オリンピック、そして世界陸上のエピソードを中心に陸上競技実況の面白さが「差」の描写にある、と語ってくれたTBS・土井敏之アナウンサー。後半では、ラジオとテレビ実況の違いについて、さらには視聴率40%を超えるビックイベントにおける実況の極意に迫ります!




アナウンサーとしてオリンピックに参加するのってカッコいいな


土井敏之(どいとしゆき)


土井敏之(どいとしゆき)PROFILE

1970年、東京都出身。早稲田大学法学部卒業。1994年、NHKに入局し、佐賀放送局に赴任。1996年1月、TBSのアナウンサー中途採用で入社。野球、サッカー、陸上、バレーボール、ボクシングなどを中心にスポーツ中継の実況を担当。2006 FIFAワールドカップ決勝戦の民放ラジオ代表実況を務めたほか、2010 FIFAワールドカップ決勝トーナメント1回戦の日本対パラグアイ戦のテレビ実況も担当。その他、世界陸上、ボクシング世界タイトル戦など、数々のビックマッチで実況マイクを握っている。2012年ロンドンオリンピックのジャパンコンソーシアムにも選ばれ、バレーボールと陸上競技を実況した。スポーツ中継以外でも、「ブロードキャスター」「ひるおび!」などの情報番組も数多く担当している。



オグマナオト


オグマナオト PROFILE

フリーライター。福島県出身、風車とスポーツと食べることについてばかり考える30代。『エキレビ!』レギュラーライター。各種媒体でのインタビュー記事を担当するほか、風車ライターとして『電書雑誌よねみつ』で「まわれ風車男」を連載。

ツイッター/@oguman1977



高校時代は文化放送リスナーだったと言う土井アナウンサー

文化放送出身の戸谷真人アナ、吉田照美アナを輩出した早稲田大学アナウンス研究会に憧れ...

高校時代は文化放送リスナーだったと言う土井アナウンサー。文化放送出身の戸谷真人アナ、吉田照美アナを輩出した早稲田大学アナウンス研究会に憧れ、1浪の末早稲田大学に見事合格。文化放送の松島茂アナ、フリーのスポーツアナウンサーである加藤暁アナや節丸裕一アナが同期。また一学年上にはTBSの初田啓介アナ、ニッポン放送の山内宏明アナなど、スポーツアナウンサーが多い世代だという。


──今、TBSで活躍されているわけですが、元々はNHKのアナウンサーだったんですよね?

土井 はい。まあでも、NHKが第一志望だったわけじゃないですよ(笑)

──NHKには2年弱?

土井 1年と9ヶ月ですね。94年の4月入社で、95年の12月までですから。

──それは、NHKに入っても、民放を諦められなかったということですか?

土井 全然! そんなつもりはちーともなくて。というか、NHKでもまだ2年目だから希望に燃えているし、将来はNHKでこうなりたい、スポーツアナとしてオリンピックでしゃべりたい、というのもありましたからね。実際、2年目になって、ラジオの高校野球の佐賀県大会決勝をしゃべらせてもらえ、その次の九州大会にも呼ばれたので、なんとなく一歩ずつ前に進んでいる感じはあったんですね。だから、辞める気なんてサラサラなかったんです。

──それなのに、TBSに移られたのは?

土井 TBSで公募があったんですよ。現役のアナウンサーを対象に「TBSでスポーツアナウンサーをやりたい人いませんか」と。ただ、対象年齢は結構上だったんですよね。30以上だったかな? だから、自分はそこに引っかかってなかったんですけど、大学のサークル(早稲田大学アナウンス研究会)の先輩である初田アナから電話がかかってきて、「土井ちゃん、今度ウチでこういうのやるから受けてよ」と。「俺、アナ研のちょっと上の人とか、同じ世代とかみんなに連絡してるから、特に他意はないからさ。『DODA』とか『ビーイング』とかそういう転職雑誌にも載るから。公募だから出してよ」と。

──現役のアナウンサーを対象に募集するって、なかなか聞かないですよね?

