『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
徹底する女
 夜の銀座の世界に入ってからというもの、五月と聞くと恐怖を感じるようになってしまった。世間では待ちに待ったゴールデンウィークを迎えて、皆さん、さぞかし休暇を満喫されていることだろう。
 けれど、今の私の心境はその対極にある。
 なんと、今月、私はお誕生日を迎えてしまうのであります。今さら歳をとるのが恐いのではない。これは、ホステスに限ってのことなのだ。その日が一年で最も大変な一日になるのだということを、昨年誕生日のお祝いをやってもらった結果、私は知ったのです。
 だってさ、お店に飾るお祝いの花を贈っていただいたり、お客サマに顔を出していただくのみならず、シャンパンやケーキで華やかさもプラスしてもらったりするわけだからして、跳ね上がるお会計のことを考えたら、「嬉しい!」と単純に喜んでもいられないのだ。普段はサービスを提供したり、リクエストに応じての対価をいただているわけだけど、この日ばかりは完璧に自己中。
 さすがの私も、自分の誕生日を名目に、稼ぎ時! なんて、そこまで面の皮は厚くないわけですよ。でも、この考え方は、銀座法では、即、罰せられることになっているみたいなので、生きた心地のしない今日この頃の私なのです。
 来年のお誕生日は銀座で迎えないぞっ! と、昨年心に決めていたのにもかかわらず、目前まできてしまった。
 私は以前、酔っぱらった勢いで、誕生日がいかに嫌か、ということをとくとくと語ったことがある。確か、昨年の暮れだった。その時の相手とは、お客サマのつながりで親しくなった他のクラブのチーママである。名前は優里さんと言い、私と歳は近いが銀座歴は十年にもなる。
 博多生まれの日本的な美人だが、性格はややキツめか。
 ま、銀座にキツくない女はいないと言うけれど、彼女の場合、それは、何ごとにも筋を通すといった強さであり、姉御肌なところが頼れる感じなのだ。私とは、好きなお酒が似ていること、飲むペースも、締めにアレ食べに行こうよ、の頭に浮かんだアレが同じだったり、着物の好みまでもが似通っているというのに、男の好みだけはまったくだぶらないことから、心を許すようになった。
 かれこれ一年以上の付き合いだけれど、十年くらい知っているような気がしてしまうのは、濃厚な銀座の夜を共に過ごしているからなのだろう。
 話は戻るが、私の考え方そのものが銀座法にそぐわないことを教えてくれたのは優里ママだった。
 誕生日の件に関して言えば、日頃、お客サマに対して尽くしているからこそ、年に一度の記念日を最高に飾ってもらうという幸せを手に出来るんじゃないか、ということである。見返りを求めているのではなく、徹底して尽くすからこそ得られるものがある。日頃ホステスとして出来る限りのことをしなさい、というわけだ。
 話は誕生日の件に留まらず、女の生き方そのものに及んでゆき、最後は、
「あなたは銀座で生きていこうという踏ん切りがまだついていない」という言葉で締めくくられた。
 私に、ホステスとしての努力が足りないことは一目瞭然で、やっただけ伸びる世界なのだから、もっと徹底しろと熱弁をふるう姿が目に焼き付いている。
 いつも熱い女なのである。
 そんな優里ママが今月で銀座を引退することになった。なんと結婚するというではないか。聞いた時には本当に驚いてしまった。数多くのホステスを見てきているが、彼女ほど徹底した銀座の女は見たことがなかったから。
 話を聞くと、
「とにかく徹底して幸せにしたい、と思う男性に出会ったのよ」ということである。
 すぐに、らしいな、と思うと同時に、幸せになってほしいと願った。でも、ということは、もう同じ土俵で生きることはないのだと胸が熱くなった。
 女性の生き方には色々あるけれど、ホステスだけでなく、結婚と両立出来ない職業というのは沢山あるだろう。
 多かれ少なかれ、女には転機があるということだ。
 私にも、そんな時期が訪れるのだろうか。例えば、愛する人からプロポーズされたら、どうするだろうか。実際にそうされたら、私は銀座の世界が心底好きなのだと思い知らされるのかもしれない。それも優里ママが教えてくれたに違いないが、彼女は他の生き方を選んだ。
 どうやら、彼女と過ごした銀座の一年間が、私に、無意識のうちに「何でもやんわりと上手く生き抜いていこうとしていた自分」を気付かせてしまったようだ。
 正直言うと、見て見ぬふりをしたいようにも思う。
 けれど、誕生日を迎えるにあたって、抱負をもつにはちょうどいい。これからは何ごとも徹底した生き方を実践してみることにしよう。
 優里ママがずっと私に贈り続けてくれたものを、最後になって受け取ったような気がした。それが、どう形を変えていくのかは分からないが、女にとって、実は物凄く大切なモノのような気がしてならないのだ。
 やんわりと徹底する。
 それは、なかなかたいへんなことにはちがいないのだが。
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/