『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
プロポーズした銀座の女
 今年もあえなく、銀座で誕生日を迎えてしまった。もちろん、年に一度の記念日を沢山の人達に囲まれて過ごせる、というのはこの上ない幸せであり、銀座のクラブでしか味わえない喜びだろう。  だけどね、当日を迎えるまでのプレッシャーを考えると、やっぱり、 「来年こそは、お誕生日は銀座では迎えないぞ!」と思ってしまう今日この頃なのであります。  となると、次の人生、何をするのか。  やっぱり女は結婚か。  前回に書いたとおり、仲良くしてもらっていた、他のクラブのチーママである優里ママが結婚するとあって、急に、「そろそろ自分にも頼れる男が必要なのではないか」と思い始めてしまった私。  お仲間ホステスの菜々子にそう言うと、 「何? まだ彼氏出来ないの? もうずっと前から欲しい、欲しいって言ってるじゃない」  え? マジっ?! 私、言ってた?  気を取り直して、私は聞く。 「で、菜々子は最近どうなの?」 「うーん、まぁ、いるけど、トキメキの時期は終わった。どうやら浮気者みたいだって、最近分かってショック受けてたところ。銀座の仕事は楽しいから辞めたいとは思わないんだけど、体力的にも精神的にもキツくなる時ってあるじゃない? そんな時は頼れる人がいたらなぁって心底思うよ。でも、それがいないから仕事をずっと頑張ってこれたんだとも思う」  激しく同意。しかし、今まで、銀座のホステスで寿退職出来た女性って、一体どのくらいいたのだろうか?  その晩、菜々子と私が、他のホステス達やお客サマを交えて検討した結果、それは銀座ホステスの全人口の約一割にも満たない、せいぜい五パーセントくらいなのではないか、という意見に達した。  その幸せな結婚生活がずっと続いている、となるとその確率は一パーセントを切るのではないか、という推論になったのだ。  ホステス達は意気消沈。  その重い空気に耐えられくなったのだろう、お客サマは言った。 「シャンパンでも、飲もうか」  やっとのことで、表情に血の気を戻した私達。だが、ホステスはしつこい。 「何故? どうして、ホステスはお嫁さんになれないの?」  皆で達した結論にもかかわらず、お客サマに絡みだす。 「だってさ、生活感まったくないもん。金銭感覚だってズレてるだろう。贅沢ばっかりしているから、家庭の主婦は無理だと思うなぁ。うっかりもらうと怖い感じ」  と、まぁ、よく言われる台詞が返ってきた。  だけどね、これはハッキリ言って仕事の一部なのであります。高級クラブで高いお勘定をいただくだけあって、私達ホステスは、自分自身をクラブの豪華な内装やサービスの高さにそぐうよう、“お金のかかっている女、教養のある女”に創り上げるのが義務となっている。だから、 「今夜は居酒屋に行こうか」とか、 「じゃあ、割り勘ね」とか、言われることは決してなく、贅沢な暮らしが自然と保たれてしまうわけだ。  でも、こうした傾向は結婚したい女にとっては致命的欠陥なのである、ということがよーく分かった。  先日、ある高級クラブのナンバーワンだった女性と再々婚して、かれこれ五年くらいは経ったと思われる、五十歳くらいの社長が、接待でうちのクラブに現れた。前の話からすると、その妻は、銀座のホステスの一パーセントに入ったラッキーガール、ということになる。  大ママが近くにいないことを確認すると、銀座のクラブで御法度とされている“家庭の話”を開口一番に聞いてしまう私。 「ずいぶんお久しぶりですね。その後、結婚生活はいかがですか?」 「ん? いきなり、なんで? 俺って、信用ないのかな。じつは、すごく上手くいってるんだよ。銀座に来たのも久しぶりだよ。実は、今夜も早く家に帰りたくてね」  ガクっ。何だか分からないが、私はとにかくガクっときてしまった。 「えっ? そうなの? ○○さん、浮気者だから、そろそろ危ないころなんじゃないかと思ったのにぃ」  咄嗟に思いっきり失礼な言葉が口から出たが、どうやら、本当に上手くいってるみたいだ。五年も経ってこんなことを言わせるんだから、その彼女は、本来はホステスなんかよりも主婦向きの女性だったということなのか。でも、だったら夜の銀座でどうやって自分をアピールしたんだろ。 「でも、奥サマに選んだ決め手って何だったんですか?」  私は直球で聞いてみた。すると、彼の表情が突然、ときめいた。 「俺さ、じつはプロポーズされたんだよね」  えっ。 「必ずあなたを幸せにするからってさ。最初は全然そういう対象じゃなかったんだけど、言われ続けていたら、そうなのかなって思えてきて、意識するようになったんだよ」 「すごぉい。女性は普通、言われるの待っちゃいますよね」 「うん、そう。でね、どうして俺が君と一緒になったら、幸せになれるの? って聞いたら、私ほどあなたを愛せる人はいないから、って言うんだよね。男って結構、ずっと一緒にやっていける自信が持てなくて、結婚しなかったりしちゃうんだよね。だから、女に自信がある姿を見せられると、何だか、そうか! コイツとならって決心出来るような部分があるのかなと思うんだよ。ま、あれだけストレートに言われたのは初めてだったな」  聞いといて悪いが、これはノロケか?  でも、その彼女はきっと運命の人だと思ったんだろう。  私は今まで、そんな人に出会うのを待っていて、誰かと恋に落ちたら、今度はその恋が育つのを待っていた。そしてプロポーズされるのを待っていたりして。私、結構、格好付けてたのかも知れない。それは、銀座で気取った女を創り上げるのに、ちょっと似ているような気がしないでもない。  今度、運命の人に出会って、確信が持てたら、私もプロポーズしてみようかな、とちょっと思ってみた。 「私と結婚してください。あなたを必ず幸せにします」  うん、これって、結構、イイ女な気がする。
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/