土井 そうなんですよ。たったこの一回っきり。TBSでも、後にも先にこれっきりです。ちょうど、30代のスポーツアナウンサーが少なくて、それを埋めるための募集だったらしいんですよ。それで自分も「わかりました。いいっすよ」という軽い気持ちで出しちゃった、というのがキッカケでしたね。

──そもそも、土井さんがアナウンサーになろうと思ったキッカケはなんだったんでしょうか?

土井 子どもの頃からスポーツ中継が好きで、テレビ・ラジオを問わず、実況するアナウンサーってすごいなぁと思っていたので、漠然としたアナウンサーへの憧れはずっとあったんですが、職業として最初にアナウンサーを意識したのは、高校3年生のときですね。ちょうどソウルオリンピックがあったんですよ。

──1988年ですね。

土井 ソウルオリンピックというのはとても異質なオリンピックだったんですね。ロサンゼルスオリンピックが84年にあって、それがはじめて商業的に成功したオリンピックでしたから、その次のソウル大会でもアメリカのマーケットを意識したタイムテーブルが組まれていたんです。陸上の男子100M決勝にしても、競技時間が昼間なんですよ。アメリカのゴールデンタイムに合うように。

──カール・ルイス×ベン・ジョンソン。

土井 そんな風に、注目競技の決勝がだいたい昼に行われ、しかも、アジア開催ということで夏の暑い盛りを避けて9月開催だったので、授業が始まっている学生は全く見られないわけですよ。で、見られない、となるとみんなやることは決まっていて、ラジオを授業中に聴く。イヤホンを制服の間に通して、頬杖をつくようにとか工夫をして、一生懸命聴いていたんですね。

──自分も昔、日本シリーズで似たようなことを。

土井 陸上以外でも、女子のバレーボールが個人的に注目競技で、最終的に金メダルを獲ることになる当時のソ連と日本がグループリーグで当たるんですね。その試合は休み時間にもかかったので、クラスのみんなでラジオを聴いていたんですが、そのラジオを中心にみんながワーっと盛り上がったんです。それを見た時に、「オリンピックに参加するってスゴいことだな」と思ったんです。

──それこそ、スポーツの持つ力ですよね。

土井 当時、自分もバレーボールをやっていたんですが、当然、選手としてオリンピックを目指せるレベルではなかった、でも、アナウンサーとしてオリンピックに参加するのってカッコいいなって思ったんですよ。しかも、それを観ている人が、聴いている人がこんなに盛り上がる。そこから、アナウンサーになりたい! と思い始めましたね。

──じゃあ最初から「アナウンサーになりたい」だけじゃなく、「オリンピックでしゃべりたい」という具体的な目標があったんですね。

土井 そうですね。だって、ラジオなのに、まさに目の前で競技が行われているかのように盛り上がったんですよ。

──具体的に、このアナウンサーのこのフレーズが、というものはあったんですか?

土井 フレーズは特になかったんですけど、後で調べたら、日本×ソ連って、当時文化放送のアナウンサーだった中田秀作さんが実況されていたんです。大学時代に文化放送でアルバイトをしていたので、実際にそのことを中田さんに聞いたら、「え、アレ? バレーってあの試合で初めてしゃべったんだよ」とおっしゃって、しっこたま驚きましたね!

──初めて? オリンピックで!?

土井 初めて! 「バレーボールなんて一回もやったことないよ」という実況を高校生が聴いて、目の前で行われているかのように思ったのかと。そのときに、オリンピックに行くアナウンサーの力量をまざまざと感じましたね。

──でも、今では土井さんもオリンピック・アナウンサーなわけですよね。ちなみに、オリンピックは今回のロンドンで何回目ですか?

