清水ミチコ様

「ウケたい」=「受け入れられたい」。

 なるほど……、と膝を打ちました。「ウケる」の「ウケ」とは、相手に受けとめられる、受け入れられるという「受け」だったのか。私が文章を書くのも、やっぱり「ウケ」たいからだしなぁ。

 私が「ウケ」の快感に目覚めたのも、中学くらいの頃。とはいえ話すことより書く方が得意なので、四コママンガとかクラス内の東スポみたいなものを書いて友達に見せていました。その手の作業がやがて仕事となったわけですが、しかし今、私は「知り合いに芸をご披露する」のがとても恥ずかしくなっています。すなわちメールを書くとか、フェイスブックに何か書くということが、恥ずかしくてたまらない。

 文を書くというのは自らの精神の暗部や恥部を見せる作業であり、つまり精神的なハダカを見せるようなもの。ストリッパー的な仕事です。

 ストリッパーの方々も、不特定多数のお客さんにハダカを見せるのは平気でも、特定の友人知人に披露するのは恥ずかしいのではないかと思うのですが、私の場合も同じ。不特定多数の皆さんに対してはどんな恥ずかしいことを書くのも平気でも、少数の知り合い相手に自分の心情を吐露するのは身悶えするほど恥ずかしいので、メールは事務連絡のような文章になりがち。FBも読むのは楽しいけれど、自分では書き込めないのです。

 先日、「清水ミチコのお楽しみ会2013 〜清水ミチコ物語〜」を拝見した私。もしかしたら清水さんも実は恥ずかしがり屋なのではないか。他人になりきることによって、そんなテレから逃れているのではないか。……などと思いつつ、大笑いしていました。恥ずかしさを乗り越えること、それもまた芸なのではないか、と。

 渋谷公会堂は、どっかんどっかんと大ウケの嵐に包まれていました。笑いの沸点が割と高めで、他人からは「無表情」などと指摘されがちな私ではありますが、清水さんのお楽しみ会の時は、可笑しさのあまり身体を二つに折り曲げて笑います。ここまで客が激しく「ウケ」るということは、清水さんがそれだけ「受け」いれられているということ。そして清水さんの芸が、それだけウケるということは、そこに極めて高い批評性があるからなのでしょう。

 モノマネとはすなわち、文章の世界で言うなら「評論」です。井上陽水、美輪明宏、ユーミソ……といった対象の優れた部分、特徴的な部分をすくいあげて、表現し直す。そこには賞賛、尊敬、批評が混じり合い、また別の作品となって私達の前に届けられることになります。

 モノマネを見る喜びは、秀逸な比喩表現を読む時の喜びとも、共通します。モノマネとは、当然ながら対象と似ていなくてはならないわけですが、「類似」とはすなわち、対象が描く曲線とシンクロする曲線を再現するということ。比喩表現もまた、「強めて表現したい」と書き手が思った事象が描く曲線と同じ曲線を描く別の事象を提示した時、「ぴったりシンクロしている!」という読み手の快感を引き出すことができる。

 モノマネの場合は、モノマネが描く曲線とモノマネ対象の曲線とが、完全にシンクロしていないことによって発生する「ウケ」も、あります。モノマネ演者が対象の特徴を強めるため、本来のカーブよりさらに大きくカーブを描いてみせたりする、その「はずし」がまた、元のカーブを知る者にとっては可笑しいのです。

 たとえば清水さんが、森山良子さんの「さとうきび畑」における「ザワワ」を「ズワワ」と歌う瞬間。桃井かおりさんが「おはだ」と言うところを「おはづぁ」と言う瞬間。私達は、元のカーブと、少し膨らんだカーブの差異に、爆笑する。

 この「はずし」の技法は、とても難しいのだと思います。極端に外しすぎても観客は鼻白むのであり、ギリギリいっぱいまで外側に膨らんでみせる、清水さんのそのはずしっぷりはまさに、人間にもともと備わっている「品」の為せる技。そこに品があるからこそ、はずし芸が「揶揄」にならないのです。

 モノマネされる主体の皆さんにも清水さんファンは多いようで、渋谷公会堂の客席には何人もの「主体」の方々がいらしていました。自分がモノマネされることに腹を立てる人も多い中、清水さんのモノマネが主体の方々にも好かれる理由の一つには、この「品の良さ」があげられるでしょう。そしてもう一つ、清水さんのモノマネが内包する批評性の切り口があまりに鋭敏であるため、切られている側も痛みなど感じず、むしろ「自分のことが理解されて嬉しい」と気持ち良く思うのではないでしょうか。

 アンコール前、矢野顕子さん&忌野清志郎さんの「ひとつだけ」が歌われた時は、シンクロ性と、主体に対して清水さんが抱く愛や尊敬とが極まって、清水さんの姿が次第に矢野顕子さんに見えてきた私。大笑いしながら平和な空気をたっぷり堪能したらお腹が空いたので、餃子をたっぷり食べてから帰ったのでした。

酒井順子

清水ミチコ
Shimizu Michiko

岐阜県生まれ。タレント。
新作ネタDVD『私という他人』、日記エッセイ『主婦と演芸』(幻冬舎)が発売中。

酒井順子
Sakai Junko

東京都生まれ。エッセイスト。
近著に『この年齢だった!』『下に見る人』『もう、忘れたの?』などがある。「週刊現代」「小説新潮」「別册文藝春秋」「週刊文春」などで、幅広く執筆中。近著に『泡沫日記』(集英社)、『そんなに、変わった?』(講談社)など。

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