弾いていたんですけど、演奏をするよりも曲を書いてばかり。

──演奏よりも作曲が楽しくて仕方がなかった。

佐藤 もっと曲を書くにはどうすればいいのか考えたら、東京音楽大学の作曲科というのを見つけたので、じゃあ入ろうかなって。

──作曲科ってなにを習うんですか?

佐藤 作曲です(笑)。

──ははは、ですよね。なにか特別なことをされたり?

佐藤 音楽理論を習ったり。作曲って教わるものではないんですよ。書いてきた曲に先生が「こうしたほうがいい」と言ってくれるだけなんです。



作曲家になるしかないって決めていました


取材前にレコーディングルームで談笑

取材前にレコーディングルームで談笑。


「プリキュア5」は2007年の作品

「プリキュア5」は2007年の作品。忘れてることもあるかもしれないとのことで、当時の資料を持ってきてもらいました。


──最初のお仕事はなんだったんでしょう?

佐藤 大学を卒業した年に「ジョージア」のCMをやらせていただきました。

──いきなりそんな大きい仕事を! きっかけはなんだったんでしょう、持ち込みをしたりですか?

佐藤 「MUSIC MAN」という音楽雑誌に載っている番号に片っぱしから電話をしていました。東京にあるCM制作会社にはぜんぶ連絡をしたんじゃないかな。

──いきなり電話をかけて大丈夫だったんですか?

佐藤 ほとんど全滅。

──うわー……。

佐藤 たまに話を聞いてくれたりするところもあるんだけど、それが駄目なときは自分で作ったテープを送って、「聴いていただけましたか?」って電話するんです。

──「絶対に作曲家になる」ってすごく強く思っていたんですね。レコード会社に勤めたりとかは考えてなかった?

佐藤 音大まで行っていますし、もう作曲家になるしかない、って自分の中で決めていましたね。

──最初に「ジョージア」のCMに起用されて、そのあとは順調だったんですか?

佐藤 そうでもないですよ。そのあともCM制作会社に電話をかけまくっていましたよ。「ジョージア」で使われた曲を送りつけたりもしてたなあ。

──CMにこだわり続けていたんですね。

佐藤 まずは曲を書いてお金を貰うということが一番大事なことですから。ほかにも映画やドラマ、アニメの劇伴もやってみたいな、と思っていて。

──映像系の曲を書きたかったんですね。

佐藤 映画が好きなんですよね。「ターミネーター」とか「プライベート・ライアン」とか。何回見ても飽きない。

──やっぱり音楽もお気に入りなんですか?

佐藤 「ターミネーター」はリズムがわかりやすいですよね。

──デデンデンデデン。

佐藤 もちろん、わかりやすければすべていい音楽だとは限りませんけどね。音楽がなくても素晴らしい作品もたくさんありますし。

──どのようなジャンルの音楽を聴くんですか?

佐藤 いまはあまり聴いていないんですけど、学生のころはジャズばっかりでした。ジャズクラブのブルーノート東京にしょっちゅう行っていましたよ。

──それが曲作りにも影響されていたり?

佐藤 うーん。そういう曲を作らないようにしようと思いました。

──え、そういうのを作ろうじゃなくて?

佐藤 ジャズって一番楽しいのは演奏者側なんですよ。その次が楽器をすこしかじっている人たち。ジャズは聴く方よりも演奏する方が楽しんでいるんですよ。

──え、僕はけっこう好きですよ。

佐藤 ほんと? ジャズよりもAKB48の方がよっぽど人を楽しませる曲じゃないかなあ?(笑)。



量にびっくりしたんですよ


「アニメはよくご覧になるんですか?」

「アニメはよくご覧になるんですか?」「あまり観ないんですよ。『ドラえもん』とか『バカボン』を観いていたくらいですね」


当時の「プリキュア」の背景については...

当時の「プリキュア」の背景については、「プリキュア」シリーズプロデューサーの鷲尾天(わしお・たかし)さんにお聞きしながら話をすすめていきます。1965年9月16日生。秋田県秋田市出身。初代「ふたりはプリキュア」(04〜05年)から「Yes!プリキュア5GoGo!」(08〜09年)までプロデューサーとして活躍。2009年、Webマガジン幻冬舎「実況野郎B-TEAM」内でお話を伺いました。


──本編で使われる曲は一度にまとめて依頼して、作曲するものなんでしょうか。

佐藤 そうそう。

──「ふたりはプリキュア」のころは何曲?

鷲尾 えーと、キャラクターごとの楽曲や、イメージテーマを何曲かですので、60くらいでしたっけ……?

佐藤 一回目の録音では89曲。

──制作期間は?

佐藤 一ヶ月もなかった。

鷲尾 本当にすみません……。

──ははは。曲の数は誰が決められるんですか?

鷲尾 こちら側で、「なんとなくこのくらいかな」って話をするんです。ちょっと多いかな、でも、打ち合わせで削ればいいやって思っていたら……増えるんです。

──うわー(笑)。

鷲尾 佐藤さんにはだいぶご無理をお願いしてしまいました。89曲は多すぎますよね。そのときはまだぜんぜんわかっていなかったんです。

──多いんですか? 他のアニメだとどのくらいなんでしょう。

鷲尾 だいたいですけど、50から60くらい。

──「プリキュア」多い!