土井 いえ、今回が初めてです。

──じゃあ、遂に高校時代の念願が叶ったんですね。

土井 そうなりますかね。

──パーソナルな部分でもうひとつ聞きたいことがあります。スポーツ中継に限らず「ブロードキャスター」などで、啖呵売調のプレゼンテーションをされることがあると思うんですけど、あれっていうのは……?

土井 あぁ、あれはですね「ブロードキャスター」は初田アナが前任者で、それを私が引き継いだんですね。初田さんっていうのはキャラクターがすごくハッキリしていて、スポーツ担当なんですけど、初田さんがしゃべると笑いが起こる。そういうキャラを確立していたんです。でも、受け継いで最初のうちはどう絡んでいいか、何を特徴にしていいかが全然わからず、とにかくマジメにやっていただけなんですけど、どうも自分でも、いまひとつ面白くないなぁと思っていて。

──初田アナウンサーは確かに、キャラクターが立ってますもんね。

土井 あの番組では競馬の予想コーナーが売りだったんですが、そのコーナーの中で、自分の「前振り」があったんです。その部分に関して台本には特に内容が書いてなくて、「勢いよくヨロシク!」とだけあったんです。勢いよくってどんなんだろうなぁ……と自分なりに考えて、イメージしたのが、場外馬券売り場にいる予想屋さん。予想屋さんのイメージと、「男はつらいよ」の寅さんの啖呵売ですよね。あのイメージが「勢いよく」にハマったので、自分なりにアレンジしてやってみたんです。そうしたら翌週からも「土井ちゃん、またアレやって」と言われるようになり、それからですね。

──「ブロードキャスター」は毎週見ていましたが、土井さんのあのイメージが強いです。

土井 ただ、自分発でやっちゃったもんだから、引っ込みがつかず、最後まで自分で考えなきゃいけなくなる。中身も全部自分で考えるんですよ。オチまで考えなきゃいけなくて「どーやったらこれオチるんだ?」と(笑)。だんだん後半になると競馬コーナーだけじゃなく、スポーツコーナーのいろんなスポーツの振りを啖呵売でやらなきゃいけなくなって(笑)。でもあれは考えるクセや発想も身につけられて、なかなか面白かったですね。



私は競技の専門家ではないですから


TBSラジオ・エキサイトベースボール

TBSラジオ・エキサイトベースボール。プロ野球レギュラーシーズン期間、火〜金の17:50から試合終了まで生放送。解説陣には有藤通世、衣笠祥雄、槙原寛己、佐々木主浩、元木大介、らがいる。栗山英樹・日本ハムファイターズ監督も2011年度まで解説を務めていた。



「解説者との試合前のコミュニケーションが大事」と語る土井アナ

「解説者との試合前のコミュニケーションが大事」と語る土井アナ。でも、「今日の試合はどうなりますか?」といったストレートな質問はしないとのこと。「それをやっちゃうと、逆に放送で疲れてしゃべれなくなっちゃうから。やりすぎてもダメなんですよ。でも、選手や監督のコメントを振ってみて、それについての反応から『ああ、今日しゃべりたいのはそっちか』と判断したりはしています」


──ハプニングに関してもうひとつお聞きしたいことがありまして、「エキサイトベースボール」で実況アナウンサーの具合が悪くなり、急遽リポーターだった土井さんに交代した、ということがありましたよね? 翌日のスポーツ紙でも取り上げられました。

土井 ああ、はいはい! それも確かに、ハプニングですねぇ。

──もちろん、スポーツの現場でハプニングはつきものだと思うのですが、土井さんの場合は、それがニュースになることが多い気がします。

土井 なんでですかねぇ。引きが強いんですかね(笑)。あれはですね、東京ドームだったんですが、現場で聴いていて、途中から声が枯れ始めたのは感じていたんですよ。それで、9回くらいに、少しヤバいなぁと思って、下のリポーター席からディレクターに「大丈夫?」と連絡を取りあっていたんです。そうしたら延長戦になってしまって、「コレはいよいよまずいぞ!」ということで実況席に向かったんです。

