『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
焦りは禁物
 いよいよ今年も十二月になってしまいました。十二月といえば忘年会のシーズンであり、銀座のクラブにとっては一番の稼ぎ時。その上、クリスマスパーティもある。
 昨年のクリスマスイブはお店で迎えたっけ。ホワイトクリスマスと称して、ホステス全員が白いドレスに身を包んだんだったなぁ。皆、普通の日では恥ずかしくて着れないような豪華バージョンで、まるで花嫁のようになっていた。勿論、わたしもそうだった。今年もあのドレスで誤魔化したい。だって、あれから一度も着る機会がないんだもの。でも、誰かが憶えているだろうか。
 と、思っていたら今年のクリスマスイブはナント、土曜日ではないか。それはそれでとっても困る。わたしは実家に住んでいる。いい年こいて、そんな大切な日にお家にいたら、うちの親が心配するのではないか。よし、今から男を見つけるとしよう。
 と言っても、わたしの平日の夜は殆ど銀座で埋まっている。銀座のクラブには毎晩、男がわんさかやってくるけど、本命に出会うのはなかなかムズカシイということはいい加減わたしにも分かってきた。男と女が向き合って、お酒が入って、お金が飛び交う銀座の夜は本性が露になりやすいからね。
 いや、わたしはいつの間にかすっかり諦めていたのかも知れない。もう、探そうともしていなかったような気がする。
 こんなことがあった。いきなりちょっと素敵な男性が現れたのだ。
 その男性とは、今、流行のIT社長でバツイチ。若い頃の加山雄三にちょっと似ているので、わたしが若大将とおだててみたら、まんまと喜ぶカワユイ人だ。話しているうちに、馬主であることが分かった瞬間、わたしの周りに天使が舞い降りてくる。若大将もわたしをえらく気に入った様子で、アフターでは、
「俺はお前にディープインパクト(←三冠王の名馬の名前)!」
 と叫んだ。わたしは全身が凍りついたが、しばらくするとその霜焼けは熱をもち始めたようだった。さ、さすが馬主……。
 出会いの日から、初めての休日、ディナーに誘われた。わたしは休日に銀座のお客に付き合うということはまずしていない。けどね、若大将はわたしのダーリンになる人かも知れない。クリスマスイブを過ごす人かも知れないのよ。
 待ち合わせは若大将が好きだという新宿のホテルの中華レストランになった。
 今夜は美容に効果的なものを食べよう。フカヒレにツバメの巣。あと北京ダック! ……ってこれはタダ好きなだけ。
 そんなことを考えながら、いつになく緊張気味で席まで辿り着くわたし。
 こんばんは、とニッコリ微笑みを交わすとウェイターがオーダーを聞きにきた。メニューを指差しながら、あれこれと注文をし始める若大将。
 えっ? わたしに選択権はないのか。
 ふつうは「何、食べたい?」とか、「○○嫌いじゃない?」とかあるハズなのに。おかしいな。メニューがパタンと閉じられ、ウェイターが去っていってしまうではないか。
 オイ! 何、頼んだんだよ。美容にいいもの食べられるのか? もしかしてこの人、ノリが違うんじゃ……いやいや、若大将だけあって男らしいのよね、きっと。俺についてこいタイプ? だったらそれは素敵なことよ。だけど、北京ダックとは言っていなかったような……。
「先日はとても楽しかったです。すぐに誘っていただけるなんて嬉しいですわ。オホホホホ〜」
「だから俺はお前にディープインパクトやで」
 やで? 今、“やで”って言った?
 何分経ったのかは分からない。キョトンとしていると一品目がやってきた。
 麻婆豆腐。
 マ、マーボ……。キョトンが延長。
 追いかぶさるように二品目がやってきた。
 野菜炒め。
 や、野菜炒め? キョトンは果てしなく続く。
 そこで若大将はわたしに聞く。
「つゆそばとチャーハンどっちにするか?」
 えっ? もう主食ですかい、若大将。
「ど、どちらでも……」
「杏仁豆腐食べるか?」
 えっ? 一気にオーダーする気ですかい、若大将。
「俺、明日、ものすごい早いんだ。でもな、どうしても今夜、お前が抱かれたいっていうなら、抱いてやってもいいぞ、どうする?」
 クっ。こぉのぉヤーロー!
 べつに心底、豪勢なディナーが食べたいってわけじゃないよ、わたし。だけど、今夜は初めてのディナーだよ。ムードっつーもんはどこいった。
 ちょっとした見た目と馬主という響きに釣られたわたしがバカだった。クリスマスを目前についつい焦ったのがいけなかった。ホントは、寒い口説き文句を言った時点でオカシイことには気付いていたんだ、わたし。目を瞑るんじゃなかった。早くお家に帰りたいよ、おっかさーん。
 お家を出てから新宿までタクシーを拾い、ディナーをして、帰りは力もなくタクシーを拾って家まで帰った。所要時間は一時間半弱。こんなデートのためにタクシー代を七千円も使ってしまった。ケチな男を相手にすると、ケチな思いが湧き上がる。
 しかしこんな短く幕を閉じた恋は初めてかも知れない。いや、これは恋じゃなかった。焦りは禁物だということが身にしみて分かった。ガックリ疲れて、もう男を探す気にもなれなくなってしまったではないか。
 だけど、寂しさだけは倍にふくれあがった気がする。
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/