『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
大学受験を目指します。
 今月で私の銀座のホステス歴も二周年を迎えることとなった。
 たかが二年だけど、よく続いているクチに入ってくる。
 だってね、うちのクラブにはホステスが常時三十名位は揃えられているのであるが、私が入店した時から今日までずっと在籍しているホステスといったら七名しかいないのだ。残りの二十数名が新陳代謝を繰り返しており、しかも、それがかなり活発ときている。
 前回、私が密かに恋心を寄せていたお客サマに「貴女は利己的な女性だ」と言われてえらくショックを受けたエピソードを書かせてもらった。
 そのひと言で、彼のことはもうどうでもよくなってしまった私。
 もう彼とのあいだに明るい恋の未来なんて期待しない(出来ない)。くよくよしているヒマはないのだ、と思うことにする。
 と言いながら、お酒が入ると、私はこの話を皆にしまくっていた。
 その男に未練があるのではなく、今度は自分にそういったイメージがあるかどうかが気になりだしたのだ。
 したたかに酒を飲み、話題の中心を“自分”にしては、皆のアタマを悩ませる。
 これこそ、利己的な振る舞いか?!
「ホステスは職業柄、そう思われやすいよねぇ、よしよし」と、お仲間ホステス達は頭を撫でてくれたが、毎夜、顔を合わせる同僚に本音を吐かせるのは、どうやら酷なことのようであった。それ以上、突っ込むのはやめにする私。
 ならば、お客サマに聞いてみよう。
「銀座に何万人といるホステスのなかで、“利己的”と評されるなんて、光栄じゃないか」
 コレ、励ましているつもりだろうか。だったら悪いけど、私はあんまり喜べないのであった。
 誰か、私のことを親身に考えてくれる人はおらんのか。
 そういえば、私に対して、イチ早く利己的だという評価を下した男性がいたことを思い出した。私が入店した当初から、夜の銀座におけるファミリーの一員に加えてくれたお客サマだ。ファミリーのホステス達は全員“パパ”と呼んでいる。
 パパは、アタマの中で計算を働かせているからと、私に“ドレミ(れみ)計算機”というあだ名を付けたのだった。
 タイミングよく、パパがお店に来てくれたので、私はすかさずその話をしてみた。
「ドれみ、そんなこと言われて気にするなんて、お前の計算機壊れたか?」
「パパぁ、そんなこと言って。だってね、パパには言いやすいから、パーティの時とか色々お願いするけれど、そのお客サマには何も言ったことなかったのよぉ」
 ふむふむ、と頷きながら、パパは私について考えてくれているようである。
「ドれみは利己的とは対極にいると思うよ。お前の計算機は小さすぎるの。小さいからあんまりイイ思いもしない。それが良いところであり、中途半端になってしまう要因でもある。利己的はさておき、何が何でもやってやるんだ! くらいの強い目標が女性には必要だと思うけどね。どうせ使うなら、もっと大っきい計算機にしなさい」
 私もそれは気づいていた。計算だって、目まぐるしい銀座の夜の生活を送りながら、目先のことだけが対象だった。しかしながら、明確なヴィジョン、ぶれない目標が大切なんだってことは、そんな銀座が教えてくれたことでもあったのだ。
 人生は何が起こるか分からない。けれども、綿密に計画を練ることは必要と思われる。
 さて、これからの私の人生どうなるか。
 そんな私は、今、来年からある大学の文学部に通う気になっている。いきなりで、どうしたことかと思われるだろうが、自己と向き合った結果、行き着いた結論であります。
 勿論、入れるかどうかは分からない。今、それこそ必死こいて、受験勉強を始めたところなのだ。文章を書いたり、色々な本に出会っていくうちに、無意識にも、銀座以外の場所で、目標は出来上がっていたのかも知れないと思う。
「私もいい文学作品を生み出したいっ」
 これが私の目標。
 まるで子供が語る夢のような口ぶりですが、本人はいたってマジメです。
 それを気付かせてくれたのも、じつは銀座なのだ。そういえば、本を書くきっかけになったのも銀座ではないか。私のエッセイの舞台になっているのだから。
 私のルーツはどうやら銀座にあるのかも知れない。
 たとえ、そこに目標がなかったとしても、銀座は生き方みたいなものを教えてくれる、大人の学校のような場所であり、何となくその空気だけはずっと吸っていたいなと思う。
 だから私は夜の銀座が好きなのだろう。
 だけど、銀座のホステスと大学生活の両立って、果たして出来るんだろうか。それ以前に、年齢差が物凄いけど、友達なんか出来るのだろうか。体育の授業なんかもあるみたいよ。
 目標は決まっているのだけれど、明確なヴィジョンって難しい。入る前から、早速躓いてしまうではないか。
 それでも、何が何でもやってやる。若いコ達に混ざっても浮かないぞ。
 あ、これも目標にしてしまおうか。
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/