──それは、実況の準備、という意味ではできていないですよね。

土井 まあ、できてないですが、序盤ならともかく延長戦からだったので、もう目の前の勝負に徹することが大事だ、という感じでした。でも、憶えてますよ〜。あの試合は5時間を超える戦いだったんですが、10回表に遂に阪神がリードしたんです。でも、そこで決定的に声にダメージが出てきてしまったので、10回の裏、巨人の攻撃から私が変わって実況を担当しました。それこそ、ピッチャーも藤川球児に変わって、アナウンサーまで変わっちゃったと(笑)。

──「アナウンサー変わりまして、土井」と(笑)

土井 そういう、面白いことも頭には浮かんだんですけどね、「実況も抑えが登場です」とか(笑)。でも、言うと不謹慎だなぁと思ってサラッとやりましたよ。

──そんな風に、アナウンサーも試合の中で変わるっていうのも面白い気がしますが。

土井 いやいやいやいや〜。そんなのない方がいですよ(笑)。もし先発したアナウンサーが抑えの人に変わったら、「そうじゃないのに〜っ」「俺のゴール地点はそこじゃない!」ってこと、いっぱいあると思いますよ(笑)。「俺のあの前振り、全然使えてないじゃん!」となりますから。だから、自分で完結したほうがいいでしょうね。

──試合の中で、前振りを前半に置いたり、ということはよくされるんですか?

土井 しますね〜。「ここを見ておいてくださいね」とか、「ここ、大事になりますよ〜」というのはありますね。

──その通りいったら気持ちいいですか? やっぱり。

土井 そりゃもう。それも、当てずっぽうじゃなくて、取材に基づくこととか、データに基づくことで「こうなりそうかな?」という仮説を立て、でも、その仮説をアナウンサーがしゃべってしまうとよくないので、解説者とのコミュニケーションやトークの流れの中からそれを振ってもらって、道筋ができたところでフィニュッシュまでいくと、よかったなぁ、という感じですね。

──あくまでも、解説者の言葉で言ってもらうんですね。

土井 私は競技の専門家ではないですから。競技を見続けていて蓄積はあるけれど、偉そうにしゃべる資格はないわけです。それは、解説の方がやるべきこと。解説の域まで踏み込んで「こういう場合はこうなりますよね」と言ったところで、自己満足になっちゃうんです。だから、解説者からその言葉を引き出す、解説の方がそう言うだろうなという予測をもって質問をする、ということです。だから、解説の方との試合前のコミュニケーションも大事になってくるんですよね。

──野球実況ではたくさんの解説の方がいらっしゃいますが、とくに印象深い方はどなたになりますか? 例えば、以前初田アナウンサーに解説者についてお聞きした際、「元木さんは一切メモをとらないのに事細かに憶えているのがすごい!」とおっしゃっていました。「キャラクターと違うでしょ」と。

土井 ああぁ なるほどね! なるほどねー。そういうことで言えば、栗山さんはキャラクターと一緒でしたよ。

──去年までエキサイトベースボールの解説でしたね。

土井 栗山さんの解説時代でよく憶えているのは、選手とのコミュニケーションの取り方ですね。普通、解説の方というと、バッティングケージの後ろに行って、首脳陣の話を聞くことがメインなんですね。あそこにはプロ野球OBしか行けないんです。そこに、もちろん栗山さんも行けるんですけど、その前に栗山さんは選手のところに話を聞くに行く。自分からどんどんどんどん行くんですよ。その上、話をちゃんと聞いてあげるんです。

──確かに、栗山さんっぽいですね。

土井 選手にも、話したいけど話せないことがあったり、言うと愚痴になっちゃうから言えないこともあるんだけど、プロ野球OBならわかってくれるよな、ということも当然あるんですよ。栗山さんはそれを受け止められるんですよね。だから、よく選手と話し込んでいるのを見たことがありますよ。悩み相談みたいな感じで「うんうん」とやっていたり。もう人柄そのまんまですよね。

──その栗山さんが今年監督になって、どんな印象でしたか?

