特別著者インタビュー
桂望実


Kazuwo Hida Interview


「キャバ嬢ってね、究極の営業マンなんだよ」

 桂さんの取材に同行して、実際にキャバクラで働く女性たちの話を聞いていたので、本書の中にあるそのセリフには説得力があった。夜の世界をタフに生き抜く彼女たちは、ある意味で自分を「商品」として売っている。それだけに客の気持ちを引き寄せるための努力も半端ではない。成績上位者ともなると、営業電話やメールにしても最大限の注意を払っている。それが集客に繋がれば、給料に反映されるからだ。
 ある意味で、そこは熾烈な実力主義の世界。強烈な自我の持ち主でないと生き残ることは難しいのかもしれない。
 だが、桂さんの新刊『Lady, GO』の主人公・南玲奈(みなみちゃん)は、夜の世界とは無縁に思える23歳。容姿に自信はなく、話し上手なわけでもなく、うまく嘘をつくことだってできない。
 なぜ、そんなキャラクターを主人公に据えたのか。「キャバクラの世界を書きたかったわけではない。色々な事情を抱え、複雑な感情を宿して生きている人間を書きたかった」と語る桂さんに話を聞いてみた。



−−一作ごとに着実に成長されている桂さんですが、そもそもはじめはミステリ作品を書いていたとか?

そうなんです(笑)。翻訳小説が好きだったんですよ。ミステリとかリーガル物とか、かなり偏っていたんですけど。だからはじめはミステリ作品を書いていたんです。でもプロットも立てずに書き始めたら自分でも犯人がわからなくなっちゃって(笑)。小説なのに迷宮入りしちゃったんです(笑)。それでもしばらくはミステリ作品を書いていたんですけど、ある人に「無理してミステリを書かなくてもいいんじゃないですか」って言われて。「キャラクターに躍動感があるのだから、それを生かす作風のほうがいいんじゃないですか」って。ハッとしましたね。そこで方向転換して今に繋がるんだから不思議ですよね。

−−『Lady, GO』は、桂さんがはじめて女性を主人公に据えた物語になるわけですが、一番書きたかったことは何ですか?

書く前と書き終わった後で、随分とこの作品に対する気持ちが変わっていたんですよ。書く前は”自分嫌いの女の子が自分を好きになる過程を書きたい”と思っていたんですけど、書き終わったときに思ったのは”みなみちゃんに出会えてよかった”って。書いた私がそんなことを言うのも変なんですけど(笑)。それからやっぱり登場人物のひとりひとり、オカマのケイとか、敏腕店長の羽田とか、No.1キャバクラ嬢の美香とかに出会えたことが嬉しかったですね。

−−特にオカマのケイはインパクトがありますよね。みなみちゃんにとっても大きな存在ですし、名言もたくさんありますし。

はじめは、そんなに大事なキャラクターにするつもりはなかったんです。書いていくうちにどんどん重要度を増していったんです(笑)。

−−それはなぜですか?

書いているうちに、登場人物と仲良くなっていく感覚があったんです。自分でも不思議なんですけど、彼らが生活している世界にカメラを持って遊びに行っているっていう感じになっていって。だから、書いていくうちにこの作品に対する私の意図よりも、彼らのありのままの姿を書くことのほうが大切に思えてきたんです。ケイはみなみちゃんと真反対の性格なので、二人が交流を深めれば深めるほど、対称的な二人の姿を書くことが多くなっていきました。

−−書き終えたときは、どんな気持ちでしたか?

ふー、って大きなため息をつきたい感じ(笑)。やっぱり長かったですからね。私は、その作品のイメージに合うようなアルバムを執筆中ずっとかけているんです。それって、私にとってはある種のスイッチなんですね。そのアルバムに収録されている曲が流れると、自動的にその作品世界に対して意識が集中するんです。今回はMISIAだったんですけど、ずっとそれを聞いていたから、書き終わったときは、そのアルバムから解放されることも嬉しかったですね(笑)。

−−『Lady, GO』は六本木の高級キャバクラ店が舞台になっています。ある意味では特殊な世界だと思うのですが、執筆前にはどのような準備をされたのですか?

