『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
梅雨時は女の見せ場
 関東地方もいよいよ、女泣かせの梅雨入りを迎えた。
 この時期、ホステスは水の恐ろしさを実感する。日頃、“お水”のコワさをお勘定などで見せつけている私達が、逆にやられる番だ。
 かりそめと言えども、時間とお金をかけて、精魂込めて創り上げた姿がいとも簡単に流されてしまうと、さすがに意気消沈する。
 大概のことにはびくともしない、鍛え抜かれたホステス達も、相手が自然の摂理とあっては駆け引きの仕方が分からない。
 ジメっと湿った夜風にひと吹きされたならば、筋金入りの銀座巻きヘアも木っ端微塵にされてしまうのだからね。
 それだけではない。ロングドレスにハイヒール、着物に足袋と、裾や足下に汚れた雨水がハネ上がってしまうのは、どうやったって避けようがない。美容室を出てから徒歩数分の場所に移動するだけでも、あっさりやられる。
 銀座の街は狭いところにあらゆる“一流”が集まっているのが見事だと思うが、それだけに、目指す場所は、どこでも歩くほどの距離に位置しているのである。なので、この時期は、同伴などの料理屋に着く前と、自分の職場であるクラブに入ってから客席に登場する前に、いつもより余計に着替えたり、履き替えたりしているわけで、毎晩のこととなると、やけにストレスに感じてくるわけだ。
 そこへきて、お客サマにジメっとされたりなんかすると、自ら落雷を起こしてしまったりするから、気が付いたら、ホステス生命を絶ってしまっていた! なんてことにもなりかねない。まさにデンジャラスなこのシーズンには、雨が降ったらもう来ない、というホステスも結構いる。
 結構なご身分で羨ましい。でも、そんな風に休んでいると、それはそれで結構ジメジメっと噂されたりするものである。
「○○ちゃんは、彼氏がいて養ってもらっているから、働かなくてもいいんだね、きっと」
 お客サマからこんな風に問いかけられれば、私だって一応は否定する。
「そんなことないですよぉ。お店に着いてしまえば楽しいんだけど、来るまでが大変だから、挫けちゃう気持ちは分かりますよぉ」
「でも、働かなくて、さらに当日欠勤だと罰金だろう? ウン万円損しても休むとくれば、そりゃあ、男がいるだろ?」
「・・・・・・・?」
 ホステスは互いにプライベートをあまり詮索しないのが暗黙のルールでもあるからして、実のところ、私も「よく分からない」のが本音。それをお客サマも分かっているので、それ以上、同僚をかばう発言は、かえってわざとらしくなってくる。
 このように、銀座を休むことには危険を伴っているのだ。そのうえに、罰金とのダブルパンチなんて考えられない。
 私は、梅雨時だからこそ、逆にお洒落に気合いを入れ、他のホステス達の気が緩んでいる時こそ、チャンス! 自分だけ光り輝いてやろう! とセコくヤル気を出している。ここ最近は努力の甲斐があってか、お食事のお誘いも、やや右肩上がりとなって、とっても嬉しい。
 しかし、前回の「一緒に楽しめるお願いごとをしよう」に登場したお仲間ホステス、真理の人気は、最近、物凄い勢いで上がっている様子なのである。
 真理は雨が滴ると、イイ女に見えるのか? 
 冗談ではなく、最近の彼女は私の目にも女らしく映ることが多い気がする。
 何故だろう。
 或る夜のこと。珍しく、真理にアフターが入ってない様子なので、私は彼女にそのことを聞いてみようと思い、近づいた。
 でも、何て聞けばいいんだろうか? 
「ナンデ、人気あるの?」じゃ、ちと失礼だし、
「お客に何かやってんのか?」では、喧嘩を売っている。
「ねぇ、真理、最近、随分人気者だけど、どうして?」
 結局、直球しか投げられない私。だけど、真理がサッパリした性格で良かった。
「ん? フフ…」
 不適な笑みが浮かぶ。そして、彼女はさらりと言った。
「確かじゃないけど…、雨の日は、女を売るチャンスのような気がするの」
「女を売る、チャンス?」
「そう。ピンチの時にこそ、チャンスがあるっていうでしょう。女らしく見せる場面が多いのよ。例えばね、傘をさしていても、どうしても肩や腕が濡れちゃうでしょ。それを拭くために、ハンカチをバッグから出すでしょ?」
 ふむふむ。
「そしたらさ、自分よりも先に、まず男性のほうを拭いてあげたりするの。ちょっとのことだから、何の苦にもならないわよ」
 おぉーっ。それで、それで?
「男性がお会計をしていると、女性のほうが早くお店の外に出ていることになるじゃない? 出てきたら、自分の傘を相手の高さまで持ち上げて、中に招き入れてあげたり、一緒に出る場合は、その人の傘から広げて、ニコッと目を合わせて渡してあげたりとかね」
 調子づいて話す真理が、どんどん性悪に見えてきた。が、彼女の話は止まらない。
「雨で大変なところを、自分のことは置いといて、まず相手からっていう態度は、一生懸命でかいがいしく見えると思うの」
 今の「見える」と「思うの」で、私は貴女を決定的な性悪と見たぞ。
「あとね、いつもはコテコテの銀座ヘアだけどさ、こんな天気だからナチュラルなストレートっぽい髪型も許されたりするよね。お客サマにも、そのほうがウケが良かったりする。相合い傘だって、腕に手を回すこととか、自然と出来るしね。雨の日は、普段は出来ないことがサラリと出来ちゃったりする。女の見せ場が多いのよ」
 心配りは見せないのが美学、であることは間違いない。それが見えると、逆に相手に気を遣わせることになってしまうから、隠しきるのは礼儀でもある。
 だけど、雨の日はチョットいいかも。
 本当は、女の繊細な心配りに気付いて欲しいしね。
 真理の言うとおり、女らしいところをアピールするチャンスなのかも知れない。どうやら、私の性悪も確定したようである。
 明日、雨にならないかな。
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/