土井 だから今年の成功、わかりますよね。だって、選手の話を聞きますからね。しかも自分から聞きに行ける人だから、選手の立場をちゃんと理解して、監督という立場上なかなかできないけれどもコミュニケーションを取る方法論は、あきらかに栗山さんはちゃんと持っている人だから。野球をこうやって導きます、というタイプではなくて、選手に対して、どう気遣うかっていうことをすごくできるのは見えていたので、今年の成績は頷けるものがありますよね。



テレビとラジオを両方やっていることで得るものって大きい


ピッチャー&バッター

そして実況、さらには解説まで...

ピッチャー&バッター。そして実況、さらには解説まで一人4役を演じ分けて説明してくれる土井アナウンサー。


──TBSが特徴的なのは、テレビもラジオも、両方あることだと思うのですが。

土井 はい、そうですね。

──その、両方やれることの魅力や、それぞれどう切り替えているかを教えていただけますか?

土井 それはですね、「TBSの一番のメリットは何ですか?」とどのアナウンサーに聞いても、「テレビとラジオが両方あること」と答えると思います。スポーツアナウンサーに限らず、どんなジャンルのアナウンサーに聞いても。ラジオがあるっていうのは、もう全く違うんですよ。

──違う、というのは例えば?

土井 テレビとラジオを両方やっていることで得るものって大きいんですよ。スポーツの場合で言えば、ラジオであれば「描写が中心」になってくる。テレビの場合「絞って描写をする」。この違いなんですね。例えばですが……何にしようかな? 野球の試合でランナー2、3塁、ツーボール・ツーストライクという状況で、5球目にピッチャーが前と同じコースにもう一球投げた、という場合があったとします。

──はい。

土井 ラジオであれば《同じところ! インロー直球ストライク! 見逃しの三振っ》という風に、全部を描写する必要があります。でも、テレビであれば、あえて黙ることもできるわけですよ。決まった瞬間に《同じコースに来た!》とだけ言う。同じ状況なのに全然違う描写ですよね。「見えていないことを見えているように伝える」ラジオに対して、テレビは「見えているものの中から、焦点を絞る」というのが大きな違い。

──ラジオが見えていないことを見えているようにする、というのは、それこそ高校時代の土井さんがバレーの実況で感じたことですよね。

土井 テレビとラジオを両方やっていてよかったなぁと思うことは、ラジオで鍛えた描写力をテレビに持ち込むと、特に勝負所なんかの場合にすごく生きてくるんですよ。例えば、外野に大きなフライが打ちあがって選手がそのボールを追いかけていく描写をするときに、あえて長く黙っていて、最後の瞬間だけ《ライト懸命に追うけれども追いつかないっ》と細かにパパパっと畳み掛ける描写ができるようになる。だから、描写力を鍛える、という意味ではラジオをやっていてよかった、という場面は沢山ありますよね。

──逆に、テレビを経験したことで、ラジオに生かせることはありますか?

土井 カメラワークですかね。ラジオは基本的に、アナウンサー個人のカメラワークで目の前の事象を追いかけます。自分の見たモノをどうしゃべるかという風にカメラワークまで自分で決めなければならない。反対にテレビは共同作業で、カメラマンが画を撮り、それにディレクターが乗っかってくる。アナウンサー主導でしゃべりながらそこにカメラも追いついてください、とサインを送る場合もあれば、ディレクターが考えて画割りをしたものに当てはめてしゃべる場合もある。その共同作業の中で磨かれたカメラワークは、ラジオでも生かせる場合がありますよね。「あ、このときは選手のこの表情を追った方がいいんだ」とか、「なるほど、こういう見せ方もあるか。じゃあこれもしゃべった方がいいかな」という具合に。

