『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
高い目標ではなく、ぶれない目標
 この連載もおかげさまで、なんと一年を迎えた。読んでくださっている皆様、本当にどうもありがとうございます。
 そして、この夏には、私の銀座のホステス歴も三年目に突入することになる。これまたご支援してきてくださった皆様方には本当に感謝しております。
 私の初めてのエッセイ集である『ダイエット・パラダイス』にも書いたとおり、私の銀座のクラブとの出会いは、まさに偶然だった。
 ライター時代の仕事仲間であったモデルの女の子に、
「モデルだけじゃ、食べていけないから、銀座のクラブで働きたいの」
 と、リクエストされ、知人のなかから夜の銀座のツテを探した。
 紹介がてらついて行ったら、私のほうがホステスになっていたというわけだ。
 あの日のことは一部始終よく覚えている。
 当時の私は、ちと大袈裟かも知れないが、泥んこまみれになって朝から晩までライターの仕事に明け暮れる毎日を送っていたから、きらびやかなクラブのムードと、ドレスや和服に身を包んだ華やかなホステス達を目の当たりにして、「こんな世界があったのか!」と、そりゃあ、もう、ビックリしたものだ。
 大ママは、小汚い格好をしていた私に、よくぞホステスの資質を見出したと思う。
「今日、ちょっと、やってみなさいよ。バイト代もちゃんと出すから」
 と言われたのだ。
 ビックリするわりには、物怖じしない性格でもある私。
 お客サマと共にひとしきりお酒を飲み、会話を交わしていると、ナンテ楽しい世界なんだっ! と、あっという間に午前零時を迎えてしまった。
 帰り道、封筒に入れられたお金をみて、私はふたたびビックリしたのだった。
 気が付いたら、ホステス街道をまっしぐらに来ていた、ということは私にも何らかの欲望が潜んでいたということになるのだとは思う。
 丸二年間を過ごすうちには、それまで付き合いのあった友人達の、私に関する噂話などが耳に届くことも多々あった。
「れみちゃん、銀座のホステスになったんだってよ。お金に困ってたのかね」とか、
「イイ男、狙ってんだろう」なんてね。
 とりあえず聞き流してきたが、それは、嫌なこと言われて、両手で耳を塞いだわけではないのである。
 じつは、さまざまなことを否定するのも、肯定するのも、その基準はとっても難しいことだと私は思っているのだ。
 だって、お金が欲しくないと言えば嘘になるし、イイ男にも勿論、出会いたい。
 しかしながら、これ、何のために、どのくらいのお金が欲しくて、どんなイイ男に出会いたいのか? と自分に問うて見ると、かなりぼやけてしまうのが本音だったりする。それに、これくらいの朧げな欲望だったら、ホステスじゃなくても、人間、それなりに抱くもんじゃなかろうか。
 しかし、つい先日、身近な二人の男性から同じようなことを言われたことがあった。
 一人は、銀座のお客サマのなかでは珍しく結婚を意識させる、とっても誠実そうな独身の男性だった。とはいっても、まだ知り合ったばかりで、デートは同伴の域を出ておらず、したがって私も、「マキシム(銀座にある高級フレンチレストラン)でお食事したいの」などというおねだりはすべて引っ込めていた。
「お店に来て欲しい」とさえ言わないようにしていたのだ。
 なのに、ある日、この男性は私にむかってこう言ったのだ。
「貴女は利己的な女性に見える」と。
「この私のどこがぁ!?」である。
 後頭部をハンマーで思い切り殴られたような衝撃だった。
 これまでの状況で? 私が何かねだったことがあるか? おいっ、言ってみろ。
 冷静になってもまったく合点がいかない話だった。これからだったんだけど…と思うところが私も怪しいのだが。
 で、もう一人は、私をライターの頃から良く知っている殿方で、銀座のお客サマではない。その男性は久々に会うやいなや私にむかってこう宣った。
「貴女は百パーセント、銀座の女性になったように感じる」と。
