『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
一緒に楽しめるお願いごとをしよう
 六月に入り、銀座の女性達も一斉に衣替えを迎えることになった。とはいっても、洋装派のホステス達は一年中、そのファッションはあんまり変わらないようにも思う。暑い日も寒い日も、雨の日も、風の日も、両腕をニョキっと出したノースリーブのロングドレスを、まるで定番スタイルと決め込んでいるようである。
 そんな姿を見ていると、ちょっと勿体ないなと思ってしまう。せっかく銀座にいるのだから、銀座ならではのお洒落を楽しみたいもの。
 となると、和装派の出番ということになる。
 着物は六月に入ると、袷から裏地のつかない単衣に変わり、それには初夏にふさわしい花などが描かれている。それにあわせて、扇子や簪なども選ぶ。そんな女性らしさは、気持ちを細部に行き渡らせるほど、奥ゆかしく光り輝くものである。
 日本の四季を感じさせる女性は、見ているだけで心を和ませ、まさに花のように感じられる。そんな姿に憧れて、私は十代の頃着付けを習ったのだった。それが銀座の世界で役に立つことになろうとは、予想外である。もっとも、一年を通して着物を楽しめる場所は、今ではごく限られているだろう。
 私も、夜の銀座にいるからこそ着物を楽しむことができるのであって、ライターをしていた頃は年に数度しかそんな機会はなかった。それにしても、最近の若者には、季節を楽しもうという気持ちが薄れている人が増えてきているのではないだろうか。
 六月と聞いて、「梅雨だ。嫌だなぁ」なんて思っているだけであったら、ちと寂しい。銀座のホステスにしても、日本の四季を感じさせるファッションは少なくなっているのかもしれない。ただ「食」に関して言うなら、旬を追う女性がとっても多かったりする。そして不思議なことに、それが貪欲であればあるほど、人気者だったりするのだ。
 私は銀座の街の料理屋なら、殆どのモノを「お〜いしぃ〜」と思っていただいている。だってさ、名店ばかりが軒を連ね、多くの食通が集まる街で、もし不味かったりしたら、すぐに潰れちゃうもんね。だから銀座の味は、高いレベルを保っていられるのだろう。こんな豊かな街が職場で良かった、と心から思う。
 しかしながら、つい先日、ちょっと驚いたことがあった。それは、お仲間ホステスの真理と一緒に、同伴のディナーにお誘いいただいた時のことである。お客サマから、
「何が食べたい?」と言ってもらい、真理も私もお肉が好きなことから、
「普段あんまり食べないから、ステーキ、いいですか?」と、リクエストを出した。
 じつは、肉が好きって、あんまり女らしくないんじゃないか? とこちらが勝手に思って、“あんまり”とか言ってるが、私達は無性に食べたくなると、二人で近場のバーなんかでもお肉を食べたりするのだ。
 その日の同伴の食事は、最近出来た某ホテルを指定された。美味しいと評判は聞いていたのだが、今まで一度も行ったことはなかったこともあり、私達はワクワクしながらホテルに向った。
 高層階に位置する鉄板焼きのコーナーは、座った席からレインボーブリッジなどの夜景が見える。座っているだけで思わずうっとりとしてしまうほどに、都会の街は神秘的に光り輝いている。銀座のホステスは日頃、名店といえども、雑居ビルの中にある小料理屋ばかりに入り浸っているので、夜景なんかにはなかなかお目に掛かれないのだ。
 目の前でジュウジュウとステーキが焼かれているが、味なんてどうでも良いような気さえしてくる。それに、ステーキって、どこで食べてもある程度は美味しいじゃない?
 しばらくぼんやりしていた私は、思わず耳を疑うような台詞で我に返ることとなる。
「あのね、ここのステーキとっても美味しいけど、この値段なら、銀座の○○のほうが良いかも知れないわ」
 小声で言っているのは真理である。
 彼女は夜景なんかはどうでも良いのだろうか? 
 または彼氏がいて、ちゃんとデートをしていて、日頃から夜景を見ているとか。
 でも、ご馳走になっている最中に、よくそんなこと言えるよ。と、思っていたらお客サマが意外な反応をしているではないか。
「えっ? ○○って行ったことないけど、そんなに美味しいの?」
「うん、うん。焼き方がね、普通と違うの。薄切りのお肉で千切りのお野菜をクルクルって巻いてくれるの。あとね、旬のお魚を串にさして炭火でじっくり焼くのが最高なのよ。あ〜、行きたい。今、鮎の季節だから、旬のうちに連れて行ってくださいよぉ」
 真理は私と同じく、食べるのが好きなだけあって、食に関する情報は豊富だ。
 だけど、この場でもうおねだりか。
「そうか。今の時期は鮎か。俺も食べたいな。OK! じゃ、いつにしようか」
 んっ。どうやら獲物が掛かっている様子だ。
 真理、なかなかやるな。
「来週の後半がいいかな。れみれみは? 空いてるか」
「あっ、勿論、空いてます。私も食べたいっ。連れてって」
 反射的に夜景を捨て、慌てて仲間に入ってしまうセコい私。
 でも、女のお願いっていうのも色々あるもんだな。
「衣替えだから、新しい着物買って」なんてのは男の瞼を重くさせるが、
「旬だから○○を食べに連れてって」というお願いは、何となく可愛く響くものである。
 そういえば、食事のリクエストは未だかつて断わられたためしがないような気がする。
 季節の移り変わりは永遠に続く。時はそのように移ろっていく。そして人間は果てしなく食事をし続ける生き物である。
 真理も私も同伴がやたらと多いホステスで通っている。二人とも本当に美味しいモノが食べたいからだと、私は単純に考えていた。
 だがその夜、気が付いたのだった。
 食事というのは、皆に共通する楽しみだから同伴のお願いが叶うんだな。一緒に楽しんだら、また一緒に食べに行こうね、となる。
 こんなお願いごとなら、遠慮せずにしたほうが良いのではないだろうか。これはきっと、銀座の世界に限ったことではないだろう。
 日本に独特な旬の喜びを共に分かち合うほど、人の絆は深まるような気がする。
 かくして、六月も過ぎていく。
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/