高山ふとんシネマ
第二十回 私の宝箱 その1「やかまし村の子どもたち」
 スウェーデンの小さな村で、チョコレート色の家々が、日なたにのびのびと足を投げ出すように並んでいる。道ばたではにわとりたちが順ぐりに鳴き、白い煙がえんとつからのぼっている。
 村の家族は3組だけ。7人の子供たちとその両親、おじいちゃんがひとりと、農作業のお手伝いさんがふたり。人はそれでぜんぶだけど、にわとりの他にも豚、馬、羊、猫、犬と、動物がたくさんいる。
 畑をするにも、収穫のお祝をするにも、村はずれの雑貨屋へおつかいに出かけるのも、3つの家族は長屋のように助け合い、喜びを分かち合ってつつましく暮らしている。
 夏休みがはじまる日、80才のおじいちゃんを囲んで、誕生日の記念写真を撮る場面。精いっぱいお洒落をして、みんな庭に集まった。昔のカメラだから、動かないようにじっとしてなくちゃならなくて、子供たちは吹き出しそう。夏の光がキラキラして、大人たちもみんな笑っている。
 そのはじまりのシーンを観ているだけで、涙が出てきた。
 この映画は、子供たちから見えた世界のことだけが描かれている。大人が登場していても、それは子供から見える大人たちのことで、人間の裏側にある湿ったもの、ずるさや裏切りや悲しみやセックスやら、ひとつも出てこない。
 春になると、毎年水びたしになる畑を駆けずりまわり、ワンピースの裾を洗濯物を絞るみたいにギューッとしながら、海賊船ごっこをしたり。大根畑の草とりを手伝っているうちに、コトバ遊びを発明したり。夜中にこっそり誘い合わせ、森の中へ妖精の子供を見にいったり。干し草を刈った日の夜は、子供たちで作ったサンドイッチと毛布を持って、納屋の中で寝てみたり。子供らはいつも裸足で、ヒーヒー笑い転げながら、じゃれあうようにして毎日遊んでいる。
 私はいつの間にか、自分の子供の頃を思い出している。
 近所の上級生たちと、イカダ遊びをして底なし沼に落ちたこと。友だちとゴザの上に寝っころがって、移りゆく雲の姿をいろいろに言い当てたこと。学校の帰り道、石でできたところだけしか歩いてはいけない決まりを作り、苦労して帰った日のこと。そういうひとつひとつの出来事が、かけがえがないとはまったく知らなかった頃のこと。
 夏休みの最後に、ザリガニとりに森の中の湖へ連れていってもらった夜、松の枝を集めた小屋で、主人公のリサだけが寝つけない場面。
         ブリッタとアンナは眠った。私はしばらく、木の葉の音を聴いていた。悲しいような、楽しいような、ヘンな感じ        
 蒼い夜、小屋の向こうでは大人たちがまだ焚き火をしている。耳がツーンとなるくらい静かで、フクロウの鳴き声と、火の粉がはじける音がする。
 そうだった。夏休みが終わってしまうように、同じ毎日はいつまでも続かないということ。孤独や、死ぬことを想う気持ちの種だって、子供の体の中にちゃんと備わっていたんだった。
映画の中のレシピ
「納屋で食べるサンドイッチ」
1. かまぼこ型のライ麦パンを薄く切り、バターをぬって、ハムをペロンとはさむ。
2. サンドイッチは1組ずつワックスペーパーで包む。
3. 夜中、毛布にくるまって、納屋の干し草の上で食べる。
作品紹介
『やかまし村の子どもたち』 監督・ラッセ・ハルストレム
高山なおみ プロフィール
1958年静岡県生まれ。レストランのシェフを経て料理家に。書籍、 雑誌、テレビなどを活動の場とし、料理だけでなく文筆家としての顔も持つ。著書に『高山なおみの料理』(メディアファクトリー)『じゃがいも料理』(集英社)、『たべる しゃべる』(情報センター出版局)、絵本『UN DEUX』(絵/渡邊良枝/リトルモア)、ブログの日記をまとめた『日々ごはん』、『野菜だより』、『おかずとご飯の本』(以上アノニマ・スタジオ)など。4月に『今日のおかず』、5月に『チクタク食卓・上巻』、8月に『日々ごはん(11)』(アノニマ・スタジオ)がそれぞれ刊行。『ホノカアボーイ』では、はじめて映画の料理を担当した。近著に『チクタク食卓 』上・下巻。4月には『十八番リレー』(NHK出版)が発売される予定。
http://www.fukuu.com/