『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
倦怠期に学ぶこと
 うちのクラブは、相変わらず新人ホステスの入店ラッシュが続いている。
 不思議なもので、同じテーブルについて二、三十分も経つと、このコはすぐにやめるだろうな、とかこのコはたぶん長続きするだろうとかが何となく分かってしまい、それは殆ど当たるのです。
 長く居ついてほしいことは言うまでもないけれど、それは勿論、良いコに限っての話であるからして、その姿を眺めていると、なるべく長く居られたらいいなとは、自分に対しても思うのであります。
 実際、私が今のクラブに入ってから一年半のあいだに通り過ぎて行ったホステスは数えきれないほどで、お客サマが名前を言っても顔を思い出せないなんてことも多々ある。
 辞める理由も色々ある。
 だけどね、一番多く耳にするのは、嫌なことはないのだけれど慣れてくると毎日が同じようでつまんない、他のことがしてみたくなった、といった内容のもの。
 今時、生活がかかっているというホステスは少ないからね。
 でも、実はクラブって半分のホステスはレギュラーメンバーで、残りの半分には新陳代謝があったほうが良かったりする。とは、私が銀座に入った初日に常連のお客サマから聞いた話だった。
 私がその理由を聞くと、
「同じお店で、いつも同じホステスに囲まれていたらお客は飽きちゃうでしょ」とシラっとした答えが返ってきたので、思わずムカっときたのを昨日のことのように憶えている。
 なんて冷たい世界なんだ! 使い捨てかよ、と喉のあたりが熱くなったかと思えば、でも、もう入っちまった、どうしよう、と今度は背筋が寒くなったっけ。
 でも、これってお互いさまってことなの?
 人間は飽きる生き物なのか。
 ちょっと冷静になって考えてみると、それは特別、銀座のクラブだけに起こりうることではない気もしてくる。恋人だって、夫婦だって、緊張感がほぐれて慣れ親しむのは良いけれど、“飽き”に変わってしまうと、何かのきっかけでその関係は危うくなったりもするからね。いわゆる倦怠期だな。って考えてみるといきなり当たり前のようにも思えてきてしまう浅はかな私。
 飽きたからといっておサラバはないだろうが、飽き飽きしているのに顔を付き合わさなくてはならないのは確かに苦痛かも知れぬ。
 銀座のクラブにおいて新人ホステスの出入りはまさに新しい風であり、お店の雰囲気を変えてくれるから有り難いなぁ。そんなふうに感じてしまう私のフレッシュな新人時代は遠い過去のことのように思える。
 ところがこんな私はナント、先月は銀座生活において一番の好成績をおさめることが出来たのであります。ということは、お客サマとの倦怠期に打ち勝っているということになるのではないだろうか。
 最初からそれに恐怖を感じていたから、今日までもったのかも知れないと思うと倦怠期に感謝か。
 実は、倦怠期は意識しているとかえって良い方向に行くような気がするのです。と言うのも、一つの空間とそこに集まるお馴染みの人達は一見、同じように見えていても、何かしらの変化があって、そこから小さな幸せが広がってゆくことがあるのです。
 例えば、いつも来ているお客サマが髪を切ったとか、いつもネクタイは赤が多いのに今日は珍しくグリーンをしているといった変化をまずチェックしてみる。そして、些細なことかも知れないけれど本人に向って言うことが大切なのです。
「○○さん、髪の毛切りました? サッパリして素敵ですね」とか、
「今日のネクタイ、すごく似合ってますね」って言うと、
「気付いてくれたのか? 誰も言ってくれなかったから嬉しいよ」って、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて喜んでくれる。
 その心の変化が表情に現れるのがとっても可愛かったりすると、新たな良いところを見つけたらまた言ってあげようって思うのです。いつも厳めしくて苦手なタイプだったけど本当は良い人なんだなぁ、なんて段々と仲良くなれたりしてね。
 女性で例えたら、
「ちょっと痩せた?」とか、
「なんだか最近奇麗になったけど、彼が出来たの?」みたいな感じか。
コレ、言われると私はかなり気分が良くなる。ならば、もっと頑張ってやろうって思う。そして言ってくれたその人がすんごく良い人に思えて、いきなり心を開いてしまったりする。親しくなるにつれてその内容も深くなっていき、気が付けば、コイツといると何だかいつも気分が良いんだよなぁ、なんてね。人間は誉められると活性化するんじゃないかな。
 逆に、
「なんだか老けたね」とか、
「すごい疲れた顔してる。肌荒れてるね」なんて言われると、
「なら、もう帰るよ」って思う。
 その人のためになることで、敢えて苦言をしてあげるのは親切だけれど、どうにもならないことは指摘されても困るのだ。自分がされて気分の悪かったことは取り敢えず人にするのはやめとくことにする。デリカシーに欠けるか、最悪は心の狭い、意地悪な人に思われたりしたら嫌だからね。
 そこからすると、人の良いところにちゃんと目を配れて、素直に誉めてあげられるっていうのは、ゆとりがあって優しい人なのだろう。
 励みになって、自然とヤル気にさせてくれるような存在は飽きるどころか必要な人と思われるに違いない。男はそういった勇気づけてくれるような女にはすこぶる弱いものらしい。女の私でもそうだからよく分かる。
 いつか、私も“必要な人”って言われてみたいな。
 そんな最高の誉め言葉を言われたら、すごく頑張れる気がするのです。
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/