寒さつのる昨今、酒井さんはお元気ですかな。

 私は先日、「12月30日に武道館で出たキャンセルの、代打を頼む」との依頼を受けました。

 年末は忙しくなりそうです。

 単独の公演ではなく、たくさんのミュージシャンや芸人を集めた、フェスに近いものにしようと思い、先日までに色んな方に声をかけてきました。同時に、(ここではこのバンドに出てもらって〜、ここはこの方で〜、映像はこう作って〜)など、仕切ることの楽しさを覚えました。

 中には「その日は別のフェスに出てます」、とか「紅白があるかも知れず、遠慮しておきます」、という方もおられ、残念に思いつつも、なるほど、年末の12月ほど、芸能ごとが向いてる月はないのかもしれない、と思ったほどです。 

 水商売もなんとなく、「年末=かきいれ時」な風情がありますし。

 一年が終わってしまう時だからこそ、パーッとハデにやろうよ! という心情になるものなのかもしれません。12月の日本の行事にこれといった祭りはないようでいて、街にはお祭りみたいな熱がずうっとありますもんね。

 年忘れ、忘年会、という言葉はなにも一年を忘れたいワケじゃない。

 ふいに訪れる哀しみがコワい。

 急に変わってやってくる新年もなんかちょっと不安じゃん。一瞬の華やかさに逃れたい、忘れたいの。と、古代からのDNAがまだ消えずに残っているのではないか、と、そんな風に感じるのでした。

 さて、私はステージとしての武道館にはまだ一度も立ったことがないのですが、先日は観客として、武道館そのものを見に行ってきました(もちろんステージもちゃんと観ましたけど)。

 何かやっぱり「磁場」「気」のようなものを強く感じる場所でした。

 自分がお客さんだったら、こういうものが見たいかなあ、など、思いは膨らみつつ、どこか遊びの延長のようにこの大きな会場をながめられているのも、私が「目標にしてきて、やっと!」と手にした公演ではないからでしょう。

「頼まれたから」という(やれやれしょうがないねえ)という親切心が根っこにあるからだと思われます。

 数十年前のいつだったかも、ある女優さんが急きょコンサートの本番で歌えなくなった事がありました。

 イベンターさんから「なんとかなりませんか?」と、突然頼まれたのですが、その時に立った自分も忘れられません。本当に緊張などありえず、むしろ楽しみながら舞台に立てたのです。

 あくびをこらえたくらいです。

 それはウソにしても、(自分はいま、代理なのだ)という、責任感の軽さ、安心感ほど、出演者への良薬はないと言えるでしょう。と同時に、人って、イタズラに責任を抱えてしまうもんなんだな〜、とも思いました。

 やってることは同じみたいなもんなのに、(私がちゃんとしなくては)と、責任を感じるやいなや、ガチガチになる。なのに、(手助けなんですう〜)と思うと、そのステージはうって変わって気楽になり、かつ自由を身にまとえる。

 酒井さんの世界はどうでしょうか。

「急きょ病気で」「右手骨折で」「息子が逮捕されて」酒井さんに代筆を、なんて頼まれることはなかなかなさそうですが。

 たとえば文豪たちが締め切りギリギリまで焦らすという行為。

 彼らは書けなかったのではなく、あえて(でも知らず知らず)ギリギリまで伸ばしていたのではないか。

「仕事を受けた以上、書いてもらいます」という危機迫る義務感など、もうアキアキというところにまできている。そこへ、「私の顔が立ちません! 妻子もあるのです、私の人生がかかってるんです!」という編集者の懇願。それを聞いて立ち上がりながら、「しょうがないねえ、まったく」となどと言うのではないかと。

 すみません。ウソです。そんなワケはないか。

 でも私だったら、有能なマネージャーに、できるだけこういう嘘をついてほしいです。ヘタでもいいです。

「急きょ、ピンチヒッターで」

 ともあれ、こうやって「武道館」というお祭りを仕切っていると、なかなか面白く、(ああ自分は将来、もしかしたらこういう裏方での構成、演出にシフトして行けるのかも知れない)なんて思えてくるのでした。

 ただ、「困ってるんです。急きょピンチヒッターで」などと言われたら、結局いくつになっても舞台に出るのでしょう。

 腕まくり。

 さて、今回の出演者の中で、一番盛り上がるのはグループ魂では、と私は見てます。

 実は彼らだけは当日、数万人のフェスから移動して、リハなしで急きょ武道館に出て演奏してくれるのです。

 私から懇願され、仕方なく断れず、でもあるので、そのしょうがないねえ感の実力たるや、ミモノだと思います。

(ミモノとケンブツって同じ見物って漢字なんですね)

 いっそ彼らにはノーギャラでいいんじゃないか、と思っています。

清水ミチコ

清水ミチコ
Shimizu Michiko

岐阜県生まれ。タレント。
新作ネタDVD『私という他人』、日記エッセイ『主婦と演芸』(幻冬舎)が発売中。

酒井順子
Sakai Junko

東京都生まれ。エッセイスト。
近著に『この年齢だった!』『下に見る人』『もう、忘れたの?』などがある。「週刊現代」「小説新潮」「別册文藝春秋」「週刊文春」などで、幅広く執筆中。近著に『泡沫日記』(集英社)、『そんなに、変わった?』(講談社)など。

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