占い好きな私ですらビビッて考えないようにしているという、青森・恐山にすでに出向かれていたとは、酒井順子恐るべし。

 連載など拝読していてもそうですが、意外とよく外へ出かけられるお仕事でもあるのですね。

 お見受けするところ、酒井さんはインドアな性分だからこそ、そういった取材を受けてでも外へ出なければ、というところもあるのかな、なんて。

 先日、とある男性芸人とラジオでしゃべっていたのですが、都会育ちの人間というものほど、こちらがわ(地方出身者)から見ると、びっくりするほど外へ出歩かない。ヨソに興味がないままでいられる。

 中学の頃、私は武蔵野に住んでた伯母と文通をしてたのですが、ある日、こんな言葉が書いてありました。

「もうすぐミッちゃんの誕生日だから、何でも買ってそっちに送ってあげる。」

 狂喜乱舞。私はさっそく、こう返事を書いて送りました。

「ありがとう! それでは、渋谷と原宿のあいだ辺りにある『文化屋雑貨店』←(当時雑誌などで注目されてたショップでした)で、何でもいいので雑貨を買ってほしいです。」

 私の予想では、伯母から雑貨と一緒にきっとこんな返事が来るのではないか。

(ミッちゃん、飛騨高山に住みながら、よくあんな通りに文化屋雑貨店があるなんて知ってましたね。確かにステキなお店だったわ。買い物してても楽しかった。)

 そう信じてたのでした。

 そうしたら現実には、

「申し訳ないんだけれど、私は渋谷なんてそんな都会には遠くて出られません。お店の名前ではなく、欲しい物の名前を書いてね。」

 ガッカリしました。

(同じ東京なんだから、すぐじゃないか。なぜかわいい姪のためにちょっと出かけられないのだ!)

 そんな私の的外れな怒りに、伯母の妹である母は、「あんたね、東京は広いのよ」と、ケタケタ笑っておりました。

 ドラマ「あまちゃん」にも、アイドルを切望するユイちゃんという女の子が、地図でも書けるほど詳しく東京の事を思ってた、というシーンがあるのですが、その気持ちは当時の自分のようでした。

 ただし、私は地図は頭に持ってても、雑誌の文字でしか知らなかったので、ずっと「原宿」を「ゲンジュク」だと思い込んでいたのが、今となれば悲哀をもたらす思い出です。

 クラスの数人の友達に爆笑され、「マジでか? あれでハラジュクって読むのか?」と、驚きつつもめっちゃ恥ずかしく、(早くこの笑いよ去れ!)と祈ってました。

 ネット通販で何でも買える今や、(東京にあるあの店のアレが欲しい)、(これが食べたい)、などという熱望はだんだん希薄になってしまっているのでしょうか。

 都会どころか、私の世代には夢の「海外留学」ですら、「ケータイもいじれない、アニメもない生活なんて絶対ヤダ!」などと言って断る、なんて話を聞くと、欲望の世代交代というものを実感します。

 ところで、私がまだテレビにも出てない二十代、渋谷ジァンジァンでの初ステージに、当時そのライブハウスの経営者と仲の良かった永六輔さんが偶然観に来てくれ、「あなたは、素人くさい。もっと場数を踏んだ方がいい。」とアドバイスをくださり、ジァンジァンだけでなく、さまざまなライブのゲスト枠に「この人どう?」となどと声をかけてくださいました。

 都会人はともかく、江戸っ子は情に厚いというのは本当なんだなあ、とカンゲキしました。

 当時、飛騨高山での公演も多くなさっていた永さんは、私の実家のジャズ喫茶にもいらしてくださった事があったらしいです。

 そのうち、その高山での公演のゲストとして、逆に私を招待してくれたことまでありました。

 なかなかできない事で、恐縮しました。

(私ももっと大人になってキャリアを積んだら、いつかはこうやって、これからという若者に声をかけて応援してあげることにしよう)

 と思ってたのですが、現実的にはいまだに一人として声もかけていません。

 日々、自分の事で手一杯です。

 せめて新人のライブを観る、というのも正直おっくう。というか、無名の者に声をかけて、時に叱りながらも明るい方向へ背中を押してはサッと立ち去る、といった大ジンブツなど、この業界にはもういないのかもしれません。

 こちらはネット社会が変えた、というよりも、江戸っ子に照れくささをともなったやさしさや情があるがゆえに、個人情報やプライバシーをやたら重んじる空気に口も出しにくくなり、押し黙り、少しずつ消えゆく、という気がしてなりません。

 いつか、酒井さんと対談したときに、

「酒井さんもそうですが、黒柳徹子さん、松任谷由実さん、矢野顕子さんなど、東京生まれの女性は、アキラメが早いのが特徴のような気がします」

 などと言ったのを覚えているのですが、物事にぶつかったらすぐに、

「そりゃ、しょーがないじゃない」

 つってカラッと次に行く、ってな姿も憧れてなりません。

 しがみつかないあのカンジ。

 江戸っ子・女性版には長生きしそうな男っぽさを感じているのでした。

清水ミチコ

清水ミチコ
Shimizu Michiko

岐阜県生まれ。タレント。
新作ネタDVD『私という他人』、日記エッセイ『主婦と演芸』(幻冬舎)が発売中。

酒井順子
Sakai Junko

東京都生まれ。エッセイスト。
近著に『この年齢だった!』『下に見る人』『もう、忘れたの?』などがある。「週刊現代」「小説新潮」「別册文藝春秋」「週刊文春」などで、幅広く執筆中。近著に『泡沫日記』(集英社)、『そんなに、変わった?』(講談社)など。

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