『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
若い女に負けないところ
 つい先日のお話です。
 お客様で、某有名企業の役員さんから、
「近々、うちの会社が買収にあってしまうんだよ」と聞かされました。
 買収されても、社員のほとんどはそのまま勤務するとのこと。ところが、会社の内部で旧体制VS新体制のような派閥が出来ていて、どうやら旧派閥は退陣に追い込まれるらしいのです。
 そのお客様は旧派閥だったため、今回の買収にあたり、もうすぐ辞表をお出しになるとのことです。
 アフターで、ママと私にその経緯をしみじみと語られて、入社されてからのことを振り返られてました。これからの仕事のこととか、家庭に心配をかけないようにしなくちゃとか、取り留めのない不安をいっぱい抱えている様子。
 いつも強気な姿勢を保っている方なので、そんなふうにお話されたことは意外でした。しかも、だいぶ前から分かっていたことだったというからビックリ。そんな素振りは少しもお見せにならなかったのです。
 実は、私達ホステスはこういう場面によく遭遇するんですね。今、日本の経済は物凄いスピードで変わっているので、終身雇用などの安心感って大手の企業の社員にもなくなっちゃってるんだ、ということを間近に見せつけられる。
 今のビジネスマンは本当に大変だなって思います。
 しかし、銀座のホステスだって男の中の男!
 銀座のクラブは、実は男社会なのだと前回に少しだけ書きました。男性が悩まれている姿を見るのは苦しくなりますが、実は、私達ホステスこそ、安泰とは無縁な人生なんだった。
 ホステスは売り掛け金など、契約によってあらゆる責任やピンチを背負いながら、人気を維持していかなければならない。クラブの中で個人商店を開いているようなものです。芸能人やスポーツ選手、政治家など、一見羨ましい職業の方達もそうで、明日はなにが起こるか分からない。
 世の中いつどうなってしまうか分からない、自分はこの先どうなっていくんだろう……仕事人は皆、不安を抱えて生きている。
 で、いつも何となく自律神経失調気味。僭越ながら、ホステスしてる私にも、その心の痛みはよく分かってしまうわけなのです。
 では、どうやって克服していくのか。
 この不安な気持ちのやり場はどこに?
 日頃、孤独に戦っている自分が、ドボンッと、さらなる孤独に追いやられた時、やっぱり話せる仲間がいると癒されるんですよねぇ。
 悩みを打ち明けるって、とても勇気がいることだけど、聞かされた時は結構嬉しかったりして。じゃあ、私も聞いてもらいたいことがあるのって、たちまち心の友を見つけたような気分になるのです。
 それにホステスはいつも何気に第三者の立場なので、何を話しても害はない。お客様のことに関しては口が堅いし、さらに、ホステスはあらゆるピンチを潜り抜けているため、肝も据わっているときている。
 大抵のことじゃビビリません。
 それに似たようなことが前にあった! と傾向と対策まで提供する勢いで、ま、話しやすい相手なのだと思います。
 仕事や生活を共にしていると、本当に大切な人には話せないってことありますよね?
 私も、親には心配かけたくないから、それに話しても始まんないよと、お客様に相談にのってもらうことがよくあります。
 そんな時は、銀座のクラブに集まった人達が“疑似家族”みたいに感じられて、なんだかすごく嬉しくなるのです。
 弱い部分を見せ合うことが出来る、ちょっと現実から離れた人間関係や空間に豊かなものを感じたりして。一見、悩みなんてなさそうに見えても、弱い部分って、誰にでもあるんですよね。

 そのお客様は最初、もう駄目かも知れない、もう俺は駄目だ、と言いながら買収のお話をされていたのですが、後では、
「俺、がんばるから、がんばるから」とちょっとやる気が出た様子。
「もう、銀座に来られなくなっちゃうかもしれないよ……」って言うと、ママが、
「その時にはどこかで待ち合わせして、皆で飲みましょう。割り勘で〜」なんて。
 銀座のママって、こうゆう部分が素敵なんですよね。
 一緒に過した時間を、一生忘れないっていうか、皆、思いやりがある。人生経験が豊富だからこその温かさみたいなものが感じられるのです。
 実際、男性も偉い方ほど優しい方が多い気がするのですが、仕事に対して厳しいからこそ、人の心の痛みや感謝の気持ちを忘れてないんでしょう。
 そんな方達がよく言われるのが“成長のチャンスは不調に有り。好調な時ほど失敗の種を蒔く”という言葉。
 順調続きだと周りが見えなくなって、ついつい人の気持ちに鈍感になってしまう、そこが一番よくないのだ、と。
 それは、些細なことから起こりうる。
 考えてみればこんな私なんかにも言えるのです。
 たまたま同伴などのお誘いがバンバン入って、ついつい感謝の気持ちを忘れていると、翌月全然お誘いがないっ、お店にも来てくれないよっ! なんてことになります。
 良いことって本当にたまたまだったりするけれど、駄目なことって何かしらの原因があるもんです。周りに聞くと、「最近偉そうだから」とか、「黙っていようと思ったけど、この前のアレは失礼だよ」とか、やっぱり何だかやばいことしてたみたい。
 でも、反省する余地があるだけまだマシ?
 これは成長のチャンスなの?
 ピンチや失敗は克服してみると、まさに良い経験なんですね。なんだかひとまわりもふたまわりも大きくなれた気分。
 人の心は正直なもんです。何かの縁で知り合った人とは、一生お付き合いができるような、そんな情の深い人間になりたい。
 銀座のママ達が何十年もの間、ずっと人気を保っている秘訣はそんな信頼感にあるのかもしれません。
 私も、そんな風に歳を重ねていけたら……若いコなんかにゃ負けないぞっ、と言ってしまうところが、まだ若い!
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/