すっかり秋らしくなってきました。酒井さんの書かれた文章にも、梨のようにみずみずしい、秋風のような涼やかさが感じられました。

 特にサラリと書かれた、「最初で最後の体験」という一行。

 え、あの世界にハマらなかったの? でした。

 待って! サッパリしないで! どう考えてもあきらめが早すぎます。

「千と千尋の神隠し」はせめて観て欲しい。「となりのトトロ」に影響された、私の北林谷栄さんのモノマネの出来栄えをもっとわかって欲しい。

「風立ちぬ」ならぬ「風が吹けば桶屋が……」という私など、主題歌「ひこうき雲」のヒットのおかげで、今年は仕事が増えている最中なのであります。もう3回は歌いました。

 歴史にはまったく疎い私なのですが、あの映画を観てから、堀越二郎さんについてのNHKのドキュメンタリーにすらハマリました。

 一緒に夢を追えました。

 というのは冗談にしても、そういえば夢を本当に追いかけてる人ってなかなかいないもんだ、という事に気がつきました。

 これがまた、「花とゆめ」ならぬ「欲と夢」ってのが似すぎててわからなくなる時があります。

 世欲こそあれど、いわゆる自分の夢など、本当は「ない」というのが普通の人っぽくないでしょうか。あるいは「錯覚」とか。

 まわりにも、お、コイツは夢があるんじゃない? という人間はいません。

 だいたいどなたも人生、目の前に立ちはだかるドキュメンタリーでいっぱいいっぱいだと言いますか。

 小学生時代から「あなたの夢は?」などという質問をしょっちゅうされて育った私も、一生懸命に捻出してきた、描いてみた、書きだしてきた、きれいな嘘をついて来た、のが本音。

 今もお正月になると「今年はどういう一年にしたいですか?」と聞かれ、「そうですね、今年こそは、えーと、」などと、年始からお餅の前で適当な嘘をついてしまっているのでした。

 こないだテレビを観てたら、あるタレントさんがこう言ってました。

「私、ブログとか、エッセイの中で本音を書けた事が一度もないの。でも、作詞の中では本音を出せるんですよねえ〜」

 こうなると、ちっとは夢を持たんかい、とつっこみたくなってきます。

 女の方が、夢はイメージしにくいかもしれませんね。「いつか社長に」など本音で聞いた事がありません。

 いつか「歌詞は大嘘つき、エッセイは小嘘つき」と阿木耀子さんが書いておられました。

 なんと涼しいお言葉……。

 スパーン。

 そういえば、宮崎駿監督が引退表明をなさいましたね。

 その日は、たまたま三谷幸喜さんとのラジオの収録がありました。

「清水さんはいつ引退するの?」と、口の悪い三谷さんに聞かれたのですが。

「ありえないのよ……」と答えました。

 念のため、誤解のないように言っておきますが、(やめないゾ)表明ではありません。

「引退します」という宣言は、もはや昔の大物だけができていたものなのです。

 引退会見、って確かにありましたよね。

 しかし、実際は、だんだん仕事が減っていくものなのです。

 あれ、おかしいな、と思ってるうちに、どんどん居場所がなくなっている。

 それが今のタレントの悲しさ。

 引退表明ができるという事はよほどの大物である、という証なのです。ですから、引退表明こそが私の夢、といってもおかしくないかもしれません。

 そういえば、離婚会見、なんてものまで昔はありました。なんでしなきゃいけないんだろう? なんて誰も思ってもいませんでした。

 離婚したらするものなんだろう、みたいな風潮がありましたよね。

 ついでに、昔の海老名美どりさんの会見も印象的でした。

 自宅で会見を開き、たくさんの記者が集まり、何かと思ったら、「これから作家になります」という発言。

 ビッグアップル殺人事件という小説を出す、とのことで。

 なーんだ宣伝、みたいな。

 笑いました。

 大人が本当にコケた、コケるんだな、という瞬間をナマで見た思いでした。

 あれをきっかけに、なんだか記者会見そのものが減っていったような気がします。

清水ミチコ

清水ミチコ
Shimizu Michiko

岐阜県生まれ。タレント。
新作ネタDVD『私という他人』、日記エッセイ『主婦と演芸』(幻冬舎)が発売中。

酒井順子
Sakai Junko

東京都生まれ。エッセイスト。
近著に『この年齢だった!』『下に見る人』『もう、忘れたの?』などがある。「週刊現代」「小説新潮」「別册文藝春秋」「週刊文春」などで、幅広く執筆中。近著に『泡沫日記』(集英社)、『そんなに、変わった?』(講談社)など。

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