 クラブにはあまり行かない男性なので、一般的な銀座の女をイメージしてのことだとは思う。しかし、その話の流れからして、結局は「利己的な女性」と同じような意味合いなのだろうと私は受け取った。
 数日のあいだに、この二つの台詞を言われた私は、腹が立った。でもそのすぐあと、深く傷つき、落ち込んでしまったのである。
 だが、「利己的な女性」にしても「百パーセント銀座の女」にしても基準が曖昧なので、判断するのは難しいと思われた。
 私の血液型はB型で、大抵のことは気にならない性格なのだが、納得いかないことに対してはとことん分析する傾向がある。その上で、異議を唱えたり、反省することが、私にとっては肝心なのだ。実際、自覚症状がない、という場合もあるからね。
 まず、ホステスという職業に偏見を持つ人がいるとすれば、それは“男に色を売ってお金をもらう仕事”という、先入観からくるのではないだろうか。
 もっとも、ひと言に銀座のクラブのホステスと言っても、その働き方には色々あるのだ。基本的に、ちゃんとした身なりをして、決められた時間にお行儀良く働いていればクビにはならないし、ノルマも一切ないというクラブは沢山ある。
 私の周りにいるホステス達も、何かの資格をとるため学費を稼ぎたいとか、大学を卒業するまでのバイトですとか言い、目的を達成したのか、あっさり
とお店を去っていったコ達を何人も見送ってきた。
 勿論、その逆を行く天職系ホステスもいて、三十歳までに自分のクラブを持ちたい、とか、銀座のどの場所で、どのくらいの規模で、こんな内装にしたい、とか、かなり明確なヴィジョンを掲げていたりコもいる。
 そのためにはいくら必要だと、極力無駄遣いをしないようにして、貯蓄に励んでいるのだ。特定の男性の力に甘んじたのでは、商売は成り立たないのだということもちゃんと分かっているし、実際そうだとも思う。そういうホステスを見ると、周りは頼もしくも楽しみにも感じるものだし、当の本人は何を言われたって、自分には確かな夢というものがあるのだから、これは強い。
 そこで、自分の場合はどうだったのだろうと、ふと考えてみる。
 今時の夜の銀座は、バイトでも、天職だとも思っていないホステス層がかなりいるように思われる。もしかして、私はそこに属しているのではないか。そう思ったら、なんだか急に、その日暮らしのような気分になってきた。
 走り回ってライターをしていた時の私は、人に相談しながらも、書くことに対して明確な目標を掲げることが出来ていた。それは今も変わらない。その次にはこんなことを書きたいなと、目標はさらに膨らみ続けていたりする。
 ああ、そうなのか、と私はここまで書いてきて気がついた。
 銀座だけではなく、何ごとにおいても、目標が具体的かどうかが重要なポイントなのだろう。高く持つということよりも、むしろぶれないことのほうが大切なのかも知れない。
 目標は具体的になればなるほど、欲望というよりも、たった一つの夢に近づく。夢だとすれば、「利己的」という表現も当てはまらなくなるであろう。
 とすると、銀座の私は何となく地に足が着いていないように見えるのかも知れないな。だから、フラフラと良いこと探ししているように見られてしまったのか。夜の銀座の世界に対して、明確なヴィジョンを持たないまま丸二年も過ごしていたのだから、そう言われても仕方あるまい、とだんだん思えてきた私。
 だからといって、目標はすぐに掲げられるものではないのであるが、こうして自分を見つめ直し、反省出来たことは貴重であり、コレ、苦言されたおかげか。
 反省は正直な心の中でしか出来ないことであり、新しい自分を生み出す“力”になると、私はいま思うのだ。
 もうすぐ夏休みを迎える。その間にこれからの自分をじっくりと考えることにしよう。今までの自分を振り返り、反省しながら。
 ところで、もしかして、イイ男に対しても、明確なヴィジョンを持つべきなのだろうか。ただ、何となく好き! では駄目なの? それはあまりにも夢がなさすぎるようにも思えるのだが。
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/