『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
桜の花のような新人から学ぶこと
 三月に入るなり、銀座のクラブは春も真っ盛りといったムードに包まれている。早くも店内には満開に咲き誇った桜が生けられているのです。その美しい姿を眺めていると、夜の銀座は都内で一番早くて快適な花見所なのではないか、この世界に入って良かったなぁ、なんて思えてくるのであります。
 春の花と言えばもう一つ。
 最近、うちのクラブには、若いつぼみのような新人のホステスが続々と入ってきている。その姿はとっても初々しい。桜と可愛い女のコ達を眺めながらお酒を飲むっていうのは実に気分が良いもんだ。
 でも、ちょっと待てよ。この中にいると、私の古株度は一段と際立つように思えてならないのだけど、気のせいか。私はいつまでもここにいて良いんだろうか、なんて不安が過ったりもする。あまり考えると悪酔いするので、私は馴染みのお客サマに聞いてみることにした。
 するとね、
「ダイジョーブっ。知った顔がいなくなると寂しいよ。それに長い人間がいないと、下が育たないだろう」だって。
 そっか。ならば良かった。でも、やっぱり待てよ。私だって、銀座に入ってからまだ一年半なのよ。かなり慣れてきたとはいえ、私だってまだ若輩者に違いない。大人になると、女の月日は男の三倍速の早さで流れているような気がするから恐ろしい。いつまでも初々しくあることは大切だ。せっかくなので、私は新人に混じって、今一度気持ちを引き締めてみることにした。
 まず、初心忘れるべからず、と思った私は、新人のコから持ちかけられる相談ごとには真剣に耳を傾けてみた。最近のコは何を考えているんだろうか。聞いてみると、たちまち懐かしい響きが木霊する。例えば、
「お客サマから休日にお誘いを受けたんですけど、どうすれば良いですか?」とか、
「口説かれていて困ってるんですけど、露骨には断れなくて...」とかね。
 ホステスの誰もがぶち当たる壁であり、私も初めの頃は真剣に悩んでたっけな。だけど、今となってはどうやって乗り越えたのかさえも忘れてしまった私からは、参考になるような答えは出てこない。しばらく考えながらも結局は
「どうしても困ったら、ママに相談すると良いよ」の一言で締めくくる。
 頼りなくてごめんなさい。でもね、それは言葉で説明しても仕方のないことなのです。自分でその都度、試行錯誤をするからこそ、ピンチは減っていくもの。人間、慣れだね。
 しかし私は、そんな自分の態度を思わず反省するような、ある素朴な質問に出会ったのであります。
「れみ、来週の水曜日空いてるか。たまには飯でも食おう」と、馴染みのお客サマが同伴のお食事に誘ってくれた時のこと。
 その時、同じテーブルには新人ホステス、まりあがヘルプに付いておりました。
「わぁ、嬉しい。空いてます。あ、ねぇ、まりあちゃん、まだ同伴の経験がないから一緒に行ってもいいかしら」
 どうだ、私は優しい先輩だろ?
「おぅ、そうか。初めてか。勿論、いいよ。何、食うか」
 ちらりと見ると、まりあは無表情のままで黙りこくっている。最初の同伴というのはホステスにとってなかなかきっかけがつかみにくい。本来ならば飛び上がるほど嬉しいはずだが、意味が分かっていないのカナ。緊張しているのだろうか。
「まりあちゃん、良かったじゃない。美味しいところに連れて行ってもらいましょうよ」
 思わずハッパをかけてみるが、まりあは相変わらず、お客サマと私の目を交互に見つめると、じっと黙ったままだ。
「ん? どうした。俺とじゃ嫌か」
 とうとうお客サマが心配そうに言葉を掛けると、まりあはようやく口を開いた。
「あ、あのぉ...そのお食事の時は、どのくらいお金を持って行けば大丈夫なんでしょうか」
 エエッ?! 割り勘のつもりなのか。
 お客サマは一瞬息を飲み、私と目を合わせると、大声で笑い始める。
「君、まりあちゃんって言うのか。カッワイイなぁ。食事に金はかからないよ。お財布置いてきなさい。美味しい物をいっぱいご馳走してあげるからね。おい、れみ、普段行けないようなところに彼女を連れていってあげようじゃないか。お前、考えておいてくれよ」
「え、本当に良いんですか。なんだか、ご馳走になるなんて...」
 まりあは花が咲いたような笑顔を浮かべている。
「勿論、良いんだよ。れみもね、最初は可愛いかったんだぞぉ。食事に連れて行くと、美味しい、美味しい、本当にありがとうございますってね。今では奢ってもらって当然みたいな態度だけどなぁ。男はね、女のコが喜んで食べてくれるのを見るのが幸せなんだよ。れみ、聞こえてるか」
 うっ、は、はい。私だって本当は感謝してるんだけどなぁ。でも確かに、ちょっと、薄れていたかも知れない。慣れというのは恐ろしいものだ。
 食事じゃなくても、こんなことは多々起こっているのかも。人様からしてもらったことには、喜ぶことによって御礼の心が伝わるんだよね。親しくなって甘えが出ていたんだな、きっと。
 それは身内のなかでも起こり得る。
 私は母からよく“可愛げがない”と言われることがあるが、これだな、きっと。その時私は、口答えなぞしてしまったりもする。見た目だけでなく、初々しい気持ちか。
 新人から学ぶことは結構多いのである。
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/