──じゃあ、もう両方できるのはいいこと尽くめですね。

土井 いや、悪いことなんて何もないと思いますね。あとは、なんだろうな……ラジオって、マスメディアの中でもパーソナルな部分がすごく強いメディアなんですね。1対1という感覚で。それに対してテレビは、不特定多数の方が見ている、という感覚になるんです。でも、忘れちゃいけないのは、ラジオの場合もやっぱりマスなんだ、ということをテレビをやることで思い出すことができるんです。パーソナルの部分を強くするとどうしても「面白さ」に走ってしまったり、野球中継であればコアな野球ファンに向けて、となりがちなんですけど、「いやいや、コアなファンばかりが聴いているわけじゃないぞ」というのをテレビでしゃべることで思い出すことができる。それも、テレビのメリットとしてはありますかねぇ。

──それが、TBSならではの強みであると。

土井 そういう意味では、一番バランスのよい育ち方ができるハズ、の局ですよね。



スポーツの実況は、イメージすれば「現在・過去・未来」


ハプニングや大変な経験も、笑顔とともに...

快活に語ってくれた土井アナウンサー。

「視聴率40%を境に景色が変わる」という話が非常に重く、印象深かった。

ハプニングや大変な経験も、笑顔とともに快活に語ってくれた土井アナウンサー。「視聴率40%を境に景色が変わる」という話が非常に重く、印象深かった。


──これまで、陸上や野球の話をお聞きしましたが、それ以外の競技で特に印象深かった試合はありますか?

土井 う〜〜ん、いっぱいあるなぁ(笑)。何にしますかねぇ……。印象に残った、試合。う……ん、そうですね、「数字を取る」ということの怖さと面白さというか、妙にそういうのは何度も経験しているんですよ。

──数字というのは、視聴率?

土井 はい。2006年、亀田興毅×ファン・ランダエタの王座決定戦をやった時に、40%を超えちゃうんですよ(※42.4%)。私たちの感覚では、亀田はずっと注目されているけれどあくまでボクシングの中の一試合、と思って中継したんですが、蓋をあけてみれば「何だこりゃ!」という数字で。また、その試合が判定だったので、そのこともなんやかんや言われることになるんですけども、普通にボクシングを話しているつもりだったのが、やたらと社会現象になっている、という戸惑いがあったんですね。

──実際、すぐに再戦も組まれましたよね。

土井 40%という数字は、本当に不特定多数の人が見ているってことなんですよ。好きな人だけが見たんじゃ絶対にいかない数字。そういう場合にどうしゃべるべきなのか、というのを学んだのがこの亀田興毅の試合だったんです。その後、亀田興毅が内藤大助と試合をすることになるんですが(※2009年11月29日・WBC世界フライ級タイトルマッチ)、この時は最初から予感がしたんですよ。これはまた40を超えるな、と(※43.1%。瞬間最高では51.3%)。数字を取ると局の人はみんな喜んでくれるわけですが、「これは大変なことになるぞ」というのが試合を決まった時からあって、「さあ、どうしゃべろう?」と。

──異様な盛り上がり方でした。

土井 当然、ボクシングファン以外の人も見ることは想定できるんですが、同時に、ボクシングファンじゃないけど、やたらとこの試合のいろんな情報を知っている、っていう前提も来るわけです。40%なんて、ポンとやってできる数字じゃないんですね。徐々に徐々に盛り上がって、TBS以外の局でも取り上げ、新聞・雑誌どこを見ても「亀田興毅・内藤大助」と書いてある。彼らのプロフィールもみんなほとんど知っている、という状況で試合が来るわけです。そこで出した結論が「もう一切やめた!」と。「もう描写しかない」と決めました。

──描写だけ?

