10年前、高校在学中の17歳で
当時最年少となる文藝賞受賞を果たした羽田圭介さん。
以降、大学生、会社員を経て、
現在は専業作家として創作に励んでいる。
自身初となる警察小説「盗まれた顔」について聞いた。

効率主義的な“システム”に
対する個人のアナログな反抗

──初めて警察小説を書いた理由を教えてください。

 警察小説を書いた、という感覚はあまりありません。「見当たり捜査員」を描いたという感覚です。その題材の内包する要素が、自分の書きたいこととあまりにもフィットしていました。  それは、効率主義的な“システム”に対する個人のアナログな反抗という、デビュー作『黒冷水』から通底する構図です。

――何がきっかけになったのですか?

 2010年の6月、カップル間におけるケータイ電話盗み見をテーマにした『隠し事』という作品の執筆中、「記憶術」について考察し、頭を悩ませていました。
 あまりにも悩みすぎたある日の夕方、行き詰まり、普段は滅多に見ないテレビをつけると、ニュース番組で、見当たり捜査員の特集を放映していました。指名手配犯数百人分の顔写真を記憶し、街中で地道に見つけようとする――アナログな身体性と記憶術について考察していたまさにその時であったため、天啓としか思えなかった。あの日あの時間に偶然つけたテレビがあのチャンネルに定まっていなかったら、今作は生まれていません。
 自分の中で、『隠し事』と『盗まれた顔』は兄弟のような作品です。

――主人公は39歳。27歳の羽田さんからすれば上の世代です。
  ご苦労された点はありますか。

 主人公の年齢設定では何も苦労しませんでした。自分たち20代の世代から40代前半までの世代感覚に大きな違いがあるとは思えません。正確には、自分自身が40代の方々の世代感覚をそのまま理解できるわけではないのでわかった気になっているだけなのかもしれませんが、日々の生活の中でそれくらいの世代の方々と話をするぶんには不可解だと感じるような思考には出くわさない。特に30代の方々との世代感覚の地続き感は大きく、39歳の主人公の内面を描くのに全く迷いはなかったです。
 バブル崩壊後、都市や田舎、衣食住の完全に均質化した日本がこのまま続く限り、この世代感覚は今の10代、そしてその次の世代にも受け継がれるのだと思います。それが良いのか悪いのかは今の自分にはわかりません。
 ただ、世代間の思考に差異や不可視な部分がないというのは不気味なもので、多様性のなさという閉塞感に耐えられなくなる人々が今後もっと沢山出てくるはずです。

――作品からは、インターネットなどを含めて人間の顔写真が
  かつてないほど溢れている現状に対する批判的な視線も感じますが。

 積極的受動性、とでもいうのでしょうか。矛盾した、気持ち悪い写真でネット上は溢れています。
 身近な、すぐ隣に存在する気になる人には声をかけることができない一方、現実世界には存在しない「キメ顔」をネット上へと全世界的に拡散し、面識もない誰かから声をかけられるのを待っている。誰もが「声をかけられること」へと躍起になり、「声をかける」という身体性を失った人ばかりが増えている。
 仮にネット上での出会いが現実世界で結実しかけたとしても、「キメ顔」というゴーストに出会える人はいないはずです。

――来年、羽田さんはデビュー10周年をお迎えになられます。

 デビューからは、あっという間でした。大学時代なんかにもっと書いていればよかったという後悔、危機感しかありません。無知であったからこそ書けた作品、自作執筆からのフィードバックや偉大なる先人たちによる名作を読み学んだことで書けた作品、色々あります。
 基本的に出版された自作を読むことはないのですが、各作品を書くうえで苦労した箇所の感触は10年近く経っても忘れないので不思議です。

――これからの抱負をお聞かせください。

 生き残り、ということの定義についてここ最近ずっと考えています。生ける屍にならぬよう、年2冊のペースで単行本を出してゆくのが目標です。

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羽田圭介
©高橋依里

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羽田圭介 Hada Keisuke

1985年、東京都生まれ。明治大学卒業。2003年、「黒冷水」で第40回文藝賞を受賞してデビュー。08年「走ル」、10年「ミート・ザ・ビート」が芥川賞候補になる。そのほかの著書に『不思議の国の男子』『御不浄バトル』『ワタクシハ』『隠し事』がある。

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