特別著者インタビュー
豊島ミホ


Miho Toshima Interview


昨年3月、地方の高校を舞台にした青春小説『檸檬のころ』を刊行したあと、ウェブで何かエッセイの連載をしませんか、とお願いしたところ、即決したのが「底辺女子高生」。『檸檬のころ』では地味な高校生活の明るい面を掬ったので、小説には書けなかった暗い部分をエッセイで書いてみたい、ということでスタートしました。


――このタイトルは、どこから来たのでしょう?


『檸檬のころ』のあとがきに「底辺でした」って書いたんです。「底辺」は文字通りそれより下がない、っていう悲しい高校生活。それをストレートにタイトルにしたんだったと思います。
読み返してみると、友達たくさんいたし、先生方もかばってくれたり、なんか幸福な高校生活だったんじゃないか、と思いました。でもあのときの自分は「底辺」としか感じられなかったんです。

――なんと言っても印象深いのは、13日間の家出をした16歳の春のエピソード(完敗家出マニュアル)。家出って、したくてもなかなか実行できないのでは?

やっぱり、本気でイヤだって思ったら、逃げるんじゃないかな。今の人生がやだなって思ったとき、それはでも自殺するくらいだったら逃げた方がいいじゃないですか。貯金があったからそう思ったのかもしれないけど。
家族がイヤだったんじゃないんです。とにかく学校に行きたくなかった。でも、家を出ないで学校だけ行かないってわけにはさすがにいかなくて、ほんとに学校行かないためには家出するしかないって思ったんです。
親にはすごく悪いことをしたんですけど……。あの家出がなかったら、何か良くないことになってたような気がする。最低限、作家にはなってなかったと思います。

――初めてのエッセイ集ですが、小説との違いはありますか?

そんなに大きな違いはないような気がします。ただ、エッセイはなるべく情報が伝わるとか、笑いが起こるとか、そういうところにいつもより気を遣っているかもしれません。小説は読む人の種類によっては情報が伝わらないことがあるかもしれないけど、エッセイはなるべくみんなに情報が伝わるようにしているのかな。

――たしかに、「底辺」だけどすごく笑えます。

私にとって「笑い」はすごく大事なんです。特にこのエッセイ、笑えなきゃ全然だめでしょう。悲しいだけのエッセイだと、読んだ人に悪いので……(笑)。
小説のときは笑いは抑えてるのかな、でもちょっと入れちゃいますけどね。「ルパンとレモン」(『檸檬のころ』の1編)の富蔵と西くんの会話とか、どうしても入れたくなるんです。
そもそもは、小学生のとき書いた作文に笑いを入れたら、教室がちょっと沸いたんです。他の作文にはあまり「笑い」の要素がなくって、じゃあ、私はこれで行こうと、毎回笑える作文を頑張って書いていたので、サービス精神が育ったのかもしれません。

――『檸檬のころ』も『底辺女子高生』も、「あの頃」のことをよく覚えてるなあ、と思います。具体的な出来事もそうですが、その時の「感情」や「印象」を。

それは性格だと思います。ちょっと先から見たら、今も過去じゃないですか。そういうのが常に頭にあって。例えば嫌な話ですけど、恋人と付き合っているときも、いずれ別れるっていうことが絶対的な決まりとして前提にあって、「現在進行」のことがすでに「思い出」みたいに感じていて……。だから場面場面が残るんじゃないかな。小学生の頃からそういうふうに感じてました。
未だに覚えているんですけど、小学校2年生くらいのときに観た「風の谷のナウシカ」のオープニングで、人のいなくなった場所に落ちている人形をユパ様が拾うんです。でも、その瞬間にその人形がパラパラって風化して、崩れて。それがすごく頭に残って、全部消えるんだ、いつかは、って思ったんです。その強烈な印象で、「はかない」っていう感じを常に覚えるようになったんだと思います。

――最後に、あえて単行本にしないで文庫オリジナルにしたのはどうしてですか?

このエッセイはあの当時の私と同じような、現役の高校生に一番読んでほしいんです。今はすごく大変で、あっぷあっぷかもしれないけど、いつかはどうにかなるんだよ、って伝えたい。だから、流通と価格の面で、田舎の高校生まで届くように、手に取りやすいように、と文庫本にしました。
高校生活から離れた大人の人には、「あの頃はあの頃で、良かったかもしれないなあ」と感じてもらえたら、と思います。





『底辺女子高生』
定価(本体495円+税)




豊島ミホプロフィール

一九八二年秋田県生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。二〇〇二年、「青空チェリー」で新潮社「女による女のためのR-18文学賞」受賞。著書に『青空チェリー』『ブルースノウ・ワルツ』『日傘のお兄さん』『檸檬のころ』『陽の子雨の子』『夜の朝顔』『エバーグリーン』がある。