清水さんご指摘の通り、一人旅好きの私。一人旅が好きというと、いかにも自分の意志をはっきり持った自立した人間のように思われることがありますが、それは違います。「何をどう間違えようと、自分が迷惑するだけでいい」からこその一人旅好きというところもおおいにありまして、つまり「ずっと責任回避していられるから」、一人での行動が好きなのです。

 しかし他人様を見る時は、単体よりも集団が好きなのでした。群舞とか集団行動、行進といった類を見ていると、ゾクゾクするほどの興奮に包まれ、時にはじーんと目頭が熱くなってくるほど。

 たとえばスポーツであれば、シンクロナイズドスイミング。あれはやっぱり、ソロやペアよりも、団体がいいですね。一斉に水中から脚が出てくるところなど、その揃い方の見事さに鼻血が出そうになります。新体操も、個人よりも団体が好き。スタイルの良いお嬢さん達が入場の時に並んでいるのを見比べて、その微妙な差異を確認するのもまたよし、と。

 北朝鮮のマスゲームも、あそこまで行くと気持ち悪いとも思いつつも興奮している自分がいます。あの統率のとれっぷりからは、渡り鳥の群れが方向転換するとか、ヌーが群れで川を渡るとか、その手の姿が想像され、「人間だからこそ、訓練如何によっていかなる集団行動も可能になる」と言うよりは、「人間も単なる動物に過ぎない」と思えてくるのでした。

 それは一昨年あたり、大好きな集団行動の掘出し映像は無いかとYou Tubeを見ていた時のことでした。その名もまさに「集団行動」という映像を、発見したのです。どうやらそれは、日体大の研究発表実演会というもので披露されるものらしいのですが、スーツ姿の何十人もの男子学生達が、体育館において号令に合わせ、一糸乱れぬ集団行動を披露するのです。次々とフォーメーションを変えたり行進したりと、見事と言うしかないその動きに、まずはうっとり見とれました。

 統制のとれた集団行動というのは、えてしてそこはかとない滑稽さとか可笑しみをはらんでいるものですが、日体大の集団行動の振り付けは、そのおかしみを逆手にとって、ユーモアの要素も含んでいる。「すばらしい!」と感動した私が、「他にもこの手のものはないかしら」と、右側に出てくる関連画像コーナーの中に発見したのが、「WORLD ORDER」というものだったのです。

 今でこそすっかり有名になり、コマーシャルにも出演している彼等ですが、当時はYouTube上においてのみ話題、という頃。その謎の映像を試しに見てみると、これがものすごい私好みではありませんか。スーツ姿の男性数名の中心にいるのは、どうやら須藤元気。彼等が披露するのが、これまた素敵なロボットダンスです。

 格闘技を引退したとは聞いていたが、今はこんなことをしていたとは須藤元気……と、ウィキペディアで情報を集めつつ、WORLD ORDER画像を見ているうちに、時はいつの間にか過ぎていきます。確かに格闘家時代の須藤元気の入場は派手でしたが、いつしか戦うことより入場の方が楽しくなっていたのですね。

 この衝撃は、私のような集団行動好きのみならず、格闘技好きとかダンス好きとの人々にも伝わったらしく、その後WORLD ORDERはどんどん人気者に。私も、ライブなどを見に行くようになりました。

 そして先日、とうとう開かれた武道館ライブ。センターステージを使ってスーツ姿の男性達が踊る、と言うよりは動く!

 彼等の動きを眺めつつ、「集団行動って、何て日本人向きなのだろうか」と、私は思っておりました。思い起こせば子供の頃、運動会の組み体操で、「山」とか「橋」とかの一部分となってじっとしている時、私は確かに快感を味わっていました。特に反抗心が強いわけでもない私は(なにせ名前も「順(したが)う子」)、「団体行動なんて、やってらんねー」とか「大勢で山を作るだなんて、ちゃんちゃら可笑しい。私は一人で山となる!」などということは決して思いませんでした。むしろ山の一部として存在することに達成感を覚えたし、山の一部となって、個性などというやっかいなものが吹っ飛んだ瞬間の孤独が気持ち良かったのです。

 北朝鮮でマスゲームをする人も、シンクロで脚を出す人も、自衛隊でパレードする人もそしてWORLD ORDERも、似たような快感を味わっているのではないかと、私は思います。集団行動は、見ている者のみならず動いている側からも、アドレナリンが出まくりなのではないか。

 そして我々日本人は、「和」を大切にする民族。みんな一緒に足並み揃えるという行為は、他の国の人々よりもうんと得意なのであり、一人一人の個性を生かすとかいうよりも、皆一緒に頑張ることによって、経済大国と化したはずです。「ステレオタイプな日本人サラリーマンの姿で統制の取れた動き」というWORLD ORDERの姿も、だからこそ我々の気持ちを刺激するのであるなぁ。

 ……なーんていうことを思って見上げる武道館の天井近くには、どんなイベントの時も必ず掲揚されている、日本国の国旗が。WORLD ORDERの動きとその旗は、見事なマッチングを見せていたのでした。

酒井順子

清水ミチコ
Shimizu Michiko

岐阜県生まれ。タレント。
新作ネタDVD『私という他人』、日記エッセイ『主婦と演芸』(幻冬舎)が発売中。

酒井順子
Sakai Junko

東京都生まれ。エッセイスト。
近著に『この年齢だった!』『下に見る人』『もう、忘れたの?』などがある。「週刊現代」「小説新潮」「別册文藝春秋」「週刊文春」などで、幅広く執筆中。近著に『泡沫日記』(集英社)、『そんなに、変わった?』(講談社)など。

Webマガジン幻冬舎 最新号 INDEXバックナンバー

Copyright © GENTOSHA INC. All rights reserved.
Webマガジン幻冬舎に掲載されている記事・写真の無断転載を禁じます。webmagazine@gentosha.co.jp