六本木のキャバクラに実際に行ってみました(笑)。それから、キャバクラ嬢数名に取材させてもらったり、スタッフとして働いていた経験のある男性に”男の視点から見た夜の世界”の話を聞かせてもらったりしました。でも、ひとつの作品に対してこんなに取材をしたのは初めてですね。私、基本的には取材をしないんですよ。

−−そうなんですか?

『県庁の星』も取材ってほとんどしていないんですよ。驚かれることが多いですけど(笑)。私の場合、その世界のリアリティを書きたいのではなく、生きている人間を書きたいという気持ちが強いんです。だから、『Lady, GO』で書きたかったのは、キャバクラという世界ではないんです。そこで生きている人たちを書きたかったんです。ケイにしても、テンションの高いキャラクターですけど、実は、この大都会で自分だけを頼りに生きていかなくてはいけない孤独さに耐えて必死で生きているという側面もあるんです。そういうふうにして、ひとりの人間が色々な感情を内面に宿しながら生きている姿を、私は書きたいんです。

−−取材を通じて感じたことや知ったことは、作品にどのように反映されていますか?

”メールは疑問文で送ると返信率が高い”とか、”誘われたときは一回OKしてから、やむをえない事情で行けなくなったことにする”とか、取材を通して知った情報は作品にも反映されています。でもそれを聞いた時点では、”こういうシーンで使おう”というふうには考えていないんです。『Lady, GO』っていう引き出しの中に、情報がどんどん蓄積されていく感じですね。書いていく過程で、その情報のひとつひとつが様々な姿に形を変えて出てきてくれたというか。取材したことは、この作品にとって絶対にプラスになったと思いますね。

−−今回の作品を書く上で特にこだわった点は何ですか?

急がないこと。ゆっくりゆっくりって自分に言い聞かせて書いていました。私はリズム感を大切にしているんですけど、それを意識しすぎてストーリーを強引に展開してしまわないように心掛けました。それは『県庁の星』の映画撮影の現場を見学できたことが大きいですね。書くという行為は孤独な作業なので、大勢の人が一つの目的を共有して物作りをしている姿を自分の目で見ることができたのは大きかったです。ひとつひとつを丁寧に作り上げていくのはやっぱり時間がかかります。でも、その丁寧さが絶対に作品に反映される。テンポよく物語が進行していくリズム感だけでなく、例えばみなみちゃんが変化していく姿が読者にとっても受け入れやすいように慎重に進めていく丁寧さも意識しました。

−−みなみちゃんは、そう簡単に自分を変えることができるようなキャラクターではないですからね。

先に走りがちな自分を、みなみちゃんのペースに合わせて書くのに苦労しました(笑)。自分のリズムではなく、みなみちゃんのリズムで書かないといけないって。原稿の〆きりも、みなみちゃんのスピードに合わせて書いていたのでどうしても予定より遅れてしまったんです(笑)。そうやって、全てをみなみちゃん優先にしながら書いていくと、どうしてもキャバクラでNo.1になるという結末ではなく、その次の人生に向かって走り出すところまで書いて終わりたくなってしまったんです。

−−そんな経緯があったんですね。では最後に、読者へのメッセージをお願いします。

みなみちゃんを応援するような気持ちで読んでいただければ。でも『Lady, GO』は本当に彼らの姿を追いかけて書いたという気持ちが強いんです。私は代弁者というか。「メッセージは?」って言われても実は困っちゃうんですよ(笑)。「みなみちゃんたちに聞いてください」っていうのが本音に近いのかもしれませんね。私自身、書くことを通してみなみちゃんたちに会うのがすごく楽しみだったので、そんな彼らの姿を楽しんでもらえたら嬉しいです。





『Lady,GO』
1,575円(本体価格 1,500円)



桂望実プロフィール

1965年東京都生まれ。大妻女子大学卒業。会社勤務、フリーライターを経て、2003年『死日記』でエクスナレッジ社「作家への道!」優秀賞を受賞しデビュー。前作『県庁の星』は映画化され、25万部の大ベストセラーとなる。他の著作に、偏屈な老人と母親を亡くした小学6年生の男の子が、不器用ながらも少しずつ心を通わせていく姿を描いた『ボーイズ・ビー』(共に小学館刊)がある。