佐藤 僕も量にびっくりしたんですよ。こんなに書くんだって(笑)。

──曲ってどのように発注されるものなんでしょう。

佐藤 曲に関しての具体的なことは特に聞かないですね。「楽しい日常」や「元気に」、「ちょっと悲しげに」とかから膨らませるので、そこの時点では誰も具体的に見えていないんです。

──え、その一言だけなんですか。世界観やキャラクターのイメージを詳しく聞いたり、「このキャラクターは元気がいいので、リズミカルにお願いします」とか話したり?

佐藤 1年目の音楽打ち合わせだと、どういうコンセプトの曲にしようとか、何もわからない状態で話しているので、意見の交換はなかなかできない。

鷲尾 映像はまだ全然出来ていないので、キャラクターの設定画とか美術設定、プロットぐらいしか資料がないので、こちらからは「こんな世界観で、この子はこんな性格で、こういうリアクションするタイプです」のような説明しかできないんです。

──ほんとうにイメージだけなんですね。資料はイラストやプロットを見るだけなんですか?

鷲尾 打ち合わせも2年目3年目と進んでいくと、「そのテイストなら、こういう楽器を使ってみましょうか」という話をするようになるんです。

──ひとつひとつ手探りなんですね。

佐藤 そうですね。「ふたりはプリキュア」のときは、もう少しシンセサイザーの音を大きくして、4つ打ちのテクノ風の打ち込みをして、その上から生音を乗せようかと思っていたんです。でも、あまりにも曲数が多くて、打ち込みを入れるととても間に合わないので、そっちの方向はやめたんです。

鷲尾 そうだったんですか(笑)。

佐藤 当初はテクノをやってみたかったんですけど、結果的にはやらなくてよかったです。打ち込みじゃなく生音にしてよかったと思っています。「プリキュア」の主人公たちは、生活感とか生身のアクションの感じが強かったですから。



鼻歌が多いんです


■

「『ふたりはプリキュア』プリキュア・サウンド・スクリュー! オリジナル・サントラ 1」


■

「『ふたりはプリキュア』プリキュア・サウンド・セラピー!! オリジナル・サントラ 2」


──曲を考える場所は?

佐藤 散歩しながら考えたりとかはないんですよ。机に座って、とにかく映像や台本を読む。メロディがパッと浮かんだりすることってないんです。

──作曲は、シンセサイザーで打ち込むほうが多いんですか?

佐藤 普段の作曲でもそこまで使う方ではないんですけど、「プリキュア」だと、シンセはほとんど使わないんです。

──どんな楽器を?

佐藤 楽器というより、もう手が先ですね。とにかく譜面を書いていくんです。自分では音にしない……あ、鼻歌がけっこう多いんですよ。

──え、鼻歌で作曲するんですか!?

佐藤 たとえば……、そうだなあ、ピアノっていっぱい鍵盤があるじゃないですか。

──はい。

佐藤 「プリキュア」では子どもたちにとって、わかりやすく、歌える強いメロディを心がけています。人間が出せる音域は決まっているじゃないですか。鼻歌だと急に高音から低音に行ったりできないでしょう。ましてやむずかしい転調はできない。だから、あえて鼻歌。楽器は使わないんです。

──曲を作るときは映像は見ていないんですよね。

佐藤 見ていないですね。あ、でも「ふたりはプリキュア」のときは、レコーディング当日に変身シーンを見られたのかな。

鷲尾 ありましたね。

佐藤 それを見て、シンセだけの曲を追加したのは覚えています。

──変身シーンは、絵を曲に合わせているんですよね。

佐藤 どういう構成で変身していくのかがわかったほうがいいので、コンテは貰っているんです。

鷲尾 変身シーンは1分だったり30秒だったりと、話数によって違うので、厳密に合わせてくださいということはあまりないですね。

──本当は映像があったほうが作りやすかったりするんですか?

佐藤 テレビの場合は映像がなくても大丈夫ですね。

──テレビの場合というのは?

佐藤 映像にどのように音を当てるかは、選曲の方が判断してくれるんですよ。自分で合わせるわけではないので、映像を見ながら曲を作っても最終的に音と合わせる作業はお任せしちゃうので。

──映画は違うんですか?

佐藤 はい。絵コンテを見ながら曲を作るんですけど、「もうこの映像は、1コマもずれませんよ」って状態なら絵合わせができるんです。

──映像と1分1秒狂わず曲を作れるということですね。

佐藤 1秒ズレたら台無しになるんですよ。ズレちゃうと変なところにアクセントがきちゃって、音楽と映像が合わなくなっちゃう。たとえ半秒でもズレちゃうともうダメなんです。

──曲を作る段階では、映像は一切動かしてほしくないんですね。

佐藤 映像が完全にできあがっていて、「何分何秒から何分何秒まで音楽を入れます」という音楽設計があるのが理想ですね。



次号予告


都内にある録音スタジオでインタビュー

都内にある録音スタジオでインタビュー。音楽は佐藤さん、作品については鷲尾さんと攻守ともにバッチリ!「音楽制作の気分転換には何をしているんですか?」 ……とにかく聞きまくりました!


7/15公開予定の後編は「プリキュア5」の話が中心。BGMのテーマはクラシック志向なの、それともジャズなの?「プリキュアオールスターズDX3」の感動秘話や、40〜50人で行うアレなど盛りだくさんに突っ込んでいきますよ!

「お前の目玉は節穴か」では、おもしろい取材企画を募集しています。ブログなどで具体的に企画をはじめているかた、道場破りもありです、ぜひお問い合わせください。プロアマ問いません。編集担当のツイッター @kaerubungei までどうぞ。

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