土井 「彼らはこんな人間です」とか「こんなことを言っていました」とかはもういいや! と。この試合は40行くんだから、余計なことは一切言わず、目の前のことだけを描写しよう、と決めたんですね。その後、同じ状況が南アフリカでのワールドカップでもあったんですよ。準々決勝の日本の試合がパラグアイと決まって、私が担当になっていたので、これまたとんでもない数字になるだろうな、と。(※実際には平均57.3%、瞬間最高65%を記録。これはTBSにおける歴代最高視聴率になる)

──それはもう、間違いないですよね。

土井 もちろん、アナウンサーとしての今までの蓄積というものはありますけども、ほとんどの人が、事前段階での日本の活躍も知っているし、選手のインタビューもたぶん見ているだろうと。だから、全部捨てちゃったんですよ、「過去」を。

──過去?

土井 私が、普段心がけているスポーツの実況は、イメージすれば「現在・過去・未来」なんですね。「現在」っていうのは目の前で起きていることの描写。「過去」っていうのは今までに取材したこと、選手のプロフィール、試合や競技の歴史ですよね。「未来」っていうのは、この試合どうなりますか?という予測を解説者とともに導いていく作業。この3つが非常にバランス良く入るといい放送になる、と自分では思っているんです。

──現在・過去・未来……すごくよくわかります。

土井 でも、大きな試合になればなるほど、もう「過去」のことはみんな知っているんですよ。そう割り切って、もう徹底的に目の前のことを描写しよう! と思ってやったのが、亀田×内藤戦と、日本×パラグアイ戦なんです。この試合はもう「現在・過去・未来」だったら、「現在」しかしゃべってないくらいです。そして「未来」はもう解説の金田喜稔さんにお任せする。金田さんに「これ、こういう感じじゃないですか」とやってもらって、こっちはもう描写に徹底する。

──それは、実況アナウンサーとして、ものすごく重い経験ですよね。

土井 だって今見ている人にとっては、「今、どうなってるんだ?」「どんな展開になるんだ?」という、もうその微妙な「差」ですよね。それこそ、さっきも言った本当に細かい「差」を伝えた方が恐らく一番有益な情報になるんだろうな、と思って完全に振り切っちゃいました。前にそういう経験をしていたからなんですけど、変に気張って自分なりにいいフレーズを考えておいて、とか思っていると、逆に見ている人に迷惑で、むしろ足を引っ張るな、という予感がなんとなくしましたね。

──大舞台を経験してきたからこその判断ですよね。

土井 偶然なんですけどね。ホントに偶然、そういうのが何度か来ちゃったりしたんで、知り得たことなんですけどね。

──そんな大舞台も数多く経験してこられた土井さんが、これから目指すアナウンサー像はありますか?

土井 そうですねぇ。具体的に、こういうアナウンサー! っていうのはないんですけど、ずっとテーマにしているのは、細かいことを理屈っぽくしゃべるよりも、まず、観ている方・聴いてらっしゃる方の「心に響く実況」がしたいなぁとは思っています。それは何ですか? と言われると、その時その時の状況で何が一番いいかっていうのは変わってくるんですが……

──定型はないと。

土井 その状況におけるベストの選択をして、その結果が「心に響く実況」になればいいなぁっていうのはあります。それは、いつも思っていることなんですけども、なかなかね……心に響くっていうのはね、人それぞれ違うっていうことも百も承知なんですが、でも、いつかしたいと思うし、いつもそれをやろうと目指しているところです。

(了)



次号予告


後編も、TBSラジオブースからお送りしました。

後編も、TBSラジオブースからお送りしました。


視聴率が40%を超える。その時、実況アナウンサーは!?  いわば徒手空拳で大観衆に立ち向かおうという決意、選手たちのドラマの裏で、そんな苦悩、そして技術をつくしたギリギリの戦いが繰り広げられていたなんて! 実況ってかっこいい……非常に刺激的なインタビューとなりました。
さて次回(12/1更新予定)は加藤レイズナのターン。あのアーティストが登場します。女性ですよ(節穴ではめずらしい)

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