清水ミチコ様

 沖縄、うらやましい〜。ズバリ言い当てるユタさんの話に、興味しんしんです。

 私は、ずいぶん前のことになりますが、恐山のイタコさんに会ったことがあります。女性誌の企画で、恐山へと行ったのです。

 イタコさん達は恐山に常駐しているわけでなく、恐山の大祭の時に、最も多くのイタコさんが集まるということ。駐車場のような場所に、イタコさん達のブースというか小屋が、並んでいます。

 初日は夕方に到着したので、「試しにちょっと」と、比較的空いているおばあさんのイタコさんに、口寄せをしてもらいました。かなり強い津軽弁だったのでほとんど聞き取れなかったのですが、一応私の父が「身体を大切にしろ」とか「こちらのことは心配するな」と言っている、ということだった気が。

 翌早朝、私達は再びその地へ行きました。ほとんどのイタコさんはおばあさんですが、中に一人若い女性がいて、その方が非常に良いという評判を聞いたのです。

 まだ暗いうちに行ったのですが、既に若いイタコさんのブースの前には長蛇の列。そして、一向に前には進みません。朝日がのぼり、やがてお昼になっても、ほとんど進んでいないのではないかと思われる。午後になり、夕方になってきた頃にいよいよ順番がやってきた! と勇んで前に進んだその時。

「申し訳ありませんが、今日はこれで終りにします」

 とイタコさん。もう、疲れてしまって体力的に限界であるので店じまいとする、ということなのです。

「そ、そこをなんとか!」

 と、編集者さんは食い下がりました。そりゃそうでしょう、八時間余も並んで、「イタコさんに断られました」では、ページになりません。

「一人でもいいので、お願いできませんか」

 としつこくお願いしますが、頑なに断られる。そのうちイタコさんは、

「あなた達、昨日は他のイタコさんのところにいらっしゃいましたよね。そういう方はちょっと……」

 ともおっしゃるのです。

 そこで我々は、やっと理解しました。イタコさんは身体が疲れたので終りにするわけではなく、我々の口寄せをしたくないのだ、ということを。

 考えてみれば、我々は仕事、というより物見遊山感覚でそこにいました。見た目も明らかに東京者といった集団です。対して列に並んでいる他の方々は、皆さん真剣でした。八時間並んでいるうちに前後の方々ともお話をしたのですが、急に配偶者を亡くされたり、まだ若いお子さんを亡くされたりして、藁にもすがる思いでそこに来ておられる。

「それに比べ我々は、存在感からして明らかにチャラチャラしている……」

 と、私達はしんみり。これ以上お願いするのも申し訳ないと、引き下がることにしたのです。

 しかしイタコさんに断られるというのも滅多にできない体験ではないか、それはそれで面白いページになるのでは? などと話しながら夕食を食べ、ホテルに戻ってきた我々。すると入り口でばったり会ったのは、行列で私達の後ろに並んでいた、お子さんを亡くされた女性。「今日はこれで終り」となった時、泣きそうな顔をされていた方です。

 彼女と話すと、何とあの後、イタコさんが戻ってきてまた口寄せを再開されたというではありませんか。女性は口寄せを聞いて納得するところがおおいにあったのでしょう、とてもすっきりした笑顔を浮かべています。

「よかったよかった! 後ろの皆さんにもご迷惑をかけてしまって、心苦しかったんです」

 と我々は言ったわけですが、さらにその後で「やっぱり、我々のことが嫌だったのねぇ」との自覚を深めたのでした。

 長い行列の中、どす黒く立ち上る我々の邪心がイタコさんには見えたのであるなぁ、とその夜はしみじみ考えていた私。あちらの世界とこちらの世界をつなぐイタコさんには、我々の卑俗な目論みなど、お見通しだったのでしょう。

 清水さんのユタさんのお話を読んで、そんなことを久しぶりに思い出したわけですが、しかし考えてみると、イタコさんもユタさんもまた、芸能者なのかもしれませんね。現実社会に生きる人を、芸やら能やらを見せることによって非現実的ワールドに連れていき、笑ったり泣いたりさせて報酬を得るのが芸能者。だとすればイタコさんも、何やらお念仏のようなものを唱えるし、あちら側の世界を見せることによって目の前の人を泣き笑いさせるしと、まさに芸能者ではありませんか。

 歌や踊り、そして日本では相撲なども、その昔は神様に捧げるものであったわけで、それをだんだん単に楽しむためだけに人が観賞するようになってきたのでしょう。私達は、舞台の上にいる人の素晴らしい歌や踊り、演奏や演技、そしてモノマネに接することによって、しばし現実を忘れ、別世界に行く。

 素晴らしい芸能を見た後は、心がとてもスカーっとするものです。それはおそらく、心がしばらく別世界に飛んでいたせい。現実世界から足抜けし、新鮮な空気が心に注入されたから、スカーっとするのではないでしょうか。ユタさんとの邂逅の後、きっと清水さん達もさぞやスカーっとしておられたのではないかと推察する私。で、恐山の帰り道は……、やっぱりそれほどでもなかったです、はい。

酒井順子

清水ミチコ
Shimizu Michiko

岐阜県生まれ。タレント。
新作ネタDVD『私という他人』、日記エッセイ『主婦と演芸』(幻冬舎)が発売中。

酒井順子
Sakai Junko

東京都生まれ。エッセイスト。
近著に『この年齢だった!』『下に見る人』『もう、忘れたの?』などがある。「週刊現代」「小説新潮」「別册文藝春秋」「週刊文春」などで、幅広く執筆中。近著に『泡沫日記』(集英社)、『そんなに、変わった?』(講談社)など。

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